ゴールデンという希望に満ちた響きとは程遠い今年のゴールデンウィークを目前に、衝撃的な情報が舞い込んできました。
文京区の旅館、鳳明館の無期限休館です。
【お知らせ】
— YASOSUKE【&鳳明館企画営業部】 (@yasosuke80) 2021年4月28日
HPに記載の通り、#鳳明館 は5月末日より暫く休業することになりました。https://t.co/KSar4uC5yp
八十介としての想いは、noteに綴りました。https://t.co/YnBfqUVTxo
まずは、社長や鳳明館に関わる方々の、苦悩と覚悟と決断に、心から敬意を表します。 pic.twitter.com/S9gUVCUnro
ラブライブ!サンシャイン!!第1期第7話『TOKYO』、第2期第12話『光の海』で、沼津から上京したAqoursが宿泊している旅館が鳳明館本館です。前回の記事から取り上げているように、ラブライブ! シリーズには景色の美しい場所や歴史的建造物ばかりが登場していますが、ここもその1つです。
建築年代は1900年ごろとされ、築120年に及ぶ歴史を持ちます。元々はすぐ近くの東京帝国大学 (現・東京大学本郷キャンパス) の学生のための下宿として、のちに旅館に転業して経営されてきました。ラブライブ! 本大会ではありませんが、旅館時代には東大の入試という大勝負に挑む若者たちが多数宿泊したことが想像できます。
もともとこの地域は旅館街でしたが、ほぼすべてが廃業するなかで令和の時代まで生き残った数少ない旅館として存在していました。そんな鳳明館も、昨今の社会事情からして経営が非常に厳しいことは予想できましたが、ついに来てしまった、そしてついぞ利用することができなかったというのが悔しい限りです。
2020年、鳳明館は歴史ある旅館としてはかなりアグレッシブな利用促進策を打っていました。各種のデイユースプラン、そして「旅館に缶詰めされる作家」をロールプレイできるプランなど、人気を博してきました*1。それでも、このような結果になってしまいました。上記はこのような様々な企画を行い、鳳明館のような旅館の活性化を支援していた八十介社のツイートです。
興味のあった場所に行けなかった悔しさをぶつけるべき相手は旅館でもこの状況を作った根本的存在でもなく、行動を起こさなかった自分です。休館まではあと1ヶ月あるので、無理をすれば行けるかもしれません。現実的なスケジュールを考えると厳しいでしょう。しかし、その「現実的」を繰り返した結果が今だと言わざるを得ません。
一番近くにあるものは、なかなか顧みるのが難しいものだと思います。以前私はこの旅館に定期券で行くことができました。それなのに、であり、だからこそ、だと思います。
形あるものはいつか失われます。聖地は所有者の事情の変化や自然災害によっていつ恒久的に失われるかわかりません。『劇場版ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Raibow』が沼津の記録映画の側面があったように、アニメに描かれている以上は記録と記憶として残ることができますが、巡礼を志す者にとってはそうではないことを肝に銘じなければなりません。そして、失われるのは自分の生命とて同じです。生きている限られた時間を費やすのに相応しいものがなんなのか見つめ直す必要がありますし、そうと決まったものから手を抜くことは生きている人間としてすべきことではありません。そうではないものは、残念ながら自分にとってその程度のものです。そのために命を懸けてくれる人への尊敬を忘れずに生きるしかありません。
今回の結論は、行こうとしなかった聖地に後悔は先に立たないということです。「行きたいところに行けるうちに行く」ことが非常に難しい時代ではありますが、その帰結は自分で受け入れるしかありません。
最後になりますが、今まで歴史的建造物の保存に貢献してきた鳳明館、および株式会社八十介の皆様、鳳明館を利用してきた皆様、そしてその美観を絵に残してくださったアニメ制作陣の皆様に感謝の意を申し上げます。
*1:これらの企画は専ら台町別館ならびに森川別館で行われ、"聖地"である本館では利用できないようである