普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

誰も悲しまない答えはどこ? ~ラブライブ! スーパースター!! 第2期感想週報⑪『夢』~

空に描くのは、どんな夢?
(『ラブライブ! スーパースター!!』第2期第11話『夢』より/
©2022 プロジェクトラブライブ! スーパースター!!/配信URL:https://www.youtube.com/watch?v=Z_6QayALuuk)

 

Liella! 決勝進出おめでとう!

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 ラブライブ! 都大会でウィーン・マルガレーテを下したLiella!。2人の道が交わりました。勝者と敗者。その先に続くのは、想像もしていなかった険しい道でした―—。

 なお、いままでキャラクター名は名前のみ表記としていましたが、本記事より、ウィーン・マルガレーテのことは、本編内で呼ばれているとおり「マルガレーテ」と呼称します。結局どちらが姓でどちらが名なのかはっきりしませんが、マルガレーテのSNSの名前は「Wien Margarete」であった一方IDが「Marga_Wien」であり、また今回からオーストリアの首都であるウィーンの名が頻出するようになったため、混乱を避けるためにもこのようにします。

 

1. ウィーン・マルガレーテ

 正体不明のスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテの謎が、ようやく明らかになりました。彼女を日本に送り込んだのは、世界最高峰の音楽学校、ウィーン国立音楽学 (以下、ウィーン校) でした。ウィーン校への入学が叶わなかったマルガレーテが、編入を認められる条件として日本でラブライブ! に優勝することを求められたのでした。ラブライブ! を値踏みするような発言や、本質的に自分のことしか考えていないような表現は、本当に自分の夢のことだけを考えて臨んだ結果だったのです。

 それにしても、世界一の学校が入学を志す音楽一家の娘に課すほどの大会と考えるとこの世界におけるラブライブ! の世界での注目度の高さに驚きます。『虹ヶ咲』では、スクールアイドルの存在は知られているけれど、活動ができる状況に至っていないロンドンへ、歩夢が「開拓」に行きました。それに比べるとかなり浸透している状況ではないでしょうか。

 ウィーン校がマルガレーテに課した条件が少しずつぶれているのも気になります。それについては、次のように想像しています。もともと一族でウィーン校に通っており、本人の実力も申し分ないマルガレーテでしたが、誰かの想いを受け止めたり、応えたりする歌の力が欠落していたことをウィーン校の試験官に見抜かれてしまい、不合格になってしまいました。その能力が最も試せるのが、日本のラブライブ! という大会だったのかもしれません。アイドルをやるということは、衣装を着て歌って踊るだけでなく、例えばファンサービスのような、聴衆との濃密なコミュニケーションが必ず生まれます。ウィーン校には音楽の本場という自負があったからこそ、修行先にアイドル文化の本場である日本を選んだのかもしれません。ところが、マルガレーテはそれを理解することなく大会に挑み、都大会次点という成績を残します。もちろん才能だけでここまで来られてしまうのは凄いことなのですが、ラブライブ! という場へのあまりの無理解から、都大会優勝チームに追放まで言い渡されてしまいます。ちょうど、昨年の準優勝チーム (言うまでもなく先述の優勝チームと同じ。そう、Liella! です) が勝者から熱い期待と信頼を得ていたのとは、酷な対比です。こうなると、ウィーン校としては、歌で人の心を結ぶ力と理想を持つかのんが欲しくなります。同時に、マルガレーテの入学条件としても、かのんと一緒ならば、今度こそそのことを理解してもらえるのではないかと思ったのでしょう。ウィーン校はマルガレーテに何度もチャンスを与えようとしているのですが、踏み台にされたラブライブ! の大会にとってはとんだとばっちりですし、マルガレーテにとっても屈辱にしかなりませんでした。

 

2. 誰かの夢を背負うもの

 そうとは知らないかのんに、マルガレーテは「夢を奪った」と言い放ちます。それは、かのんにとって心外な言葉でした。そのわけを聞こうとするかのんが怒っているというより必死に訴えるようだったのが印象的です。なぜなら、かのんの夢は自分の夢を世界中に届け、世界中を自分の歌で笑顔にすること*1だからです。自分の歌が誰かの夢に繋がることがあっても、誰かの夢を壊すことはあってはなりません。まして、自分も音楽科に一度は落ちた身です。その痛みは、かのんもわかっていますし、だからこそ落ちたら終わりではないことも伝えたいと思っているはずです。

 そのうち、ウィーン校がかのんを欲しているという話が理事長を通じてかのんの耳にも届きました。かのんにとっては一度取りこぼした夢が何倍にもなって帰ってきた形です。とはいえ今のかのんは、スクールアイドルとして充実した日々を送っています。そこで「本当の歌」を見つけられましたし、仲間からも生徒たちからも強い信頼を得て、ここで頑張り続けることが自分のなすべきことだと思っていました。しかし、パンフレットに堂々と写っている人物 (おそらく、マルガレーテの姉) を見て、心はマルガレーテのことが気にかかっていました。

