普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

召し上がれ、時空を超えた贈り物 Aqours EXTRA LoveLive! 2023 <Valentine's Day Concert> Day2 全曲感想

Aqoursのバレンタインチョコ

 2023年2月12日 (日)、Aqours EXTRA LoveLive! 2023 ~It's a 無限大☆WORLD~ <Valentine's Day Concert>』Day2に参加してきました。

 「EXTRA LoveLive!」は、2021年末の合同カウントダウンライブの直前に、Aqoursとして5thライブと6thライブの間に急遽、追加される形で開催された『DREAMY CONCERT 2021』の流れを汲んでいます。ナンバリングには収まらない、内容の予想がつかないライブ。そして、グッズに姿を現すバーチャルシンガー初音ミクの存在。どんなライブになるのかとドキドキしていた私が見せられたのは、時間も次元も自由自在に飛び越えるAqoursの姿でした。

 

 

1. 「初音」と「バレンタイン」

 ライブ当日の昼、私はライブ会場のある調布市を少し通り過ぎた府中に降り立ちました。

 前日Day1のセトリは一切確認していません。なるべくまっさらでライブに臨むことにしました。出演者には記載されていなかったものの、初音ミクの登場はほぼ確実と思い、昼食にはネギ料理*1を探しました。すると、駅前ビルのお好み焼き屋で海鮮ネギ焼きを食べられるとのことで、そこへ向かいました。生地は卵焼きに近く、ポン酢の味付けにもネギがよく合っていました。

海鮮ネギ焼き

 そこから私と連番相手が向かったのは、近くにある東京競馬場でした。まるでAqoursとは無関係な場所ではありますが、地理的に近いだけあってAqoursのグッズを持った観戦者をちらほら見かけました。

実は、この日のメインレース・共同通信杯の直前の重賞がそれぞれ「初音ステークス」「バレンタインステークス」だったのです。「初音」は別に初音ミクと関係あるわけではなくこれは偶然なのですが、「その年初めて鳴くウグイスの声」を意味しており、春の季語にもなっています。この日は気温が17℃まで上がり、屋外で競馬を観戦していても体が冷えてくることはありませんでした。今年初のAqoursのライブとともに、春が確実に近づいてきていました。

 

2. ハートの贈り物

武蔵野の森総合スポーツプラザ

 会場は武蔵野の森総合スポーツプラザ。Guilty Kiss 1stライブ、ニジガク5thライブ <Next TOKIMEKI> でも来た会場で、私にとっては3度目にあたります。

 

ニジガク5thライブ

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 会場に入ると、入口でチョコ (トップ写真) が手渡されました。袋にはミクとAZALEAの3人がデザインされており、手触りでハートのチョコであることがわかりました。製造元は不二家で、『ハートチョコレートピーナッツ』として販売されているものでした。不二家Aqoursの関わりと言えば、2019年1月に発売されたルビィの『ポップキャンディ』を思い出します。4年越しの繋がりです。

 席は最上階にあたる4階の前方、真ん中辺りでした。ちょうどニジガク5thのときの反対側でした。この位置では、客席も全体が見渡せます。

 さて、ラブライブ! シリーズのライブでは、前の週のA・ZU・NAユニットライブから、声援が解禁されました。今回も早速、流れていたCMに合わせてコールの練習をしている人がたくさんいました。AqoursのCMの目玉の一つは、今週発売されたアレンジアルバム『The Blue Swell』でした。このアルバムに収録されている『KOKORO Magic A to Z』は、初披露が6thライブ <WINDY STAGE> であったため、声出しの実績がありません。さらに、聞き慣れない新アレンジであるにもかかわらず、綺麗にコールが揃っていました。なお、発売は『スクスタ』リリース直前であり、コロナ前です。

 

3. バレンタインデー・ライブ

 開演時間になりました。オープニング映像でメンバーが一人ずつ紹介されているところで、メンバーやキャスト個人を呼ぶ声は、A・ZU・NAのときより多かった気がします。

 Aqoursは、上段下段に分かれたステージの上段側に9人揃って登場しました。ライブのキービジュアルと同じチェック柄の衣装を纏い、『少女以上の恋がしたい』の披露からライブスタートです。この衣装は、赤と黒を基調とし、はっきりとしつつも整って見える色合いで、なおかつキュートさに全振りしていました。そして、9人ともハートのチョコを手に持っていました。ノベルティのチョコと同じです。この歌を通して、Aqoursから皆へのバレンタインチョコのプレゼントということです。

