普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

善意の道はどこへ行く? ~ウルトラマンデッカー感想週報⑫『ネオメガスの逆襲』~

 早いもので前半最終話です。今回の敵は前々回人間のエゴで生み出された新創獣ネオメガスが、スフィア合成獣にされた姿です。それを迎え撃つのが、前回初起動を果たしたテラフェイザーです。勝負の行方は……?

 

テラフェイザー、起動

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そんなのあり?
 (『ウルトラマンデッカー』第12話『ネオメガスの逆襲』より/©円谷プロダクション/配信URL https://www.youtube.com/watch?v=8HVmzw0B6Nw)

 

 

1. カナタの力

 ムラホシ隊長は、イチカを「まっすぐの天才」、リュウモンを「見つめる天才」と称しました。では、カナタはなんの天才なのでしょうか?

 アサカゲ博士にテラフェイザー用のプログラムをインストールされたハネジローを連れ帰るカナタに、ハネジローが言った言葉が一つ目のヒントです。「お前みたいなのと毎日会話しているとこう (人間臭く) なる」と、AIを搭載したハネジローが言います。

 ヒントはもう一つあります。一度スフィアネオメガスに敗れたカナタは、警戒態勢で待機という命令を破って一人でトレーニングに励んでいました。見つけたイチカリュウモンに、「負けた理由を探すより、勝てなかった自分を超える努力をしろ」という祖父の言葉を伝えました。その言葉に動かされ、イチカリュウモンもトレーニングを始めたのです。イチカはそのとき、デッカーのよくするサムズアップを真似していました。そればかりか、その言葉を通信機器を通してなのか聞いていたハネジローも、「努力」でテラフェイザーを使った作戦の困難を克服すると言い出しま した。あまりにロボットらしくない台詞です。

 カナタには、知らず知らずのうちに誰かに影響を与える力があるのです。自分には夢や目標はなく、ただその時にしなければならないと思ったことをがむしゃらにやっているだけなのですが、その姿や言葉が、人を動かします。それはデッカーになっても同じことなので、デッカーの正体を知らないイチカは、デッカーにも影響されるのでしょう。

 

2. やりすぎハネジロー

 そんなカナタがウルトラマンデッカーであることを唯一知っているハネジロー。これまでもカナタがウルトラマンであることを利用した連携作戦を次々成功させています。しかし、今回に至り、少々度を超しているのではないかと思う作戦を取り始めました。

 ガッツグリフォンに合体してのスフィアネオメガスとの初戦では、多数のスフィアソルジャーが現れ、ハネジローはデッカーとガッツグリフォンでそれぞれ立ち向かうことを判断しました。それでとった行動は、「カナタを射出して無理矢理デッカーに変身させる」というものでした。相棒を信じすぎ、危うく死に至らしめかねない危険な奇策です。表向きは「落下事故」であり、ムラホシ隊長も責任を感じてしまっています。あろうことか、視聴者の一部には『チャージマン研!』を連想してしまう方もいました。

 カナタが2度目の変身をしたときも自由すぎました。たくさんのTPU兵の目の中で、カナタが変身するところを見られないように、わざとやられたふりをして転倒し、兵員たちの目を逸らしたのです。戦い始めてしまえば、「旧知の戦友」のように見事な連携を見せるのですが……。人間同士ならともかく、いくら信頼しあっているとはいえこのようにAIが人間を危険に晒す行動を取るのは、果たして問題ないのでしょうか? ハネジローは常識も恐れも知らず、0.01%でも勝率の高い方法を、誰かを守れる方法を選びます。人間とは元々全く違う思考回路の存在なのです。GUTS-SELECTは、この異質な存在と共に戦い続けることができるのでしょうか。アサカゲ博士はカナタに「当てのない善意は逆に人を傷つけることもある」と言っていました。しかし、ハネジローこそ、「善意」で人間に反乱を起こしてしまうかもしれません。

 

3. カナタの夢、アサカゲの夢

 カナタには夢がないということが、トリガー客演回からの課題でした。もちろん、夢を持てないわけではなく、今ないだけなのですが、先述の通りアサカゲ博士もそれに対して警鐘を鳴らします。例えば人間には人間の都合が、怪獣には怪獣の都合があるように、世の中は複雑に絡み合って正解がありません。そんな中で、芯がないまま、場当たり的に誰かを助けると、どこかで矛盾を生むということでしょうか。ということは、前回テラフェイザーを「希望」と称していたように、アサカゲ博士は何らかの信念に基づいてテラフェイザーを開発していたことがわかります。

 ところが、そのアサカゲ博士が、カナタがウルトラマンデッカーであることを知ってしまいました。ハネジローのデータを解析したらバレてしまったというのがいかにも現代らしいです。サイバーセキュリティはどうなっているのでしょうか (笑)。そのことでアサカゲ博士の夢や信念が揺らぐということはないのでしょうが、まだ真実を知らないGUTS-SELECTには理解ができない行動を取り始める可能性はあります。また、最悪のシナリオとしては、カナタがデッカーであることが、アサカゲ博士の信念と衝突するものだったら……? というものがあります。実情を知る味方が増えたと素直に喜べる状況なのかは、まだわかりません。

 地獄への道は善意で舗装されていると言います。悲劇をもたらすのは悪意ではなく、誰かの善意の結果であることがあるという意味です。GUTS-SELECTは誰かが何かの天才で、皆が強い正義感を持っている人の集まりです。その正義感が悪い方向にかみ合うことがなければよいのですが……。

 正義はなんだ、デッカー……?