普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

想いと想いが強め合う瞬間 ~ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会第2期感想週報②『重なる色』~

 『アニガサキ』の大半の回では、一番最初のモノローグでその回を表現する既存曲の歌詞の一部が引用されます。ところが今回、驚くべきことが起こりました。ここを彼方とエマの2人で言ったのです。

「みんなとなら、見慣れた街だってまるで違う景色になる」

「それぞれの色が混ざりあう、明日を作ってみよう」

 これを早押しクイズ的に楽しむ見方もできそうです。正解は『Sing & Smile!!』ですね。

 さて、そうなると、今回はQU4RTZの4人の当番回になることが想像されますが……。

f:id:Carat8008:20220410001445p:plain

この構図、最近ニュースで見ませんでしたか?
(『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第2期第2話『重なる色』より/
©2022 プロジェクトラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会/配信URL:https://www.youtube.com/watch?v=50SkvC7N3zk

 

鐘嵐珠、襲来!

carat8008.hateblo.jp

 

1. 勢いのすごいOP

 OPテーマが初公開となりました。その名も、『Colorful Dreams! Colorful Smiles!』です。最近のニジガク全体曲らしい、スピード感のある楽曲でした。

 映像では、13人それぞれに見せ場があり、メンバーそれぞれがお台場の風景の中で飛び回る様子が見られます。そのため場面の切り替えがとても激しくなっています。侑が歌っていないにもかかわらず歌っているように見えるサビ前のワンカットも、ニクイものです。
 サビは、レインボーブリッジの下の人工島で、全員で踊っている煌びやかな映像です。サビの間に12人全員にアップするので、疾走感の激しいカメラワークとなっています。
 極めつけが彼女たちの着ている衣装です。スカート部分が鍵盤をイメージしたものになっていて、ステージに立たなくても、侑がこの映像を構成する一部分になっていることが見て取れます。アイドルとファンが別個の存在ではなく、アイドルをやっているかやっていないかという立場の違いでしかないことを感じさせてくれます。

 その侑ですが、OP冒頭でついに完全水没してしまいました。「水」に関する考察は1話の感想で書いたばかりですが、侑たちにとってそれが硝子の壁の中に閉じ込めておけるものではなく、世界に広がっていくものだということを再認識させられました。

 

2. 曇る慈愛の表情

 さて、私はニジガクメンバーの中でエマ・ヴェルデが大好きなのですが、今回エマの表情は冒頭から曇っています。いかにも不穏なのですが、『アニガサキ』において、エマの表情が暗くなる理由ははっきりしています。エマと一緒に過ごす時間が長い果林には見抜かれていましたが、その表情を見せるときは、誰かのことを案じているときなのです。溢れる優しさゆえに、本当の気持ちを隠してしまう相手には気を揉んでしまうのですね。1期5話では果林に対してその気持ちを抱いていました。今回エマがアプローチしようとしていた相手である嵐珠の場合は、もう一段階深刻そうです。

 もう少し突っ込んだ話をすると、エマは人の痛みがわかるというより、人の痛みを本当に自分の痛みとして感じてしまっている可能性はあります。そこまでいくと自他境界が曖昧ということになるのでしょうが。エマが一番恐れているものは、孤独の寂しさです。アニメでは語られていない設定ですが、エマがスクールアイドルに出会ったのは、両親が家に帰れなくなった雪の夜で、スクールアイドルが寂しさを癒やしてくれたのがきっかけでした。エマには孤高よりも孤独に映る嵐珠が、その辛さをフラッシュバックさせたとも考えられます。
 とはいえ、ひとりぼっちの嵐珠のことを気にかけていることさえ最初からわかってしまえば、私の気持ちは不穏な展開に対する不安ではなく、エマを応援したいというものになります。『アニガサキ』のストレスフリー設計がばっちり機能しています。

 

3. 動き出す新メンバーたち

 前回衝撃的な初動を見せた嵐珠に続き、栞子とミアも動きを見せました。

 生徒会でSIFに向けて調整を進める栞子が登場します。SIFと学園祭の日程が近いこtから、SIFを楽しみにしている生徒のことを心配しています。栞子は善意の塊です。2つのイベントの板挟みになったとき、どのような行動をとるのでしょうか。そして、スクールアイドルのライブへの歩夢の誘いに対しては、答えるシーンが描かれませんでした。口を開けば他者のことになる栞子自身の気持ちは、表現できるようになるのでしょうか。

 補講に参加する気のないミアも、気がかりな存在です。廊下で聴こえた音を頼りに、遅刻してきた聴音試験に一瞬で全問正解して、そのまま答案を叩きつけて立ち去ってしまいました。もちろんミアはあの場にいる誰よりも、おそらく先生よりも才能があるのですが、気ままにしたいがために最低限の人との接触すら避けている様子が見て取れます。嵐珠とは利害の一致で一緒に来ただけといいますが、後述するように波長は合いそうに見えます。

 

4. 他者は要らない?