 ラブソングからスタートするとは、まさしく <Valentine's Day Concert> の名を体現するセットリストです。恋にも色々ありますが、この曲は『HAPPY PARTY TRAIN』のカップリングで、表題曲と同じく、「次のステップに進みたい」Aqoursを表した恋の歌です。可愛い歌でもエネルギッシュなのがAqoursらしさですね。

 次の曲は、少し時系列を戻って『待ってて愛のうた』でした。こちらは、まだ恋を知らないけれど追いかけてみよう、という歌で、むしろAqoursの初心に近い歌です。結成から7年半経っても、なおも初心を思い出させてくれるのです。

 この2曲を歌って、MCが始まりました。千歌役・伊波杏樹さんの呼びかけから始まるMCで、あっという間に会場の注目は一点に集まっていました。

 声援が解禁ということは、コール&レスポンスも『ラブライブ! フェス』以来、3年ぶりに本来の形でやることができます。私にとっても、Aqoursのそれは幾度となくやった掛け合いで、今までのAqoursとのすべてのことを思い出しながら声を返していました。そんな中ですが、トップバッターの善子役・小林愛香さんの「おはヨハネ!」→「おはよしこ!」の掛け合いを逆転させ、小林さんが「おはよしこ!」、ファンが「おはヨハネ!」という変形が追加されました。このようなキャストとファンのコミュニケーションの中で小さな願いが叶っていくのは素敵だと思います。さらに言えば、『幻日のヨハネ』では本名がヨハネです。

 声が出せるということは、周りの人も大声を出すということです。それを不安に感じる人もいるかもしれないので、ぜひ配慮をという呼びかけが伊波さんからなされました。私自身、声出し解禁以前にも隣の人の行動に困惑させられたことがあります。そのような中で、ファンの反応を「煽る」立場としての責任を果たしている姿には、「リーダー」が相応しいと改めて感じました。

 この後、『Pops Heartで踊るんだもん!』からライブが再開しました。比較的貴重な特典曲で、コール可になって映える曲だと思います。この曲では、9人がトロッコに乗ってアリーナを一周していました。通常は9人だと3人ずつ分乗するようになりますが、今回は小さなトロッコが9台も出現しました。つまり、1人乗りということです。トロッコの通るアリーナの通路は狭めで、このサイズが通り抜けることを前提に狭めてあることがわかりました。9台のトロッコを進行させるためには、18人が息を合わせて押し引きしなければなりません。手間と人手はかかるはずですが、通路を狭くしてより近くにAqoursを感じられる好演出だったと思います。このトロッコのデザインはピンクのハートを銀色で囲んだ、まるでチョコの包み紙のようです。「プレゼントは私」とでも言うつもりでしょうか。トロッコが近づき、スタンドに向けてキャストが手を振ってくれた時は、ブレードの色を変えて振り返していました。誰よりも大きく手を振ってくれる伊波さんや、推しのダイヤを演じる小宮有紗さんには、一際大きく振り返してしまいます。それは私という「個人」に向けられたものではありませんが、自分のことだと思って手を振り返す人が多ければ多いほど、気持ちも届くと思います。

 メインステージに戻ったAqoursは、アニメ1期のOPテーマ青空Jumping Heartを披露しました。自分で聴いたとき、友人と聴いたとき、ライブで聴いたとき、ありとあらゆるシチュエーションで何度となくコールを入れて盛り上がった曲です。コールも振りコピももはや身体が覚えています。今はバレンタインの衣装ですが、どんな衣装を着ていても、この曲をやれば『ラブライブ! サンシャイン!!』が始まるような、不思議な力のある曲です。

 

4. 笑いのミラクルウェーブ

 始まったのは、これもまた確かに『ラブライブ! サンシャイン!!』ではあるのですが、謎の幕間アニメでした。その名も『アクアサスペンス劇場・嘆きのチョコレイト』。今までもぶっ飛んだ内容のミニアニメはありましたが、久々にして群を抜いて気の狂った内容でした。善子が見ているTV番組の中で善子が殺されているという意味不明な展開から始まります。刑事の曜と千歌はあまりにも無能なうえ、何故か容疑者を集めてオーディションを始めてしまいます。そして提供画面がネタバレをしてしまいます*2。他にもすべての言動がボケ倒していました。

 そのボケに対して、現実の善子ヨハネが画面外からツッコミを入れていくというのが、今回の新感覚であるポイントです。ただ、それは若干の既視感があるネタでした。その既視感の正体が、お笑い芸人の陣内智則さんのネタであることに気づいたのは、終演後のことでした。

