普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

希望の花が実を結ぶとき/自由と勇気のルール ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑧『結ばれる想い』~

 ふと、1話の最初でかのんが歌っていた歌を思い出します。

ほんのちょっぴり悲しいときなら 背筋伸ばして声を飛ばせば いつでもそばで 光をくれた歌 手を繋ごう*1

 このタイトルすら不明の歌が、サントラに収録されることを期待しています。

 のちにLiella! と呼ばれるようになるスクールアイドルが5人揃い、結ヶ丘が一つになった最新の第8話は、この歌と少し関わりのある内容です。

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奏で始めたんだ、夢を
(『ラブライブ!スーパースター!!』第8話『結ばれる想い』より/
©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!/配信URL: 

https://www.youtube.com/watch?v=JpzjTuiOMjU )

 

1. 学校の創設者・葉月花 ~解答編~

 まずは、前回のお話を見て立てた大胆な予想が、どのくらい当たっていたかを検証してみます。

詳しくは前回記事 (2本) をお読みください

carat8008.hateblo.jp

carat8008.hateblo.jp

・花が亡くなったタイミングはおそらく結ヶ丘の設立が軌道に乗ってから開校までの間→×

 2年も前の出来事であると、恋の口から語られました。学校を作るには、中学生たちへの告知だけでなく、教職員を集めたり、教育計画を立て、入試問題を作り、前年には試行問題を出し……、等々時間がかかりますが、実務は理事長を中心に行ったと思われます。花にとっては登記*2を済ませ、さあこれからというタイミングだったと思われます。

 

・神宮の学校アイドル部は、廃校阻止に失敗したという説→○

・恋はスクールアイドルを中途半端で学校の役に立たない存在と見做し、その過去を受け入れていない→△

 神宮が廃校になったのは花たちが在籍していたころ、つまり今から約20~30年前。そして、花は学校アイドル部のリーダー格でした。

 恋がスクールアイドルに対してそのような自主的な判断をしていたとは思えませんが、花がそう思っていたのではないか……という誤解からスクールアイドルを受け入れることができなくなっていました。

 

・「特に音楽科の生徒は (歴史を) 引き継ぎ」(1話) という理事長の言動の意味

 これに関しては今もよくわかっていません。制服や校舎を見る限り、伝統を強く意識させられているのはむしろ普通科である気がします。音楽科が音楽科の学校の伝統を引き継ぐのは当然です。

 

・キービジュアルの制服を恋が着るには、転科することになる→不明 (8話で描写なし)

 

・花のアルバムで、花の隣に写っているのは (現) 理事長→○

 やはりかなり近しい仲だったと思われます。ただし理事長はスクールアイドルはやっていませんでした。もしかすると、虹ヶ咲における侑のような存在だったかもしれません。

 

・亡き友人が誤解されていることを苦々しく思う気持ち→×

 理事長の「切ない誓い」については後述します。

 

・花と理事長が、互いに最も信頼のおける関係であった→○?

 当時一緒にスクールアイドルをやっていた仲間を差し置いて一番に花のために動いてくれる人ではあったでしょう。

 

・おそらく立ち上げ当時は花も運営に携わり、開校に向けて従事していた→×

 先述の通り、実務に携わる前に帰らぬ人となったと思われます。

 

・花の理念が何かは明らかになっていませんが、私は「笑顔で溢れていた神宮音楽学校」を再興することだと想像しています。→△

 学校復興の経緯、どのような夢だったかについては後述します。

 

・7話冒頭に映る儚げな姿や、「サヤが来た頃は元気だった」という恋の説明からすると、晩年の花は病弱だった→?

 状況は不明ですが、急死だった可能性は考えられます。もともとナイーブな印象を受ける女性でしたが、その胸の内には熱いものがありました。

 

・夫にも先立たれた花にとって、最後の力を振り絞って取り組んだライフワークだった

→まず最大の誤解として、恋の父は死亡していません。そして、花が学校復興に取り組み始めたのも、もっともっと前の段階からです。

 

・恋には親族が1人も残っていない→△

 父は生存しています。しかし、後述の理由で、法的に恋の保護者になれる親族がいない可能性はあります。父自身は、恋の面倒を見ようとしてくれていますが……。

 

・理事長は、事実上恋の新しい母親ということもできる→?