 かのんの夢を、誰よりも重く受け止めていたのは、千砂都でした。確かに、今までの言動からは想像の付く話ではあります。とはいえ、「留学に行ってほしい」と事実上の「打ち切り宣言」のようなことを、あろうことか最終回目前で言い出すのには衝撃を受けた方も少なくなかったはずです。

 かのんが留学に行かなければならない理由は、かのんが「夢を背負うもの」だからだと思います。すべての人を歌で笑顔にするというかのん自身の夢の中には、マルガレーテを笑顔にすることも含まれています。かのんがウィーン校に行けば、マルガレーテがウィーン校に入る道が開けることは、千砂都だけが知っています。かのんはLiella! メンバーや学校の皆の夢を背負い、ラブライブ! 都大会を制しました。となると次は全国なのですが、その先にはもっと多くの夢を背負って歌い続ける未来があることを、千砂都は確信しています。手始めにかつてのかのん自身と似た境遇のマルガレーテのために歌うことが、かのんの夢にとって最も優れた道であるということです。かのんが“アイドル”であればあるほど、スクールアイドルとしての活動から遠ざかってしまうというジレンマがあります。

 

3. 部長・嵐千砂都

 今年の千砂都はスクールアイドル部の部長になり、かのん依存の強かった部に一石を投じました。それだけでなく、メンバーに何度も揺さぶりをかけ、その度にメンバーの結束を強くしてきました

 2話ではひとりぼっちだった1年生のきな子のために、あえて練習のレベルを落として1年生の入部を呼びかけるという判断をしました。Liella! にとってそれは誤った判断であることは間違いないのですが、結果的にきな子の覚悟を強くし、Liella! 全員として優勝を目指すという方針が再確認されました。9話では、地区予選のパフォーマンスを見直して、1年生のレベルが足りていないことを指摘します。その場では1年生をメンバーから外したりしないことが確認されましたが、これがすみれの隠していた可可の秘密に火を点けました。

 今回のことはその集大成の側面もあります。かのん自身やLiella! の7人だけではありません。300人近い学校の生徒や先生たち全員を敵に回してしまうような発言です。千砂都はそれでよいのです。千砂都の信じる澁谷かのんは、情に流されて夢へのチャンスを捨てるような人間ではないからです。軽い揺さぶりでも大きな変化をもたらした千砂都が本気の気持ちをぶつけたとき、Liella! はどうなってしまうのでしょうか。

 

4. 茨の道

 そもそも、2期で2年目を描き、新入生を受け入れること自体が、ラブライブ! シリーズにとって初めての挑戦であり、その選択はどれを取っても茨の道というものでした。新入生が入ることで新たなキャストが参加しましたが、やはり1期生との経験差は歴然たるもので、12月から始まる3rdライブへの評価も期待と不安の入り交じるものになっていると思います。一方で新入生を入れずに進級した5人を描くという可能性もあったわけですが、これは5人がかつての神宮音楽学校から受け継いだ想いが次の時代と結ばれない、というこの物語のコンセプトの否定でありました。

 今回も、次のような選択肢が発生しています。

①かのんはウィーン校に留学せず、3年生となって3期が始まる

②かのんはウィーン校に留学し、かのん抜きで3期が始まる

③かのんがウィーン校に留学し、アニメ『スーパースター!!』は2期で終わり

 どれを選んでも茨の道です。②のように事実上メンバーが減る、加えて言えばメンバーがキャストを置いて先へ行ってしまう展開は極めて不可能に近いです。一方、③の場合、9話のすみれや今回のかのんの発言を踏まえ、3年目の存在に期待していたファンも多いため、物語が急に終わってしまった印象になり、裏切られたような気分になってしまいます。μ'sの解散や、浦の星女学院の廃校のような終止符を打つ出来事がなく、続いていく時を止めた状態で今後キャストメインの活動を行うことは、メンバーとキャストが離れていってしまうことになるのではないでしょうか。一番大団円のように見える①も、千砂都の気持ちにきちんと応えられるのかという疑問が生まれます。Liella! が優勝し (まだわかりませんが)、2期が終わった時、なんだか千砂都が悪役になって終わってしまったという印象を与えないでしょうか。第一マルガレーテの夢はどうすればよいのでしょう。

 誰も夢を奪われない、皆が笑顔になれる選択肢はないのでしょうか。2ndライブの感想記事でも触れた通り、「夢」というのは今ここにはないものです。ここにないから美しく、しかし不可能を可能にするためには、「世界を変えちゃう奇跡」を起こさなければならず、夢への道は辛く苦しいものとなるのです。すなわち、ここでも本当に、本当に苦しい決断を迫られます。それを乗り越えた先に、どんな夢が待っているのか、不安で夜も眠れません。夜くらい良い夢が見たいものです。

そこにないから "夢" ですね

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*1:世界のみんなを笑顔にする夢を持つ人の物語は、私のもう一つの感想週報シリーズを参照のこと