 陣内智則さんといえば、理不尽なボケを繰り返す映像にツッコミを入れていく芸風で知られています。漫才やコントであれば、人間同士で呼吸を合わせてネタを進行させ、笑いを取ることになりますが、陣内さんがやっている、予め制作した映像との掛け合いは、ある種の「シンクロパフォーマンス」であるとも言えます。今回、流石に小林さんの生ツッコミではなかったと思いますが*3、その点にAqoursとの繋がりがあってこのようなネタが生まれたのではないかと考えています。

 

5. それぞれの場所で輝く

 次にステージに現れたのは、その小林さん演じる “堕天使ヨハネ でした。白と黒の翼が生えた衣装で椅子に腰掛け、女王のような佇まいを見せていました。同じ会場で行われたGuilty Kiss 1st以来の披露となった『in this unstable world』です。EXTRAライブなので何が来るのか予想することはできませんでしたが、始まったのはソロライブでした。

この曲のラスサビでは、小林さんはこれまでもそうしていたように、歌を音源に任せてシャウトを披露しました。実は、ニジガクの優木せつ菜役・楠木ともりさんが『CHASE!』でやっていたシャウトは、この曲のパフォーマンスを参考にしているのだそうです。善子とせつ菜は、好きなことを肯定され、自分の内にあるものを信じて「大好き」を解放した二人です。小林さんと楠木さんのメンバー愛の強さや愛し方も、どこか重なっているように感じます。先週楠木さんがせつ菜としての最終公演を終えたばかりでしたが、まさかこのタイミングで「原典」に当たれるとは思いませんでした。その半面、楠木さんがこれを大幅にブラッシュアップして使っていることもまた、よくわかりました。

 暗がりの中で机のようなものが運び込まれたかと思うと、明転したときにその机に花丸役・高槻かなこさんが佇んでいました。『おやすみなさん!』は、3rdライブ以来、実に4年半ぶりの披露となりました。ステージ上段の側面にあたる下段のバックモニターには花畑が映し出され、本の世界や夢の世界が広がっているようでした。

 今回のセトリでは学年ごとのソロ曲披露となっており、次はルビィの『RED GEM WINKでした。これはルビィの初恋の歌ですが、ルビィのソロとしてどうしてもちらつくのはその次にリリースされたソロ曲『コットンキャンディえいえいおー!』です。その後も全く異なるタイプのソロ曲を歌い、ルビィ役・降幡愛さんの表現の幅を実感していたところですが、あえてこの曲を披露する理由を考えてしまいました (後で降幡さん自身、MCで似たようなことを語っていた)。それは、他のメンバーにも当てはまることなのですが、あえて昔の曲をやることで、あの頃からの成長を見せつけようという魂胆です。あの頃オドオドしていたルビィはもういません。ルビィはAqoursを引っ張っていける存在にまでなりました。降幡さんはソロ活動でも、「令和の昭和ポップ歌手」という、高い表現力を必要とする独自の看板で頑張っています。なによりも、3rdライブと言えばニジガクも発足当初の頃です。その期間をもってしても、他のどのグループも追随できません。

 1年生のソロ曲が揃った後は、3年生のターンです。まずは鞠莉の『New Winding Roadで、鈴木愛奈さんがスタンドマイクの前に立ちました。これは、私がライブ現地に足繫く通うきっかけとなった曲です。鈴木さんがその圧倒的な歌唱力をもって、 小さな身体により大きな鞠莉のオーラを宿すような演技に心を打たれたからです。この曲は、Guilty Kiss 1stライブでも披露されたので、この曲だけ今までに3回も聴くことができました。こちらも、歌唱力の高さはそのままに、鞠莉らしさがアップしていたと思います。

 それに続く、ダイヤの『WHITE FIRST LOVE』は、トロッコでの披露となりました。同じトロッコでも、先程の『Pops Heartで踊るんだもん!』とは違うコースを走っていました。小宮さんの美しさは、よく「人形のようだ」と形容されますが、赤い光に囲まれ、純白に身を包んだ小宮さんがアリーナにいるだけで、会場そのものがフラワーボックスのような、ひとつの芸術品になっていました。私の前を通ったとき、残念ながらこちらには背しか向けてくれませんでしたが、後ろ姿もまた良いものです。

 打って変わって果南の『さかなかなんだか?』は、曲調も歌も踊りも演出も自由気ままという雰囲気が、当時から全く変わっていませんでした。さかなを象ったリボンや、バトンを回すパフォーマンスももちろんですが、直感に従うような歌唱とダンスは、あの頃から変わらない諏訪ななかさん特有のものだと思います。変わらずに自分を磨くこともまたひとつの成長の形です。