 これも正直根拠が薄かったのですが、今回の出来事によって、理事長は初めて恋を本当の意味で花の娘として認めることができたかもしれません。

 

・恋が法律行為を行っていた件について

 恋の父が生きている以上、葉月家の遺産は父に受け継がれるはずですが、現実はそうなっていません。これは恋の両親が離婚していたからだと考えられます。恋はこの当時13歳以下であり、自分の意志でどちらに残るかを決めることはできません。この場合は先週考察したのとほぼ同じ状況になります。

 

2. 結女生が求めていたもの

 今回の最大の変化は、普通科と音楽科が手を取りあうようになったことだと思います。ネット上ではあたかも階級闘争のように囃し立てられていた普通科と音楽科の対立ですが、あれだけの出来事で簡単に和解できたからには、それで説明できない理由があったと思われます。

 まず、結ヶ丘の1期生たちは、まだまっさらの全く新しい学校に入学してきたのです。学校の理念は理事長から説明されていたし、入学を決めた時にも確認したはずではありますが、作品紹介でも「ないない尽くしの新設校」と紹介される新設校に入ってきた生徒たちの胸の内は、不安でいっぱいだったと思われます。

 人はそのように不安なとき、自分に勇気が足りなくて前に進めないとき、誰かのせいにして逃げがちなものです。大きな夢や目標を持ったほかのスクールアイドルや侑と自分を比べて、進む道を見失った歩夢が、侑が自分を置いていこうとしたせいにして、押し倒しさえしたのは記憶に新しいと思います。結ヶ丘の生徒たちも、それに近い心情だったのではないでしょうか。普通科はお高くとまっている音楽科のせいで自由な音楽ができない。音楽科は本気で音楽に向き合っているとも思えない普通科のせいで足を引っ張られている。そんな言い訳に過ぎないもののせいで、互いに溝を作っていただけなのです。

 彼女たちに必要だったのは、勇気ひとつでした。命を散らしても大きな夢を叶えた葉月花の、その夢の上に自分たちが立っていることに気づいた生徒たちは、分断を乗り越え、学校の厳しい状況にも向き合って、先に進む勇気をもらったのです。

 勇気を一番必要としていたのは、実の娘である恋でした。学校の現実を知ったら生徒たちは受け入れてくれないかもしれないと思った恋は、それを隠して自分だけで解決しようとしますが、それは自分を生徒会長に選んだ生徒たちへの背信そのものでした。そんな状況を理事長が許すはずがありません。花が自分を追い込み過ぎて壊れるのを止められなかった自責から、娘まで同じ目に遭うことは自分が止めなければならないと思っていたはずです。

 歌の力は、直接的に問題を解決することはできません。突然入学希望者が増えることはありませんし、葉月家の家庭問題も解決してはくれませんでした。ゴジラを撃退することも、実際にはできないでしょう*3

 しかし、困難な問題に直面した時に、少しだけ勇気をくれるのが、歌の力です。花たちはスクールアイドルで学校を存続させることはできませんでしたが、活動を通してその力に気づきました。人に心と心のつながりと、勇気の光をくれる歌。その力が未来の人々を結ぶように、作られた学校が、「結」ヶ丘女子高等学校だったのです。

 「前進怖れずに」、「喜びを分かち合って」。このふたつはかつてのスクールアイドルたちが心に誓った「ルール」です。5人になった新たなスクールアイドルが歌った『Wish Song』や、冒頭のかのんの歌とも重なるところがあると思います。

 

3. 歴史の到達点、新たな始まり

 結ヶ丘という学校は、葉月花の、あるいは神宮の最後の生徒たちの想いの到達点でありました。現実に目を転じれば、今のLiella! のある場所は、μ'sやAqoursの叶えた夢の到達点でもあります。もしかすると、花たちは彼女たちのメタファーといえるかもしれません。

