普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

そして最後に希望が微笑む ~ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA 感想週報㉕(終)『笑顔を信じるものたちへ ~PULL THE TRIGGER~』~

 ウルトラシリーズの最終回は基本的に前後編なので、始まるときに寂しいという気持ちはありません。前回でピンチに陥ったり、最後の戦いに赴いたりして、どうなるのだろうと固唾を呑んでTVをつけます。

邪神との戦いが幕を開ける

carat8008.hateblo.jp

 

 今回はそれに加えて、『トリガー』が難しいテーマに答えを出せるのか、という意味でも固唾を呑んでいました。結論から言えば、その心配は無用だったのですが……。

 『トリガー』が『ティガ』から受け継いだそのテーマとは、「光か人か」。今回の場合は、あるいは、「闇」かもしれません。

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トリガーの真の姿、真の想いとは……
 (『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』第25話『笑顔を信じるものたちへ ~PULL THE TRIGGER~』より/©円谷プロダクション/配信URL https://www.youtube.com/watch?v=k33avWcREuw)

 

1. カルミラとトリガー

 トリガーを求めて狂うカルミラ。トリガーを変えてしまったケンゴ (実はトリガー本人) のことも、闇のトリガーと一体化したイグニスのことも憎んでいました。闇の4巨人だったころのカルミラにとって、トリガーたち他の巨人は作戦を遂行するための駒でしかなく、無口で従順なトリガーのことは愛している風でありながらも、闇の一面しか見えていないようでした。だからそんなトリガーを光の巨人にしたケンゴを恨み続けていたのです。

 しかし、カルミラには、トリガーと共に戦った過去がありました。その時のカルミラとトリガーの関係は、確かに仲間であったように思われます。カルミラは、本当は本当の意味でトリガーのことを一人の巨人として愛していたのだと思います。エタニティ・コアを奪取する企ての中で、カルミラのほうがおかしくなってしまい、そのことを忘れてしまっていたのでしょう。

 トリガーは、光でもあり、闇でもある存在でした。つまり、一人の人格です。カルミラはその闇の部分だけをトリガーだと思っていたので、トリガーが狂ったのだと思ってしまったのです。しかし、ケンゴはイグニスとの共闘を通して、闇のトリガーもトリガーであることに気づきました。そして、メガロゾーアに対抗するためのエタニティ・コアの力を使うためとはいえ、光も闇も抱いた姿・トリガートゥルースとして、変わり果てたカルミラの前に姿を現しました。

 メビウス・フェニックスブレイブ以来15年ぶりの「最終回限定形態」であるトリガートゥルースのデザインですが、赤と紫のティガを基にした配色に、現代のウルトラマンらしい金と黒のデザインが割り込む、まさしく「新世代のティガ」に相応しい姿をしています。この9年間、ウルトラマンの持つ光と闇の要素を描き続けてきた円谷が生み出した勇姿です。

 ケンゴは確かにトリガーの光が分離した存在ですが、それは決して闇を否定するものではありませんでした。カルミラが好きだった闇のトリガーのことも否定しなかったからこそ、カルミラが愛したトリガーが光でもあったことをカルミラに理解させ、浄化することができたのだと思います。

 カルミラの最期は笑顔でした。ウルトラマンのマスクは、表情が変わることはない*1のですが、演技や演出のおかげで笑ったり怒ったりするように見えることがあります。ずっと泣いていたカルミラも、消える寸前に安らかな表情になりました。

 

2. 「輝けるものたち」の想い

 ゴルバーと戦った1話と同じく、最終回も『ティガ』最終回のガタノゾーア戦を意識させる演出でいっぱいでした。それどころか、この戦いのことが直接言及されました。

 メガロゾーアと戦うトリガートゥルースを街頭テレビ*2で見ていた子どもたち、それに大人たちも、トリガーに必死の声援を送りました。その姿を見たシズマ会長は、かつてティガがガタノゾーアと戦い、応援する人々が光となって共に戦ったことを思い出しました。そのことを「笑顔には世界を救う力がある」と述懐していましたが、私からするとそれは意外な解釈でありました。

 一度石像に戻ったトリガーを復活させたのは、「笑顔」なのでしょうか。私はあまりそう思ったことはないのですが、『ティガ』本編をちゃんと見たことがなかった*3のではっきりしたことは言えません。正直取ってつけた解釈のようにも思えたのですが、シズマ会長がそう思ったのですから仕方ありません。ただ、ラストシーンを見ると、それに対する感想は少し変わりました

 

3. 「ルルイエ」と笑顔の意味

 メガロゾーアを倒しても、カルミラが引き起こしたエタニティ・コアの暴走が止まりませんでした。実のところ世界滅亡の脅威はこちらにあったのです。ケンゴは、独りで身を挺して暴走を止めに向かいます。戦いを終えたと思ったのに仲間が旅立つことになってしまったGUTS-SELECTのメンバーたちは、涙を呑んでケンゴを見送ります。