 最後の2年生1曲目は、梨子の『Pianoforte Monologue』でした。下段バックモニターには、ピアノの鍵盤が映し出されましたが、曲に合わせて鍵盤がサクラピンクに光っていました。楽器屋に売られているのをよく見かける、光るピアノを思い起こします。ただ、これを弾いているのは梨子です。梨子がピアノとスクールアイドルという2つの道を追いかけることに思い悩んだことから、『想いよひとつになれ』という楽曲が生まれ、1st、4th、6th <WINDY> それぞれの形で表現されてきました。ソロ曲でも、ピアノを弾いている自分の中にもスクールアイドルAqoursの梨子がいることがこのような形で表現されました。あるいは、これがソロであることを考えれば、梨子として踊る逢田梨香子さんと、共にピアノを弾く梨子の関係にも見えてきます。 

 あと2曲ですが、トリはある程度予想できてしまいます。となると、次は『Beginner's Sailing』が来そうだな、と考えていると、舞台袖から曜役・斉藤朱夏さんが上がってきました。今回は、ステージ下からの「射出」はありませんでした。そして、トロッコに乗っての披露となったのですが、特別な登場をしなくても十分インパクトがあった理由の一つに、これが今回のソロで唯一のコール曲だったことも上げられると思います。一色一色ブレードを切り替えながらここまでのメンバーの想いを受け取ってきたファンが、「はい! はい!」のコールとともにそれを斉藤さんに託しました。斉藤さんの歌もエネルギッシュで、ここまでの勢いを1つにまとめる力がありました。8番目ですが、野球なら4番バッター的な立ち位置でしょうか。

 そんな斉藤さんから8人分のバトンを受け取った伊波さんが、アリーナ後方側ステージに現れました。トリは予想通り『One More Sunshine Story』です。3rd埼玉のDay1やCYaRon! 1stライブを観ていないので、これも今回初めて生で聴くことになりました。気づいたら、9曲連続で駆け抜けていました。今までのナンバリングライブでのソロ曲の披露は、2日間に分けて半分ずつ行われていましたが、今回は1日で9曲となっていました。通常のライブで披露される曲数は、20 - 25曲です。ソロに9曲割いてしまうとするならば、必然的にそれをメインに据えることになります。9曲以上のソロがフル尺で披露されたのは、これまでにμ’sの3rdライブと、5th以外のニジガクの各ライブしかありません。まさかここで、既存ソロがこれほど重要な役割を任されるとは思いませんでしたが、伊波さんの「8人のバトンを受け継ぎ」という言葉からして、どうしても9曲連続である必要があったのです。

 伊波さんの、昨年のラジオ・生放送への出演回数はゼロということです。確かにファンの前に出てくる機会は減りましたが、こうしてパフォーマンスを見せられると、Aqoursのリーダーが今も伊波さんであることは言うまでもないことだ、とわからされてしまいます。それはまるで、「主役は遅れてやってくる」と言わんばかりです。みかん色に輝く世界の真ん中で、ステージ全体を走り回り、躍動していました。伊波さんがパフォーマンスによって「セカイ」を作っていました。その中心の伊波さんに丁度良い言葉は、まさに「スター」なのではないでしょうか。

 この曲は、μ’sの活動終了以降初のソロ曲で、ソロ曲の可能性をぐっと広げた楽曲でした。千歌が見た「輝き」というものが、まるでテーマパークのパレードか、ミュージカルであるかのように、全身で体現されています。後発シリーズのバラエティ豊かな展開に繋がる轍を残したのは、実は伊波さんかもしれません。

 これで9曲分のソロが終わり、次に来る曲こそ予測ができない、と思っていると、3年生と3台のトロッコが現れ、文字通りの曲、すなわち『予測不可能Driving!』が始まりました。従来通り、トロッコは自動車に見えるように装飾されていたのですが、今回のトロッコは1人乗りなので、それぞれのメンバーカラーの車3台になっていました。果南とダイヤも、いつの間に免許を取ったのでしょうか? (笑)

 このとき3人は、新衣装で登場していました。しかし、どこかで見覚えがある衣装でした。そういえば、衣装を投票で選ぶ企画があったことを薄々思い出し、「くるぞ……」と期待が高まります。

 トロッコは最初、下手側からアリーナ後方へ向けて進んでいきましたが、突如進路を左に変え、上手側で再び右へ曲がり……と、まさに「予測不可能」な動きをしていました。見たことのないアリーナ席を縦横無尽に駆け巡り、なるべく多くの観客の前を通るように走っていたのでしょうか。アリーナにいた人は、接近してくるトロッコが果たして本当に自分の前に来るのか、ドキドキして堪らなかったのではないでしょうか。

