ラブライブ! シリーズとは、「みんなで叶える物語」でした。ところが、『スーパースター!!』は「私を叶える物語」というキャッチコピーがついています。それを代表するようなエピソードが描かれたのが、この第11話でした。
過去を克服という意味で繋がりのある前回
かのんの夢と、千砂都の夢が、このとき同時に叶ったのです。
1. あなたを叶える物語
今回の話を理解するうえで、まずは第6話『夢見ていた』を振り返る必要があります。
幼い頃、弱かった千砂都を守り、笑顔をもたらしたヒーローがかのんでした。何もできなかった千砂都は、強くなって、かのんを守れる存在になること、かのんと並び立つことを決意します。そして時が経ち、千砂都はダンスでは右に出るものがいない存在になりました。明るい性格で友達もたくさんいて、音楽科にも合格し、その長年の努力は身を結びつつありました。それでも、ダンスをやりきり、極めるまでは、かのんと同じスクールアイドルにはならず、やりきったと思えば音楽科すら辞めてしまい、晴れてスクールアイドルの仲間入りを果たしたのです。
しかし、まだ千砂都の夢は叶ったわけではありませんでした。この間に起きた出来事が、かのんを変えてしまったのです。小学生の時、合唱の舞台で倒れてしまったことをきっかけに、人前で歌うことを極度に苦手とするようになりました。ずっと一緒にいた千砂都にはそれを知る機会がそれ以外にもあったかもしれませんが、かのんが決して強いだけの人ではないことを、千砂都は知ってしまいました。
かのんは、妹のありあにも松岡█造だと思われている節があった (笑) ように、みんなのことを鼓舞し、勇気づける存在でした。しかし、誰かに勇気を与えるかのんには、勇気をくれるかのんがいなかったのです。かのんは、自分自身の抱える弱さに向き合うことができていませんでした。
そんなかのんの一面は、かのんに憧れ、人生を捧げた幼馴染の千砂都にしか見えていないことでした。千砂都の人生を懸けてダンスを極めたいという気持ちは、それによっていっそう強化されたことでしょう。
余談ですが、それと対照的な幼馴染関係が『虹ヶ咲』の侑と歩夢で、惰性で一緒にいただけだった歩夢には侑の成長が、侑には歩夢の抱える不安が見えていない、ということがありました*1。
そして千砂都は、自分に課した目標を無事達成します。これでかのんと並んで、スクールアイドルを始めることができました。しかし、そこで終わりなら今までのラブライブ! と変わらないのです。ここからが『スーパースター!!』の凄いところです。
千砂都は憧れたかのんと並んで立つことが夢だったのですから、かのんにも憧れのヒーローとして千砂都の隣に並んでもらう必要がありました。
ラブライブ! シリーズはこれまで、一緒だからできたこと、共に成し遂げた奇跡を描き続けてきました。しかし、そこから先、一緒でなくなった後のことを描く前に、メンバーは卒業してしまい、物語は終了してしまいます。劇場版『サンシャイン!!』は確かにそこに肉薄しました。そこでは、「一緒じゃなくても心の中にみんながいる」という結論に至り、だからそれぞれの道へ進めるのだと歌われていました。
しかし、「心の中にみんながいる」ということの真の意味は、自分のやってきたことによって出会いが生まれ、それが自分を変えて、今の自分がいるということでもあると思います。自分の選択が、信じてきたことが、困難の中でも好きでい続けられたことが、今の自分を作る。それが「私を叶える」ということの意味です。最終的には、他でもない自分自身を信じるということに繋がるのです。
千砂都はそうしてLiella! の中心に立ち続けたかのんのことを、グループに入る前から見続けていました。その中でも、自分を導いてくれたかのんへの憧れを失ってはいませんでした。勇気を出すことが簡単なことではないことに気づいてしまったかのんでも、否、そんな今のかのんだからこそ、あの日憧れ、挫折したステージに立てるはずだと信じていました。
