1年を通して毎年観ている大河ドラマが今年も完結しました。今年の『鎌倉殿の13人』*1は、鎌倉幕府2代執権の北条義時が鎌倉を守るために様々な陰謀を巡らせ、闇に堕ちていく物語でした。最終回では、未来の鎌倉の安寧と引き換えに、多くの政敵や、仲間までも殺してきた義時が報いを受ける、という結末が描かれました。
さて、『ウルトラマンデッカー』の世界にも、重い代償を背負った者がいます。地球人を恨むあまり、何よりもなくしたくないものをなくしてしまったアガムスです。
1. 宇宙の未来、アガムスの過去
バズド星にあったこと、というよりアガムスに起きたことが明らかになりました。その中で、前回の話の中でアガムスが激しく怒っていた理由も明らかになってきました。
激しく怒るアガムス
前回の「悪い予想」は外れ、バズド星は地球とスフィアの戦いに巻き込まれていただけということはわかりましたし、同時にバズド星と地球が共闘関係にあり、友好的だったこともわかりました。そうなると、現代の地球に起きている事件はますます惑星同士の関係というより、アガムスの私怨という面が大きくなってきます。
科学者としてバズド星を守る戦いに参加していたアガムスは、戦いの中で妻レリアを亡くしてしまいます。そのとき、アガムスが胸に抱いたのは、自らが拠り所にし、同胞を守れると信じていた科学の力への絶望でした。前回科学力を過信した地球人に激怒し、罵っていたのは、そこに過去の自分を重ねて嘲っていたからだったのです。
そしてスフィアを利用する地球人を蔑みながらも自らもその力に手を染めていた理由も予想通り、邪魔を排除するために手段を問わないからでした。
そうまでして滅ぼそうとしている地球人に、自らの科学力の結晶であるテラフェイザーと、その開発者である「アサカゲ博士」が救世主として持て囃されていたとき、どんな気持ちだったのでしょうか。その執念は大したものですが、元々あまりメンタルは強くないアガムスのこと、きっとその時点で、レリアの死を普通に受け入れるよりも辛い人生になってしまっていたのではないでしょうか。本性を現す直前にカナタに言っていた「故郷のために戦っている」ということが、バズド星のことだとしても嘘だとわかってしまったことが、無念でなりません。
同じ復讐者でも、復讐のための力を求めてやっていたはずの宝集めすらも楽しんでいるように見えたイグニスとは大違いです。あまりに不器用な男の、辛く苦しい道程が姿を見せた回でした。
2. スフィアの呪い
GUTS-SELECTを嵌めるべく罠として用意していた秘密兵器・チャンドラーを撃破され、今度こそ終わらせようと再びテラフェイザーに乗り込んだアガムスは、スフィアを呼び寄せて吸収し、さらにテラフェイザーを強化しようとしました。しかし、それは既に右頬にスフィア細胞が覗かせるほどスフィアに侵食されてしまったアガムスが、さらにスフィアの毒牙にかかることに他なりませんでした。
スフィアの影響で、アガムスの中からレリアの言葉や姿がどんどん消えていきました。アガムスはその呪いを打ち払おうとし、出現したウルトラマンデッカーと交戦しました。サムネイルのシーンはその最中で、デッカーとテラフェイザーの戦いをバックに、戦いで破壊された配管から水が噴き出している様子です。水は、アガムスの涙を表現していると考えられます。心象描写として「特撮=特殊撮影」を使う、まさに特撮ドラマとしての極致に達しています。
そしてデッカーと相撃ちになったアガムスを、リュウモンが追い詰めます。アガムスの頬のスフィア細胞は無くなっていましたが、明らかに様子がおかしかったのです。
アガムスは、完全に記憶を失っていました。
自らのやったことも、ここが地球だということも。
そしておそらくは、最愛の妻のことも*2。
妻を想うやり場のない感情だけで、故郷も、生きてきた時代も、プライドすらも棄てて復讐の鬼となった男が、その唯一の拠り所を失ってしまうという、あまりにも重すぎる代償でした。
余談ですが、『デッカー』終了後の1月から放送されるウルトラマンの紹介番組が決まりました。『ウルトラマンニュージェネレーションスターズ』では、光の国のウルトラマンたちがニュージェネレーションウルトラマンの記憶を奪われてしまうそうです。こちらは悪いこと一つしていないのに、ひどい仕打ちです。
3. 絶望と希望
そんなアガムスに、お前も絶望しろとばかりに人類の愚かさを突きつけられたカナタでしたが、彼が希望を取り戻したきっかけはウルトラマンダイナでした。私たちにとって、ダイナは25年前のウルトラマンですが、カナタにとっては遠い未来のウルトラマンです。悲しみに暮れ、今を生きることを諦めてしまったアガムスとは反対に、未来の時代にとっての「今」を必死に守り抜こうとする存在です。それは遠い過去にあたる「今」にも、希望を与えるものなのです。今やれることをとにかくやるという姿勢は、最初の頃のカナタのあり方そのものでもありました。「らしさ」を取り戻したカナタに、イチカとリュウモンも嬉しそうでした。
テラフェイザーとの戦闘で変身を解除されたカナタは、その様子をリュウモンに目撃されてしまいました。「デッカー」という名前を真っ先に口走ったり、今回も自分の出会った未来人の名前を同じ「デッカー」だと明かしたりするなど、口を滑らせがちなカナタでしたが、とうとうリュウモンたちに抱えてきたものの大きさを知られることになりました。
いよいよ、終盤戦です。