 学年曲2曲目は『Waku-Waku-Week』でした。『予測不可能Driving!』と同じ劇場版のムビチケ特典曲は『ハジマリロード』なので、意外な選曲です。ストーリー終盤の1年生は大きく成長して、シリーズの1年生の中でもかなり大人びていたので、そうなる前の姿を見せたかったのでしょうか。

 3人はアリーナ後方側ステージでパフォーマンスをしていました。コールできるところがたくさんあり、声援で盛り上がれる曲です。否、これに関しては声なしでも十分盛り上がったかもしれず、声援によって「ワクワク」が増す結果となったといえるでしょう。

 最後は、メインステージの2年生による『Marine Border Parasol』でした。3人でステージを端から端まで使って、パラソルに見立てた傘を回しながら踊っていました。

 間奏に梨子の台詞があるのですが、聴こえたのが通常の「海の音」ではなく「皆の声」になっていました。観客一同、すかさず歓声で返しました。ラストでも、皆で「イェーイ!」を揃えることができました。波音を立てる本当の海だけでなく、「光の海」にも音があったのです。

 セトリの半分を占めることになったソロ曲と学年曲。その心は、(確か) 降幡さんの「それぞれの場所で披露」と、伊波さんの「8人のバトン」という言葉に凝縮されていると思いました。今のAqoursは、9人全員で行う活動が一頃よりは減ったと思います。しかし、キャスト全員がソロアーティストとしても活動をしており*4普段はそれぞれがそれぞれの場所で活躍しつつ、その力をAqoursのために使うという「One for All」のスタイルを確立しています。わかりやすい例でいえば、個人の活動としてDJを始め、『D4DJ』にも出演した小宮さんが、自ら「Aqoursの爆弾」と称して高槻さん不在のAZALEAのライブを繋いだことがあります。『ラブライブ! サンシャイン!!』という物語が幕を閉じた後の「新しいAqoursって何だろう」という千歌の問いに対する答えは、まさにこの姿である、ということを見せつけたパートでした。

 

6. あの日の未来

  12曲連続の後、MCが入りました。ここで新衣装の投票企画について触れられました。衣装のテーマはタイムリープ・プロミス」。懐中時計を使って時を超えるAqoursを表現しているとのことです。

 この衣装で披露されるのが、『SKY JOURNEY』です。活動初期にして「かっこいいAqours」を確立した曲です。私もこの曲の振付が大好きです。実は、前日のTwitterトレンドに入っており、この曲をやることは察してしまっていたのですが、まさか、発売から6年近くが経過してこの曲がライブの「肝」に位置づけられるとは思ってもみませんでした。

 『SKY JOURNEY』は、『HAPPY PARTY TRAIN』からひとつながりの物語である、と言われます*5。『HAPPY PARTY TRAIN』は、「開いた花の香り」 = 「μ’sへの憧れ」から旅に出て、PVに登場するように過去の自分たちと出会う、時を超える列車に乗り込む話です。列車は銀河鉄道のように大空へと駆け上がり、『SKY JOURNEY』の物語へと続きます。ここでAqoursが出会ったのは、「未来のAqours自身」であると、かねて考えていました。未来の自分なので、「どこから来たの」という問いには曖昧にしか答えてくれませんし、多くは語ってくれません。「まだ見ぬ場所」について問おうとしますが、「すぐにここから次へと旅立つ」というのです。しかし、彼女たちは未来の自分たちから熱い想いを受け取りました。輝きへの憧れから『MIRAI TICKET』を手にして、乗り込んだ『HAPPY PARTY TRAIN』で『SKY JOURNEY』した先で、『未来の僕らは知ってるよ』と語れるようになったということで、1期と2期の間を繋ぐストーリーでもあります。「時を超える」という衣装のコンセプトからして、概ねこの考察は当たりだったようです。

 もはや今、この衣装を着て歌っているのは、あの時出会った未来のAqoursなのかもしれません。未来のAqoursは、「僕の知らない」何かに「溜息」を見せつつも、「ためらいがなく」「眩しい」「笑顔で明日を歌って」いました。Aqoursは、コロナ禍に一番多くを奪われたスクールアイドルです。それでも前を向き続け、さらなる未来を目指している、そんな姿がきっとかつてのAqoursたちにも力を与えていることでしょう。