 今回も学校外でのゲリラライブ*1で圧倒的実力を見せつける嵐珠ですが、エマの再三の同好会への誘いを改めて一蹴します。エマはただ同好会に来てほしくて言っているわけではありません。嵐珠が自分の気持ちに正直でないことを疑っているのです。

 嵐珠は、誰かと関わることで自分の自由が制限されることを怖れています。普通なら、誰とも関わらずにスクールアイドルをするなどということは不可能で、そこで終わってしまうのですが、嵐珠はそれを有り余る才能でカバーできてしまいます。1話の感想でも述べた通り、嵐珠は誰よりも人を魅了するスクールアイドルになるために、絶対的である必要があると考えています。裏を返せば、その絶対性を見せつけなければ、スクールアイドルとしての存在意義がなくなってしまうと考えているのです。実力へのこだわりは相当なもので、実力で誰かを見返そうとしているのかと思えるくらいです。その「誰か」こそが、嵐珠が人を信じない理由かもしれません。

 そういえば、『スクスタ』であれほどいた嵐珠の付き人は、こちらでは全然見当たりません。あの高級マンション*2ハウスキーパーの姿すら見えないのは異常にも思えます。お台場や同好会を心から楽しんでいるようですが、どこに行くにもひとりです。もちろん私たちも一人で趣味を楽しみますし、悪いこととは言いませんが、わけあって差し伸べられた手を拒んでいるなら、エマが気を揉むのもわかります。

 そういった近くの他者を拒み続けた人間がどうなるかは、歴史が証明しています。トップ画像の長机の端に座る嵐珠の構図に不思議と見覚えがあります。アニメの描写が、分断と争いが生まれた『スクスタ』世界の同好会に、何が欠けていたかを浮かび上がらせてしまいます。

 

5. 共鳴 ~エマとかすみの場合~

 嵐珠の心配とは裏腹に、同好会が目指す姿は「いろんなアイドルがいられる最高の場所」です。個性の押し付け合いで一度は瓦解し、どんな個性でも受け入れる場所として復活したのが同好会です。それぞれのやりたいことに対して他の人は応援する立場に回り、ステージを作り上げる、言い換えれば、9人のアイドルと1人のファンの団体は、その時々に1人のアイドルと9人のファンに姿を変えて活動してきました。その中で、同じ問題に立ち向かっていれば、同じ方向を向く瞬間が今までもあったはずです。それはちょうど、漕いでいたブランコの位相が一瞬揃うようなものです。言葉で伝えても届かない相手に届けられるほど大きな力は、その一瞬の重ね合わせで生じる、というのが今回のテーマです。
 思えば1期5話のエマ個人回も、個人回というよりは「エマかり」回でした。エマのように他者思い過ぎるキャラの場合、個人回を作りにくい部分はあると思います。とはいえ、他者への積極的で熱烈な働きかけこそエマらしさですし、それが自己犠牲でなく「間を取って私」に代表される自己主張を忘れないところもエマの魅力です。
 ところで、エマがユニット活動の発端のようになっていますが、この回ではもう一つの見方ができます。かすみのビジョンに注目すると、かすみがSIFでの出来事を思い出したことがヒントになって、エマが4人で歌うことを思い付いたということです。かすみの想いが爆発したことで旧同好会は崩壊し、かすみの気づきによって新しい同好会が生まれ、かすみが背中を押したしずくの覚醒がニジガク的スクールアイドル観を広く拡散させ、そして今回もかすみの言葉がヒントになりました。自分の考えを言葉にするのは苦手ですが、同好会が新しいステップに進むときには常にかすみの影響力があります。「部長」は自称ですが*3、かすみの思っていること、やりたいことは、同好会にとって最重要なキーとなっていると思います。

 かすみには嵐珠の態度に苛立っている部分もありながら、その存在を認めたい、受け入れて寄り添いたいという気持ちもあります。その気持ちの言語化も彼方やエマといったお姉さんたちに委ねてしまうのも、可愛い部分です。

 揺れるブランコというのは大変面白いメタファーです。音も光も波動です。エマたちの新しい試みは、果たして嵐珠の心を照らすことができるのでしょうか?

 

*1:校内ではまた校則違反になってしまうが、この子は果たして意に介するのだろうか?

*2:モデルはヒルトン東京お台場。家のモデルが宿泊施設なのは千歌・鞠莉もだが、彼女らと違ってホテル経営とは無関係

*3:登記上、旧同好会に新同好会と連続性があれば、未だに部長はせつ菜のはず。しかし、せつ菜を部長として登録することはできないはずなので、本当のところどうなっているのかはよくわからない