普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

ロマン砲、想いを乗せて ~ウルトラマンデッカー感想週報⑪『機神出撃』~

 兵器というものは、扱いの難しいものです。強くなければ守るべきものを守れませんが、力を持ったとして決して幸せになるとは限らない、負の側面も存在します。今回は兵器の回に見せかけて、そんな兵器を造った男・アサカゲ博士の、夢と情熱を乗せた物語です。

 

毎回機転の利く活躍をするハネジロー

carat8008.hateblo.jp

 

一人の男の「希望」に、パスが繋がる
 (『ウルトラマンデッカー』第11話『機神出撃』より/©円谷プロダクション/配信URL https://www.youtube.com/watch?v=eWOQu79z6MI)

 

 

1. 男のロマン、テラフェイザー

 DG-001というコードネームで呼ばれていた新兵器が、ついにお披露目されました。その名はテラフェイザー。かつてGUTS-SELECTで対応した、キングジョーストレイジカスタムのような新兵器です。世界観の同じ前作だけでなく前々作とも繋がりました。

 前にガッツグリフォンの合体にも興奮していたカナタは、こちらの新兵器にも興奮を隠せません。それは想像がついたのですが、なんとリュウモンもテラフェイザーに密かにときめいていました。ただ一人残されたイチカは呆れていました。もちろん今の時代、ロボットは男のものではありません。おそらくこの場にヒマリがいたら興奮したに違いありません。とはいえ、この3人なら、イチカがツッコミです。

 しかし誰よりもテラフェイザーに情熱を燃やしていたのが、誰あろう開発者のアサカゲ博士です。何を考えているか読めない、底知れない人物ではありますが、今回を見ているとその想いは本物のようです。ライバッサーの一味の襲撃を受けながらコクピットに辿り着き、命懸けで搭載されていたAI頭脳の代わりにハネジローを設置しました。アサカゲ博士にとってDG-001は、闇の巨人と戦っていた時代から長年取り組んできた、いわばライフワークです。守るべきものにもいろいろあります。それは大切な人だったり、あるいは見ず知らずの生き物の命だったり、あるいは人類共有の財産だったりします。職人にとっては、自分が心血を注いだ製品も、それに値するのではないでしょうか。

 一方で、この強力な兵器に対しては、違う立場の人もいます。輸送中や起動テスト中のテラフェイザーを狙って、ガゾートやライバッサーなどの怪獣が現れました。それを見て「スフィア同様に地球が排除しようとしているのではないか」と穿った見方をするムラホシ隊長に、カイザキ副隊長は複雑な表情を返します。GUTS-SELECTの「父」と「母」である二人は、過ぎたる力を前に不穏な様子です。兵器そのものが奪われたり暴走したりしなくても、それ自体が人間同士に不和をもたらすなら、不幸なことに変わりありません。

 そもそも、テラフェイザーの「元ネタ」であるデスフェイサーは、近年なら『Z』のウルトロイドゼロ同様、宇宙知的生命体に騙されて人類が自ら製造した破壊兵器でした。『デッカー』に『ダイナ』要素がある以上、テラフェイザーは最初から業を背負って生まれた存在です。ちなみに、デスフェイサーは私がウルトラシリーズでトップクラスに好きな怪獣なので、半端な活躍はしてほしくありません。ネオフロンティアスペースの人類がこの兵器を活用することができなかった未練を晴らしてくれるほどの活躍に期待しています。

 

2. 思わぬ機転とフットボール

 このように鳴り物入りで生まれたテラフェイザーですが、起動テストと同時に現れたライバッサー相手に簡単に敗北してしまいました。「半端な活躍をしてほしくない」と言った矢先にこれはなんだと憤りましたが、原因はテラフェイザーが搭載していたAIです。『トリガー・デッカー』世界に戦闘経験のあるAIはいないので、ほとんど怪獣との戦闘の学習データがありません。戦いというものは基本的に未知の状況に対処し続ける営みですし、そもそも人類と怪獣の戦い自体がそれほど多くないと思われますから、大量のデータを基に自律して考えるAIと怪獣戦の相性はあまりよくありません。

 ただ、GUTS-SELECTにはひとりだけ戦闘経験のあるAIがいました。ハネジローです。これに気づいたのは流石「見つめる天才」リュウモンです*1。そこでアサカゲ博士たちはハネジローを使ってテラフェイザーを動かそうとしますが、それをライバッサーの子供たちと思われるヒナバッサーの群れが妨害し始めました。

 そのヒナバッサーの群れから、GUTS-SELECTメンバーとアサカゲ博士はハネジローを守りつつ、前へ運ぼうとしました。その結果、ある種のフットボールのようにハネジローを投げてパスしながら進むことになりました。私はスポーツには詳しくないのですが、前に投げているのでアメリカンフットボールでしょうか*2。とてもシュールなシーンですが、それが面白いのは、本人たちは地球と人類を守ろうと大真面目だからです。特にニュージェネレーションシリーズはこのような真剣なネタシーンの扱いに長けている思います。

 

3. 締まらない? かっこいい! デッカーの等身戦

 仲間の危機に変身したカナタ。しかし、現れたウルトラマンデッカーは、なぜか人間サイズでした。「小さいウルトラマンデッカー」は矛盾しているように思われますが、何故大きくなれなかったのでしょうか。

 状況としては、人間サイズのヒナバッサーに攫われたカナタが「生きたい」と願って変身した状況にあたります。もちろんそれは死なないで仲間を救うためなのでしょうが、今までの命を顧みず身体が動いて、というのとは少し異なります。願いとして弱い、というのはあるかもしれません。また、デッカーは、今までも状況に応じてカナタが必要とした力を少しずつ解禁していました。逆に、今は人間サイズで十分と判断されてしまった可能性もあります*3。実際、テラフェイザーに乗るアサカゲ博士とハネジローが巨大なライバッサーに襲われたときには、すぐに巨大化できていました。必要なときに必要な力をくれ、過ぎた力は持たない主義の、さしずめウルトラマン・オン・デマンド」といったところでしょうか。

 小さい姿でヒナバッサーに圧倒されてしまったデッカーに手を差し伸べたのは、リュウモンでした。ウルトラマンが超越的存在に見えて、実は一人の戦士であり、人間と助け合って戦うというのは別に新しいことではありませんが、こういった形で直接助け起こされる描写はなかなかありません。『デッカー』のわかりやすい描写が良い形で活かされています。正体がいつも一緒にいる仲間だとは知らないまま、文字通り背中を預け合うデッカーとイチカリュウモンの姿には美しささえ感じました。

 

 ブログタイトルの「ロマン砲」とは、決まったらかっこいいが、実用性には欠けるものを指します。とはいえ、私はテラフェイザーにロマンあふれる存在でありつつ、「ロマン砲」にはなってほしくないと思います。この夢の超兵器を使いこなせるかは、人類次第です。

*1:ラストシーンでアサカゲ博士が「まっすぐの天才」「見つめる天才」に言及する。カナタは大部分でデッカーになっていたので、アサカゲ博士の印象にあまり残らなかったようだ

*2:フットボール繋がりで言うと、『X』には宇宙人とラグビーをするシーンがある

*3:ウルトラヒーローが小さな敵と戦うときに小さくなるとは限らない。『ネクサス』1話では小型のペドレオンを巨大なまま撲殺している