 Aqoursのこれまでとこれからを想い涙したところで、余韻も与えぬように幕間アニメの後半が始まりました。

 前半に登場していなかった梨子・ルビィ・果南の3人が、探偵役で登場しました。刑事の「ようちか」と組み合わせると、いずれも意味のある3人組 (2年生・CYaRon!・幼馴染) になります。前2人の探偵は、「ヨハネアイ」のパロディで3回も天丼した挙句、梨子は推理に失敗し、ルビィは泣き出して容疑者に慰められる始末です。そこに極めつけのように現れたのが「名探偵カナン」でした。確かに諏訪さんは某少年探偵の大ファンではありますが……。果南らしいマイペースなズレ方を繰り返すその態度はもはや探偵を舐め腐っているというレベルで、本家とは別の意味で出会いたくない迷探偵です。

 残念ながら、6th <WINDY> で『迷冥探偵ヨハネ』だった善子は、今回は被害者役なので、出ません。

 はちゃめちゃなストーリーに混乱する頭で、善子がやっていた虚構と現実の掛け合いというメタフィクション的行為に考えを巡らせました。Aqoursはお笑い芸人ではないので、ボケとツッコミではなく歌やダンスなどを通してですが、虚構の問いに現実で答えを出し続けた、2次元と3次元を繋ぐ、まさに次元を超えた存在です。『SKY JOURNEY』で過去と未来を繋いだのも、その延長と考えられるでしょう。

 幕間の後は、Aqoursが再び次元を超える歌です。の、はずなのですが……。

 

7. お預けと未来の予感

 満を持して新衣装で、新曲BANZAI!! digital trippers』の披露が始まりました。初の「アーティストコラボ楽曲」として、日本が誇るバーチャルシンガー・初音ミクと一緒に歌う楽曲です。そのはずなのですが、パフォーマンスをしているのはAqours9人だけでした。もちろん、Aqours9人のパフォーマンスとしては完成度が高く、ミクも本来の姿である声のみで参加していたので、満足できる仕上がりではありましたが、ミクの登場に期待していただけに、いささか肩透かしとなりました。とはいえ、この曲のセンターはダイヤです。いまを楽しめるだけの要素は、十二分にありましたし、いつかは10人でのパフォーマンスが見られることに期待を持つこともできました。

 ここでMCを挟みました。Aqoursにも色々な衣装がありますが、この衣装は9人の統一感が特に高いタイプの衣装です。ダイヤの髪飾りは近未来感のあるデザインで、小宮さんの綺麗な髪に良く似合っていました。

 この衣装で披露された2曲目は『DREAMY COLOR』です。前回のEXTRAライブの表題曲であるこの歌は、9人曲としては再生回数最多を誇る実写PVがあります。実際の沼津・内浦で撮影された映像から、ラストでは海の上にCGで設置された煌びやかなステージへ移り、いまと未来が映像の中で結ばれます。オリジナル衣装はありますが、この衣装も未来的で、この曲のイメージと合っていました。

 2021年のAqours CLUB楽曲に続き、本編ラストは、今年度のCLUB楽曲である『ユメ×ミライ=無限大』でした。最初に聴いたときはしんみりした雰囲気を感じましたが、ライブでパフォーマンスを見てみると、そうでもないことに気づきました。パフォーマンスの持つエネルギーも、Aqoursが時空を超えてどこへでも飛んでいけるなら、きっとまた私たちに会いに来てくれるはずだという安心感も、抱いていた寂しい予感を吹き飛ばしてくれました。この曲で「銀テープ」が飛んだのもそれを象徴する出来事だと思います。

 

8. Aqoursコール復活。願いは叶う

 暗転した瞬間に、そこかしこからAqoursコール」が聞こえ始めました。アンコールで「アンコール」の代わりに「Aqours」と叫ぶもの (Guilty Kiss、CYaRon!、『虹ヶ咲』A・ZU・NAでも応用) で、5thライブ以来3年半ぶりの復活です。声出しが解禁され、Aqoursファンの誰もがやりたかったことで、Aqoursが退場した瞬間にそこら中でAqoursへの想いが爆発してしまいました。私も精一杯叫びました。その想いが最高潮に達するまで、Aqoursは応えてくれません。ニジガクやLiella! に比べても、Aqoursのアンコールタイムは長めです。

