本日4月5日 (火) で、Aqoursの3rdシングル『HAPPY PARTY TRAIN』発売から5年が経ちます。このシングルに付いているアニメーションPVでは、Aqoursが機関車の前でダンスを披露し、列車に乗って旅立つところと、センターの果南が列車でAqoursの皆のところへ向かう様子が並行して描かれています。
このダンスシーンのモデルになった場所について調べていくと、Aqoursと同じようにいろいろなことを乗り越えてきたことがわかりました。今回は、このPVの聖地巡礼の記録を交え、Aqoursの想いを乗せて、この5年間未来へ向かって運んできた「列車」について特集します。
1. HAPPY PARTY TRAINとは?
『HAPPY PARTY TRAIN』は、2017年4月5日に発売されたAqoursのアニメーションPV付き3rdシングルで、表題曲の他『SKY JOURNEY』と『少女以上の恋がしたい』が収録されています。TVアニメ1期と2期の狭間で、思い出を「ポケットの中」に詰めて、次の夢に向かって旅立つ9人と、旅の出会い、別れ、先に何が待つか分からないワクワクを歌っています。センター総選挙が行われ、アニメ1期で人気が上昇した果南が選ばれました。このこともあって歌詞は特定のメンバーに注目したものにはなっていませんが、果南役・諏訪ななかさんや、果南推しのラブライバーにとって大切な1曲になりました。『恋になりたいAQUARIUM』と交代で、5th以前のライブではDay2で披露されることが多く、私も現地で3回聴いたことがあります。
HAPPY PARTY TRAINを聴いたライブの一例
2. HAPPY PARTY TRAINはどこにある?/豊後森機関庫巡礼記
2. 1. 伊豆箱根鉄道駿豆線
PVの冒頭、果南が乗り込んでいる列車は、伊豆を走る伊豆箱根鉄道駿豆線です。ラブライブ! シリーズ、とりわけ『サンシャイン!!』と切っては切れない関係にある西武グループの鉄道会社です。曲発売後の2017年4月8日に、ずばり『HAPPY PARTY TRAIN』というラッピング電車を登場させました。短期間で終わりがちなこの手のラッピングの中で、『HAPPY PARTY TRAIN』は5年間そのままの姿で走り続けています。ライブ会場のサーチライトのようなメンバーカラーの斜めストライプは、ラブライブ! 抜きに電車のデザインとしても斬新ではないでしょうか。
2. 2. D52形
PVのダンスに登場し、9人を運んでいく機関車は、煙突の手前に給水温め器と呼ばれる円筒状の部品をもつ独特なスタイルをしています。これは有名な「デゴイチ」ことD51形の特徴ですが、この機関車はD51のモデルチェンジであるD52形だと思われます。全国で走っていた機関車ですが、御殿場線の機関車として知られており、沼津ゆかりの車両だからです。『Aqours CLUB 2018 GOLD EDITION』の特典映像で、実際にこの機関車が保存されている沼津駅北側の高沢公園をキャストが訪れています。ちなみに、高沢公園のD52-136号機は、戦後に函館へ渡った経歴もあります。ますます『ラブライブ! サンシャイン!!』を感じますね。
では、ダンスを踊っている場所はどこかというと、沼津近辺のどこにもありません。それどころか、その場所は遠く離れた九州にあります。
2. 3. 豊後森機関庫公園
博多から特急列車で2時間弱のところにある、大分県玖珠町の豊後森駅のすぐ横に、その「聖地」はあります (トップ写真)。なかなか行く機会がありませんでしたが、今年1月9日 (日) にようやく行ってくることができました。
東京を始発の飛行機で出れば、特急『ゆふいんの森』に乗って11時台には到着できます。『ゆふいんの森』は座席の位置が高く、大きな窓から景色が眺められるおすすめの列車です。しかし、私は前日大分に宿泊していたので、普通の特急『ゆふ』で豊後森駅に着きました。玖珠町の名前は、大きなクスノキから名付けられているそうです。駅の跨線橋からは台形の山が見えますが、これは伐株山と呼ばれ、伝説の大クスノキの切り株とされています。
駅から1 - 2分歩き、踏切を渡ると機関庫のある公園に着きます。この機関庫は扇形庫と呼ばれる形で、手前の転車台で車両を回転させて車庫から出し入れする仕組みです。この建物は1934年から使われていて、太平洋戦争で受けた機銃掃射の弾痕も残されています。解体される可能性があったところ、2001年から保存活動が盛り上がり、町が施設を買い取って保存が決まりました。余談ですが、『ラブライブ! サンシャイン!!』の劇中に登場する浦の星女学院校舎も、廃校後に保存が決まったことが2021年のEXTRAライブで明かされました。
この場所は公園として整備されていて、機関庫の歴史やJR九州の様々な列車に関する展示を行う豊後森機関庫ミュージアムや、子ども向けのミニSLも設置されています。
ちなみに、背景にある風車は実際にはありませんが、機関庫から後ろを振り向くと、遠方に風力発電所があります。
2. 4. 29612号機・久大本線とAqours
ところで、豊後森機関庫公園にも機関車が保存されていますが、AqoursのPVに出てくる機関車とは、よく見ると形が違います。こちらは9600形という、より古い型の機関車です。では、この29612号機とAqoursには何の関係もないのでしょうか。
実は、この機関車は昔から豊後森にいたわけではありません。29612号機が福岡県から移設されてきたのは2015年6月10日と、比較的最近のことです。こちらも解体の危機にあったところを引き取られてきて、福岡県内のNPO法人がいつも綺麗に補修・整備を行ってくださっています。訪問した日は、ちょうどペンキを持った人たちが集まり、機関車を黒く塗り直していました。
そして、Aqoursの「結成日」は2015年6月30日です。Aqoursが踊っていたのは、Aqoursの誕生とほぼ時を同じくして機関車がやってきた場所だったのです。PVの途中で機関車が出現するのは、このことを示唆しているのでしょうか……?