千砂都がかのんを信じてとった行動は相当に厳しいものでありましたが、考えてみれば理事長が恋をはじめ、生徒たちにとった行動も同じように厳しいものだったと思います。信じるということは、相当の覚悟が必要です。
これほど人のことを全面的に信じられる人が、あなたの周りにいますか? あなたのことをたくさん知っていて、それでもなお信じてくれる人はいますか? もしかすると人生の伴侶か、血の繋がった親族でも難しいかもしれません。
2. 私のSymphony
Liella! の曲の中で5本の指に入る好きな曲*2が流れました。1話の感想週報で2番の歌詞の一部を取り上げましたが、これは今思うと、千砂都や恋のことでもあると同時に、かのんのことでもありましたね。
「なんでもできそうなあの子も いつも笑い絶やさないあの子も 迷いながら 戸惑いながら きっと夢をみてる」
この直前の歌詞は、「グズグズしてた過去に メッセージを送れるのなら 「今は楽しいよ」って言いたい! だってこんなに高鳴ってるよ」と綴られています。
幼い*3かのんが勇気を出す難しさに初めて気付いたあの日は、決して夢の終わりではありませんでした。失敗しても大好きな歌を諦めず、希望とは違っても結ヶ丘に入ることができ、そこでスクールアイドルという世界に手を伸ばしてきたかのんの日々は、その日から始まっていました。「今は楽しいよ」の言葉が、もし過去の自分に届いていたなら、どんなに救いになるでしょう。そして今の自分も、自分自身の力で勇気づけることができたのでしょう。
過去は変えることができないけれど、今を積み重ねることで過去の意味を変えることができる。「今」のμ's、「未来」のAqoursに対して「過去」のLiella!、という捉え方をしたとき、私たちはそのような想いを受け取ることができるはずです。
これまた余談ですが、9話挿入歌の『Dreaming Energy』と今回の『私のSymphony』について、デビューシングルの『始まりは君の空』には、バージョン違いでどちらか一方しか収録されていません。これが『スーパースター!!』が続けている「ポケモン商法」*4ですが、その両方の文脈をアニメに落とし込む技法には脱帽してしまいました。ヒトツダケナンテエラベナクなってしまった視聴者の方も多いのではと思います。
3. ほのかな予感から始まった"世界"
この物語がシリーズ世界のどこに位置づけられるか、ラブライブ! のルールなどから予想を続けてきました。この世界のラブライブ! には「都大会」が存在し、大会の流れが異なるものになっているようです。
それよりも注目を引いたのが、Liella! と同時に都大会進出を決めた「ネオ・ミュータントガールズ」の存在です。
「ミュータントガールズ」といえば、『ラブライブ!』で穂乃果の夢の中に出てくるスクールアイドルです。今回と同じく、μ'sの予選突破のときに、μ'sの名前を読み上げると思いきや「ミュータントガールズ」だった、というしょうもない夢オチでした。
それが、現実のスクールアイドルとして誕生したのです。
もっとも、これはファンサービスというか、ただのオマージュだと思います。しかし、『スーパースター!!』という作品が実現するに至ったこのシリーズが、元々「穂乃果の夢」から始まったということに間違いはありません。
ここでは、もう少し過去作を思い出す要素を洗い出してみます。
・千砂都が想いを語るシーンは表参道の「秋葉神社」です。同名の神社は火消しの祭神で、秋葉原の名前の由来にもなりました。秋葉原の秋葉神社は、現在は上野に移設されています。
・ネット経験に乏しい恋が、怪しいサイトのバナーをクリックしてしまいます。シリーズでサイバーセキュリティといえばAqoursです。Aqoursは内閣サイバーセキュリティセンターの広報に登場し、様々なインターネット上の脅威への対策の啓発運動を行いました。今回も、Eテレのアニメとしての教育要素を感じるエピソードですね。