 最初に登場したのは、まさかの初音ミクでした。今回もSOUND ONLYではありますが、オリジナルのメッセージを届けてくれました。

 バックモニターには誰も見たことのないPVが表示され、新曲『KA-GA-YA-KI-RA-RI-RA』が始まりました。Aqoursの輝きが結晶した大きな宝石が海の上に浮かぶ幻想的な光景をバックに、暗闇から再登場したAqoursが歌い、踊りました。ミクの英語ラップが印象的に聞こえます。私が初音ミク楽曲を聴いていたのは2010 - 11年頃でしたが、この頃はまだ初音ミクが英語に対応しておらず、日本語で歌わせて英語に聞こえるようにするという調教技術を必要としていたように記憶しています。その後、2013年に英語に対応したそうです。

 ラストは上手奥から下手手前への斜め一列のフォーメーションが決まりました。大変珍しいフォーメーションですが、とても綺麗でした。

 ステージは一度暗転しました。その間に、バックモニターではダイヤが主人公のPVが流れていました。その明かりでうっすらと、フォーメーションを変えるAqoursの姿が見えました。下段奥に並ぶ9人。そして、曲が始まると同時にダイヤの横に等身大のミクが出現したではありませんか!

 2度目のBANZAI!! digital trippers』の披露です。いつか叶ってほしいと願っていたミクとAqoursの10人が並び立つライブパフォーマンスが、ものの数十分で実現してしまいました。小宮さんを筆頭に、Aqoursキャストたちが映像のミクと一糸乱れぬシンクロを果たしていました。ミクが3Dで画面から飛び出してきたりしているわけではありませんが、先程とは異なる10人でのフォーメーションに調整されているため、1人だけ映像であることは問題にならず、統一感のあるパフォーマンスを達成していました。

 ミクは電子の海へと帰っていき、ここで最後のMCが行われました。一言感想に移ろうと小林さんが指名された瞬間、遮るように情報発表のチャイムが鳴り響きました。

 6th <WINDY> でアニメ化が決定した『幻日のヨハネ SUNSHINE in the MIRROR』の媒体がTVアニメであり、7月から放送が始まるという内容でした。東京ドームでは発声が禁止されているにもかかわらず観客の多くに驚きの声を上げさせた情報でしたが、今度は遠慮なく歓びを叫ぶことができます。今まで、「シリーズアニメ化」とだけ表現され、アフレコなど制作が進んでいることは明かされながらもどのような形態なのかは徹底的に伏せられてきました。スピンオフではありますが、Aqoursメンバーが6年ぶりにテレビアニメに帰ってきます。

 

東京ドームの衝撃

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 今度こそ始まった一言感想では、EXTRAライブが「新しい挑戦」をする場であるということに、複数のキャストが言及していました。それはミクとのコラボパフォーマンスであったり、ソロ曲を9連続で披露することであったり、他にも色々な挑戦があったと思います。そして、急遽解禁された声援で、不安もある中で声を届けてくれたファンへの感謝の言葉もありました。何より、共通して言っていたのはAqoursは止まらない」ということです。ファンの間では、4 - 5年も前からもはやお約束のようにAqoursの終わりが囁かれていますが、少なくとも今は止まらないAqoursを信じ続けることが、困難の中でも「いま」を重ね続けてこの未来に辿り着いたAqoursへの誠実な態度なのかなと思います。最後に伊波さんが自身の座右の銘である「日々精進」で締めたのも、個の力をAqoursのために重ねるという決意表明に思えました。

 最後の曲です。また皆で『勇気はどこに? 君の胸に!』を歌えるという事実が、嬉しくてたまりませんでした。本編内でも、2期11話の閉校祭で合唱するところがあるように、今はシリーズで9曲*6あるEDテーマの中で、「皆で歌う」ところと「聴く」ところがはっきり分かれているのが、この曲の特色だと思います。後者には、ソロパート、とりわけ千歌のそれが該当します。

 「やり残したことなどない そう言いたいね いつの日にか」という皆で歌う歌詞は、当時より何倍も重みをもって感じられます。Aqoursはたくさんの挑戦をしてきて、しかし挑戦すればすべてが成功するわけではありません。悔しい思いが存在する限り、夢がなくなることはないという、前向きな歌詞です。

 Aqoursがステージを1往復して会場全体に挨拶し、退場すると、今度は観客の規制退場が始まりました。懐かしかったのは、5thライブのときと同じように、退場していくブロックと、残るブロックの間で、感謝や労いの言葉、拍手の送り合いがあったことです。長い間お互いの声を聴けなくとも、Aqoursファンの思いはずっと繋がっていたのでした。

 

9. 総括 ~冒険に出ることと帰ること~

 今回のライブでは、「時間や次元を超えるAqoursというのが統一的なテーマだったと思います。変わらぬ思いを持ち続け、あの日へと届けた『SKY JOURNEY』、それぞれの力で以前よりブラッシュアップして披露された初代ソロ曲、画面の中の歌姫と一体で踊った『BANZAI!! digital trippers』、そして「シンクロパフォーマンス」そのものをネタにした幕間アニメ。無限大のWORLDは、過去にも未来にも、2次元にも3次元にも広がっています。そして、それは次は「異世界」へと続きます。そう、『幻日のヨハネ』です。世界観や設定は違っても、Aqoursが繋ぎ続けてきたものが、その中にあります。『無限大WORLDプロジェクト』と銘打っている以上、ワールドツアーなども温めているに違いありません。パスポートの準備はできていますか?

