毎年おなじみ、中盤の最大の盛り上がりである最強形態の誕生回です。今回は、「ウルトラマンの力の秘密が明かされること」と「主人公の成長」という、最強形態に欠かせない要素が完璧に揃っていました。
夢を持っていなかった、自分の中に確固たる軸がなかったカナタが、それを見つける、あるいはそれに一歩近づいたとき、未来からきたカナタの子孫が背中を押してくれました。今のカナタは、おそらく近いうちにムラホシ隊長が正式に呼んでくれますが、私から見ると「意志の天才」なのかなと思います。
なお、本稿で「デッカー」とだけ言った場合、前回から登場し、今回名前を明かした人物のことを指すこととします。少なくとも今回に限り、ウルトラマンデッカーは、略さず「ウルトラマンデッカー」と表記します。
裏切り者なだけでなく元凶でした
1. 「今」のために戦う意志
アガムスの故郷バズド星は、もともと戦いの犠牲者でした。
前回予想したとおり、事件が起きるのは数百年後の未来です。宇宙に進出した人類とスフィアの間で起きた戦いに巻き込まれたバズド星は、今の地球と同じように、スフィアに包囲されてしまいます。そして、おそらく戦いの中で、アガムスは終盤の回想に出てきたレリアという女性を喪ったものとみられます。その戦いの発端を作った地球人を滅ぼすため、スフィアを地球へ送り込み、地球を故郷と同じ目に遭わせました。
私怨で惑星をひとつ巻き込もうとしているアガムスの行いが「善意」などではないことが明らかになった今、もう一度「当てのない善意は逆に人を傷つけることもある」という言葉を反芻してしまいます。カナタはそれを自分へのアドバイスだと思い、それが善意の言葉でなかったことにショックを受けてしまいましたが、初めからそれはカナタの「当てのない善意」がアガムス自身を傷つけているという表明でしかなかったことがわかります。
デッカー (後述) の言う通り、過去を変えても、バズド星もレリアも救われないかもしれません。アガムスは、結局「今」 (未来基準の) のバズド星を諦め、自暴自棄になっているだけなのです。ということは、ここにカナタとの一番大きな違いがあり、アガムスがカナタを見るだけで辛くなる理由があるはずです。
カナタは、決して「今」を諦めない男です。今やらなければいけないと思ったことをやっているだけだと、目を輝かせて言うその言葉は、守るべき「今」を捨ててきたアガムスには響きません。しかし、カナタもそれがアガムスと自分の違いだと気づいたようで、アガムスのように巻き込まれたからと受動的に行動するのではなく、「今」を守るために自らの意志で行動すると決意し、再びアガムスとの戦いに向かうことにしたのです。
2. 生き抜く意志
15話は今までちりばめられてきた謎が、一気に解き明かされる回となりました。
未来から来た男の名は、「デッカー・アスミ」。カナタの子孫で、未来のウルトラマンデッカーです。「デッカー」という名前は彼の名前だったのですね。未来では地球人とスフィアの本格的な戦争が起きており、様々な星の人類も共闘しているようです。また、ユザレや時空を超えてやってきたウルトラマンダイナも戦線にいるということでした。7話でケンゴにウルトラデュアルソードを授けたのは、ユナの子孫である未来のユザレだったのですね。さらに、カナタが望んだときに望んだ力が出てくるのは、そのことがデッカーに伝わっていて、その度に未来から仕送りしていたからということがわかりました。正直こんなに綺麗に伏線回収されると思っておらず、舌を巻きました。
そのデッカーはアガムスが破壊し、不完全な状態の時空移動装置を使って現代にやってきました。未来の者が過去をめちゃくちゃにした責任として、アガムスと刺し違える覚悟でした。しかし、カナタの考えは全く違いました。カナタには、共に戦ってきたGUTS-SELECTの仲間がいます。その仲間のためには、戦いに勝ち、生き抜かなければならないというのです。デッカーにもたくさんの仲間がいることが、デッカー自身の口から語られました。デッカーのやるべきことは未来の宇宙を仲間たちと共に守るため、生きて未来に帰ることだと、年上のデッカー*1をも激励しました。こうして立場によらずぶつかっていけるのはカナタらしさではありますが、自分の思いをはっきり言葉にしたのはむしろいままでになかったことだと思います。今までのカナタといえば、後先を考えずがむしゃらに体当たりして、その姿を見た周りの人々を変えていくような人物でしたが、ケンゴやアサカゲとの対話を通して、自分には確固たる考え方がないことを気に病んでいました。自分と同じウルトラマンになる人物に対して、初めてそれを口にするという成長を感じる場面でした。
命を懸けることと命を棄てることは違います。『ネクサス』で西条副隊長も同じようなことを言っていたかと思います。仲間との約束や、命を繋ぐことの大切さももちろんそうですが、シンプルに考えても自分の大切な大切な命を賭しているから強いのであって、自分の命が大切でなくなってしまったらその分もったいないことになるでしょう。自暴自棄になっているアガムスも、責任だからと命に言い訳をするデッカーも、その点でカナタには同じように見えました。
デッカーには、「生きろ」という言葉に反論のしようがありません。なぜならカナタはデッカーの遠い先祖だからです。デッカーの言う通り、もしカナタがここで死んでも世界線が分岐するだけで、デッカーが消えてしまうわけではないかもしれません。それでもデッカーにとってカナタはとても大切な存在です。それと同じように、未来の世界にもデッカーを大切に想う人がいます。カナタは、それに気づかせてくれたのです。
未来の世界にも明日見屋は健在で、火星でも人気の煎餅屋になっているようです*2。カナタはこの戦いを生き抜けば、子孫を残し、その未来をデッカーのいる未来に繋げることができます。ギジェランが見せた夢の通り、カナタには実家の煎餅屋に強い思い入れがあるので、そうなればカナタの本当の夢が叶ったといえるかもしれません。
3. 最強の剣と盾
カナタの強い意志に、デッカーが最後の一押しをして、カナタはウルトラマンデッカーとしての新たな力を手に入れました。初めてのダイナと異なる形態名である「ダイナミックタイプ」と、強力な武器「デッカーシールドカリバー」です。TRメガバスターをも易々と弾く盾と、一薙ぎで大量のスフィアソルジャーを薙ぎ払う剣を兼ねた武器に、凄まじい空中からのダイブと、戦闘シーンも見どころ満載でした。
4. 光を拒むもの
考えるより先に身体が動いていたカナタが、自分の中に持っている確固たる意志を自覚しました。デッカーはそれを見届けて、「アガムスを救ってやってくれ」と言い残して未来に帰りました。
デッカーから見れば、アガムスにもまだ故郷に対してできることはあります。デッカーに対して、未来の時代でまだできることがあると見抜いたカナタなら、アガムスの目を覚まさせることもできると確信したのかもしれません。とはいえ、「光」の論理と感性でアガムスに近づこうとしても、拒まれるだけです。
ただ、カナタが知っている、闇に堕ちた存在を救う光というロールモデルならあります。10年越しにカルミラを救うことに成功したケンゴです。10年前、カルミラが一度命を散らしたときにカルミラが光の暖かさに気づけたのは、ケンゴが闇を拒まなかったからです。もしかすると、そのことがヒントになるかもしれません。
カナタの暖かさは、氷のように閉ざされたアガムスの心を融かすことができるのでしょうか。残り10話、まだまだダイナミックに展開していきそうです。