 ただ一人、アキトだけが子供のように駄々をこねていました。

「笑顔になってほしいなら、1日でも早く帰ってこい」

 『トリガー』は「笑顔」がキーワードになっていながら、最後の最後まで笑顔がどういうものなのか描かれてきませんでした。1話1話は面白くても、全体を通したテーマに消化不良を抱えていたように思います。しかし、直前の復活ダーゴンとヒュドラムとの戦いでも、隊員たちが2人を足止めしながら、エタニティ・コアの力を集めるユナに対して「スマイルスマイル」という言葉を使って、仲間を信じて自分の使命を全うするよう訴えました。「笑顔」が信じることや愛することと繋がっているのは間違いないでしょう。

 その言葉がかけられた後、ケンゴが火星から持ってきた花、ルルイエがついに開花します。ルルイエは超古代語で「希望」。旅立つケンゴの安否を案じていたGUTS-SELECT隊員たちの胸にも「希望」が咲いて、笑顔になることができたのだと思います。

 つまり、先程のティガになった人々の光が「笑顔」だというのは、絶望的な状況の中でも彼らが「希望」を持ったからだということができそうです。そうすれば闇の中でも笑顔になることもできるし、世界を救える力にもなるのです*4

 

4. 総括 ~「光であり、人である」とは結局どういうことか?~

 ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』は、『ティガ』の再解釈を試みた作品です。坂本監督が「リメイクやリブートではなく、『ティガ』の衝撃を現代の子どもたちに与えること」を目標にしていると言っていましたが、現実にはこの言葉が独り歩きし、ファンに多くを期待させ過ぎたところがあったと思います。『ティガ』の衝撃を受けたかったら、今やTSUBURAYA IMAGINATIONで簡単に観ることができる『ティガ』を観ればよいのです。実際の『トリガー』は、当時より大きく向上した映像技術とニュージェネレーションシリーズの積み上げをもとに、「光であり、人である」というキーワードを取り上げて『トリガー』にしかできない描き方を目指してきました。

 前回、光とは「運命を背負い、命を賭して立ち向かう」ことだと書きました。世界を照らす存在になるために、自己を犠牲にできるものが光です。ではそれと対になる闇がどんな存在か考えると、「運命に呑まれ、負の状態に命を投げ込んでいく」ことだと思います。トリガーを偏愛するあまりトリガーそのものが見えなくなっていたカルミラもそうですし、復讐に燃えていたころのイグニスもそうでした。

 今回、トリガーが「光であり、人である」だけでなく、「闇」の側面も併せ持つことが強調されました。つまり、拡張して言うならば「光であり、闇である。ゆえに人である」と言えるかもしれません。

 その「人」とは、「かけがえのなさ」をもつ存在です。例えばケンゴ、アキト、ユナ、イグニス、それにたくさんの仲間たちがそれぞれに光と闇の部分を持っていて、運命に曝されながら未来を目指す一つしかない命そのものが、「人」らしさだと思います。「私は運命なんか信じない」というユナの言葉は、その意味では『ティガ』のダイゴの「人としてできること」という言葉と重なるところがあります。元は「ヒト」という言葉と同源ですが、ここでは種族は関係ありません。そして、かけがえないからこそ、愛し愛される存在であります。強くて弱い生きものだから愛おしいのです。トリガーを愛しながら、愛を忘れてしまったカルミラは、だからこそかわいそうな存在だと思います。

 個人的には、ケンゴやユナが自分の大きすぎる運命に気づくまで、「光」編とでも呼べる前半よりも、それに仲間と手を携えて立ち向かう後半、言うなれば「人」編の方が面白かったように思います。イグニスの活躍も含めて、それはニュージェネレーションの強みが出る内容で、それこそが真の『トリガー』らしさだと思います。

 

5. He'll be back in Ztwo months.

 そんな『トリガー』ですが、なんと劇場版*5が控えているのに主人公の消息不明で幕を閉じるという衝撃的な幕引きでした。ケンゴは間違いなく帰ってくるのですが、本編単体で見ると「旅立ったケンゴが守った星は笑顔に満ちていて、GUTS-SELECTはその笑顔を守っている」という全く違う結末になってしまいます。おそらくそれが目的で、本編単体で完結を描きたかった、逆に言えば「続きは劇場版で」にしたくなかったのだと思います。本編だけで綺麗に完結した『Z』の影響を受けてのことかもしれません。

 『トリガー』は放送期間が少し長引いたので、『エピソードZ』はわずか2か月後です。今から楽しみでなりません。

 


 今回で『感想週報』シリーズは一旦お休みになります。今後も大好きな作品のことを書き留めるために取り組んでいこうと思います。もちろん『エピソードZ』の感想も執筆予定です。『感想週報』としては、次は4月にお会いしましょう。

*1:トリガーダークなど、一部の例外を除く

*2:TPUの監視カメラの映像であるが、どうしてそんなところに仕掛けられていたのだろうか……

*3:TSUBURAYA IMAGINATION配信で視聴中。本記事執筆時点で35話まで視聴済み

*4:そうすると笑顔と世界を救う力は疑似相関ではないか? という疑問が生じるが、細かなロジックの話には今は踏み込まないでおく

*5:正確には劇場OVというべき