 同時に、これが好きな人に想いを込めた贈り物をするバレンタインデーのライブであるということもポイントだと思います。『少女以上の恋がしたい』もまた、『HAPPY PARTY TRAIN』のカップリング曲なのです。『SKY JOURNEY』と繋げて考えるなら、幸せな恋ばかりでなかったにしても、好きでいてよかったと言える未来を信じているからこそ、もう見ているだけの少女ではいられないのです。

 今回改めて感じたのは、Aqoursはそうした新しい挑戦や、心ときめくラブソングを通じて、安心とドキドキを両方与えてくれる、不思議な存在だということです。例えば今回、Day1終了後にYouTubeラブライブ! シリーズ公式アカウントに謎のプレミア公開動画が登録されました。かなり物議をかもしたというか、不穏に感じるファンもいたようですが、実際にはこれは『KA-GA-YA-KI-RA-RI-RA』のPVでした。また、1回9人だけで『BANZAI!! digital trippers』が披露され、ミクを加えた10人のフォーメーションで再度披露されたことや、『幻日のヨハネ』の媒体を長期間伏せていたこともそうなのですが、最近のAqoursは思わせぶりなことをしがちなように思います。あたかも私たちを焦らしてドキドキさせようとしているかのようにです。そうかと思えば、『幻日のヨハネ』の舞台は、異世界の沼津ともいえる「ヌマヅ」です。沼津に何度か、あるいは何度も行った、逆に行ったことがなくてもアニメで繰り返し沼津の風景を見たラブライバーなら、そこに安心感を覚えないはずがあるでしょうか。

 思うに、Aqoursは未来へと進む航海を続けていると同時に、生まれた港である沼津へ帰る旅も続けているのではないでしょうか。いくつもの挑戦に、「往路」と「復路」の要素があるということです。思えば未来への旅に出た『HAPPY PARTY TRAIN』も、降りたのは伊豆長岡駅です。ただ未来へと旅を続けていては、どこかで私たちの元から去ってしまう日が来ます。Aqoursが帰る場所を持っていることこそ、長年続けられる秘訣なのかもしれません。

 Aqoursが客席で待つ私たちのことを光の海と呼ぶように、私にとってのAqoursは、ドキドキと安心をともに与えてくれる、海のようなものかもしれないと思いました。

 

セットリスト一覧

1. 少女以上の恋がしたい

2. 待ってて愛のうた

MC

3. Pops Heartで踊るんだもん!

4. 青空Jumping Heart

幕間アニメ

5. in this unstable world

6. おやすみなさん!

7. RED GEM WINK

8. New Winding Road

9. WHITE FIRST LOVE

10. さかなかなんだか?

11. Pianoforte Monologue

12. Beginner's Sailing

13. One More Sunshine Story

14. 予測不可能Driving!

15. Waku-Waku-Week

16. Marine Border Parasol

MC

17. SKY JOURNEY

幕間アニメ

18. BANZAI!! digital trippers (Aqours9人フォーメーション)

MC

19. DREAMY COLOR

20. ユメ×ミライ=無限大

アンコール

21. KA-GA-YA-KI-RA-RI-RA

22. BANZAI!! digital trippers (10人フォーメーション)

MC

23. 勇気はどこに? 君の胸に!

*1:私はネギが好きではないので普段食べないが、このように普段しないことをしようという気持ちにさせてくれるのもこの趣味の楽しいところ

*2:提供はホテルオハラ。2018年エイプリルフール『ハイパーファビュラスアルティメットジャンボ寝そべりEX』と同じ

*3:直後のセットリストからわかるように、小林さんは早着替え中

*4:参考までに、μ’s徳井青空さんのみソロ活動をしていない

*5:同じように同一シングル内でストーリーが続いている曲に、『smile smile ship Start!』→『心の羽よ君へ飛んでけ!』がある

*6:『わちゅごなどぅー』はEDといえるのか微妙だが含んでいる