 廃校阻止に失敗し、しかし自分たちの持っていた力に気づいて、学校の復興という新しい夢をついに叶えた学校アイドル部の経歴には、Aqoursと被る部分が多いと思います。しかしそれだけでなく、自分たちの足跡をはっきりと残さず、思い出の中に閉じ込めておいたスクールアイドルは、どちらかというとμ'sと言えるのではないでしょうか。『サンシャイン!!』12話『はばたきのとき』では、Aqours音ノ木坂学院を訪れ、そこにμ'sが何も残していかなかったことを知ります。そこで、千歌は自由に今という時を駆け抜けたことがμ'sの成し遂げたことだと気づき、自分たちも自分たちらしさを探して自由に生きることを決意するのです。知ってか知らずか、その決意の場所は、μ'sが今を生きるため、解散を決めた海岸でした。

 現実世界における最後の曲*4でμ'sは、「瞬間をリングへと閉じ込めて いつも眺めてたい どの指がいいかな」と歌いました。指輪には、つける指によってさまざまな意味があります (参考)。その意味を選ぶように、どんな未来を選ぶかは自分次第で、それが思い出だけでなく、新しい夢に繋がることは、きっと花たちも気づいていたのだと思います。

 Aqoursの時は、初めての後継スクールアイドルプロジェクトということもあり、「μ'sを超えるか」ということがずっと物議を醸していました。μ'sファンとAqoursファンの間にも、普通科と音楽科のような対立がありました。しかし、Liella! にとっては超えるか超えないかではなく、ラブライブ! の世界に根付く音楽の歴史を引き継ぐことが、もはや必然なのではないかと思います。劇場版『サンシャイン!!』や『虹ヶ咲』最終回を思わせる描写が中間回である8話で早くも登場していることは、その先に進む決意だと考えてよいでしょう。

 

4. 花の愛した「自由」

 学校に何も残していなかったμ'sとは少し違って、学校アイドル部は部室の一番奥の宝箱に、すべての思い出の記録を閉じ込めていました。それは、自分たちの最高の思い出を消さず、それと同時に、花たちが夢を叶えたとき新しい学校に入ってくる生徒に、自分たちの背中を追わせまいとしたからです。娘の恋が生まれてからは、恋もその想定に入っていました。

 ここまでのμ'sとの比較で説明した通り、花にとって仲間とともに困難に立ち向かい、ともに笑いあった日々は「自由」でした。そして、新しい学校もそうであるべきだと考えていたでしょう。

 理事長は、花のスクールアイドルとしての活躍を秘密にしてほしいと頼まれたとき、その意味に気づいていたはずです。もしその想いを生徒の前で言葉にしていたとしても、言葉では伝わらなかったかもしれません。言葉すら足りなくて気持ちがすれ違い、離れてしまうこともあります。本当に大事なことには、自分で気づかなければいけないのです。

 理事長は、生徒が必ず花たちの想いに辿り着くと信じて待ち続けました。実際、あと少し遅かったら生徒たちの絆が完全に崩壊するところでした。スバラシイドキョウノヒトです……。親友との約束をこれほど頑なに守り、信じることができるところは、少々やりすぎな点も含めて、千砂都と似ていると思います。千砂都に退学の相談を受けたときには、自分と重なるところを感じたかもしれませんね。余談ですが、身内に対しては態度が砕ける辺りは、かのんとも似ていると思います。そんな理事長が花と親友だったということは、恋がかのんや千砂都と絆を結ぶ運命を示していたのかもしれません。

 

 名もなかった気持ちの名前を見つけつつある5人自身には、まだ名前がありません。「Liella!」という名前を付けるのは誰か、次回が楽しみです。

 

 

 

*1:歌詞の表記は不明

*2:前回の記事で紹介したがこれも「寄附行為」と呼ばれている。紛らわしい

*3:μ'sが出場した翌年の、第67回紅白歌合戦

*4:のちに新曲が出て、最後の曲ではなくなった