この機関車と、豊後森を走る久大本線の歴史を年表にまとめました。実は、2017 - 2018年や、2020 - 2021年を見ると、大変な事態に直面していた時期が近いことがわかります。特につい最近まで久大本線も運行できなかったり、Aqoursも長期間ライブができなかったりして、お互い大変な状況を乗り越えて、今があるのです。
2. 5. 地元で愛されるAqours
豊後森機関庫公園から駅までの道沿いに、ラブライブ! グッズでいっぱいのスポーツ用品店がありました。展示されているグッズは全て、ここを訪れたラブライバーの寄贈だそうです。10時が開店時間とはなっていますが、私がここに立ち寄った11時過ぎにはまだシャッターが開いていませんでした。ここには立ち寄れないのかと思い、外から見て駅へ戻ろうとすると、ちょうど店主の女性が外出から帰ってきました。ほとんど私のためにといってもよいですが、店を開けてもらい、中を見せていただくことができました。外から見えるところのみならず、店内のカウンターや棚に至るまで、フィギュアや寝そべり、缶バッジ、クリアファイル、その他諸々のノベルティに至るまで多種多様なグッズで埋め尽くされていました。この店は本来スポーツ用品店のはずですが、簡単なカフェを兼ねていました。
私のすぐあとにもう1人ラブライバーの方がやってきました。福岡県に住んでいましたが、もうすぐ転勤ということでなかなか来られなかった豊後森を訪れたそうです。コーヒーを待つ間、2人でライブの話などをして盛り上がりました。その方の次の転勤先は、なんと私の職場のすぐ近くでした。Aqoursは、いつでも不思議な偶然を連れてきてくれます。
3. Aqoursと鉄道
オマケとして、これまでのAqoursと鉄道との関わりもまとめておきたいと思います。
先程も取り上げた駿豆線では、『HAPPY PARTY TRAIN』のほか、『恋になりたいAQUARIUM』『Over the Rainbow』の、最大3編成のラッピング電車が走っていたことがありました。Aqoursを代表して、諏訪さんが何度か三島駅の一日駅長を務めたこともあります。『スクスタ』のイベントにも登場します。
・西武鉄道
伊豆箱根鉄道の親会社です。メットライフドーム (現・ベルーナドーム) でのライブ時などに、コラボスタンプラリーが開催されました。また、Aqoursメンバーがラッピングされた特急車両を使ったツアー運行も行われました。
ベルーナドームこと西武ドームのほか、1stライブの会場となった横浜アリーナの経営権も取得し*1、また埼玉西武ライオンズとAqoursのコラボも決定するなど、Aqoursと切っても切れない関係になっています。メットライフドームでの初めてのライブとなった2ndライブ当日には、車掌さんが「駅などで赤いブレードを振ると、電車が緊急停止し、『ダイヤ』が乱れる」と放送した電車があり、語り草となりました。
・山手線
山手線の業界用語とかけて、ファンの間では「ヤテライブ」と称されることもあります。2020年まで毎年のように、『スクフェス』シリーズのラッピング電車が運行されていました。2018年には、元日の終夜運転に使われた電車のうち11本中10本が『スクフェス』という珍現象も発生しました。
・鉄道跡地でのライブ
かつて、鉄道は物流の最重要手段でした。各地の駅から集められた貨物は、ヤードと呼ばれる巨大な操車場に集められ、貨車ごと行き先別に繋ぎ替えられて、目的地を目指していました。そのための広大な敷地が不要になった現在、そこには商業施設やアリーナなどが建設されることが多くなりました。すなわち、元は操車場だった場所でライブが開催されることもあります。例えば、紆余曲折を経て2021年に開催されたAZALEA 1stライブの会場であるゼビオアリーナ仙台は、東北本線長町駅の貨物ヤードでした。また、ラブライブ! フェスや中止に終わった『PERFECT WORLD』の会場であるさいたまスーパーアリーナは、大宮操車場の跡地であるさいたま新都心にあります。
豊後森と同じ機関区の跡地が、沼津にもあります。こちらは現在、劇中にも登場するプラサヴェルデ (正式名称は『ふじのくに千本松フォーラム』) となっています。この施設にある『キラメッセぬまづ』に、2ndライブで実際に使用された機関車の大道具が展示されています。これは2019年までは駿豆線の修善寺駅に展示されており、展示終了後に移設されました。キラメッセぬまづはAqours5周年展示会の会場となったほか、今年8月にはファンミーティングの開催も予定されています。
お知らせ
この記事をお読みになった方はお分かりになったかもしれませんが、私は大の鉄道好きでもあります。鉄道関係の内容を扱ったブログ『週刊てつくず』でも、4月7日 (木) に豊後森機関庫公園に関する記事を投稿する予定です。こちらでは、鉄道に関する切り口を中心にこの場所のことを紹介していきたいと思います。合わせてお読みください。
2022. 4. 7 記事を公開しました!
*1:西武の経営下ではAZALEA 2ndライブを実施