私が大人になってウルトラシリーズを見始めた『オーブ』13話と同じく、今回の13話も総集編です。そのはずなのですが、総集編にあるまじきピンチが訪れます。
1. 歪な日常
マルゥルが指摘した、スフィアに占領された世界の日常は、私たちの生きる日常そのものです。
脅威が当たり前になり、宇宙との往来や通信ができなくなったほかは、普通に日常が回っています。「普通に飯も食えてるしな」と、そんな脅威に立ち向かうGUTS-SELECTのカナタが言う始末です。しかし、故郷へ帰れなくなった宇宙人や、怪獣災害の被災者など、渦中にある人は確実に、それもそこそこの数存在しているのです。彼らのために、私たちの日常が犠牲になるべきだとは言いません。避難訓練の校長先生のような例えをすれば、日本国民全員の日常が1年間失われれば、1億年以上の貴重な人生の時間が奪われたことになります。しかし、日常生活に戻ることが忘却であるとすれば、問題だと思います。その中で戦っている人たちのことを忘れないために、『デッカー』はこの現実を「スフィア禍」として描いているのだと思います。
歪なものとはいえ、人々の日常を守るため、小さな異変も見逃さないことを使命とするGUTS-SELECTの後半戦にも期待です。
2. 総集編で死にかける主人公
昨年、『トリガー』でも書きましたが、『オーブ』以来、13話は総集編です。特に最近は、総集編でも話が進んだり、面白展開が見られたりと、総集編だからと言って「倍速視聴」するのは好ましくない回が多くなっています。
前回の総集編!
今回は、カナタが怪獣やスフィアとの戦いとは全く無関係なところで死にかけてしまいました。ロッカールームのシステム復旧に来ていたカナタとハネジロー、それにメトロン星人マルゥルは、火災探知システムの異常に巻き込まれてロッカールームに閉じ込められ、さらにガス消火器が起動してしまいました。これは二酸化炭素などのガスを放出して消火するもので、当然逃げ遅れた人がいると窒息死してしまいます。カナタはこの事態にデッカーに変身して対処しようとしますが、なんとデッカーへの変身に必要なカードホルダーを司令室に置き忘れてしまっていました。がむしゃらに対処しようとするも空しく、カナタは意識を失ってしまいます。
ところで、必要な時に必要な力を使わせてくれる*1デッカーのことですから、カードホルダーを置き忘れても必要な場所に届けてくれることはできたはずです。あるいは、それは今回は「必要ない」、つまりカナタが生身で対処できる事案だとデッカーに判断されたのかもしれません。リュウモンもイチカも、無理な事態に対しても泥臭く立ち向かおうとしています。実際、ウルトラマンの力で解決するよりも、そういう泥臭さの方が大事な局面でした。
ただ、意識を失ったカナタがイチカとリュウモンの願いに応えるように息を吹き返した時、謎のSEが鳴っていました。ほんの少しだけ、デッカーは力を貸してくれていたのかもしれませんね。
3. 寄せ集めの底力
昨年『トリガー』の13話も、マルゥルが話の狂言回しとして活躍していました。マルゥルは語り部としての適性に優れているといえるでしょう。そして、現在はTPU技術部特務三課に務め、カナタたちにとっては先輩にあたります。そんなGUTS-SELECT経験者から見た今のGUTS-SELECTの姿を、マルゥルの言動に垣間見ることができました。
イチカとリュウモンは、ムラホシ隊長の言うとおり「まっすぐの天才」と「見つめる天才」です。しかし、イチカにもリュウモンにも、カナタにも、危なっかしいところだらけであり、GUTS-SELECTは「寄せ集め」だというのです。闇の巨人の襲来に先駆けて編成が進んでいた初代GUTS-SELECTと異なり、事態が起きてから再編成された新生GUTS-SELECTは、人員の数も少なく、訓練校にいた気概のある若者をムラホシ隊長が直々にスカウトして編成しています。その真価は、ムラホシ隊長のみぞ知る、否、ムラホシ隊長でも今はまだ知らないのでしょう。まさに「これからのカナタくんを見てもらえればわかります」という言葉の通りです。今のカナタ自身には夢と呼べるものがなく、芯がないと言われるかもしれませんが、それでもカナタが明日に向かって成長していることが、ムラホシにはよくわかっています。戦いの中で成長していくことの強さは、かつて隊員だったマルゥルにも理解できることです。「明日を見る」ことは、がむしゃらに今日を生きることとあまり変わらないのかもしれません。
4. 来週からは後半戦!
総集編が終われば、後半戦が待っています。次回予告の「魔神」とは誰のことなのでしょうか。元ネタの異名を考えてもテラフェイザーである線が濃厚ですが、やはり前回の感想週報で指摘したとおり、善意が地獄への道を敷き詰めてしまうのでしょうか。
新タイプの登場も予告されています。デッカーが、そして今日を生きていくGUTS-SELECTがどんなダイナミックでかっこいい姿を見せてくれるのか期待しています。
*1:今回、カナタはそれを「デッカーの意思に導かれている」と表現していた