普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

スクスタ20章を読み解く ~理事長の娘とスクールアイドルの信念~

 初めまして。普門寺飛優(ふもんじ ひゅう)と申します。

 pixivで2次小説を書いています(1年以上更新できてない……)。

 初回の今回は、ネットを騒がせたラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS』(スクスタ) 第20章について感想を語りたいと思います。

 10月31日、ラブライバーを多数フォローしている私のTLは騒然となっていました。

「新キャラクターを追放しろ!」

シナリオライター、運営を首にしろ!」

「虹ヶ咲学園を廃校にしろ!」

 元々難解なゲームシステムなどで、不満の噴出することの多かったスクスタですが、それはあまりに見ていられない光景でした。

 その「元凶」であるストーリーを読んで思ったことを書き込んでいきます。初投稿でさらっと仕上げようと思っていましたが、超々長文になってしまいました。

 なお、本稿は20章のネタバレ全開です。また、内容について個人的な咀嚼と解釈を目的としておりますので、まだ20章を読んでいてネタバレを回避したい、また擁護意見など見たくもない方は今すぐお戻りください。

 また、21章以降には続きません。

目次

  1. 『スクスタ』20章とは?
  2. 鐘嵐珠という人
  3. 同好会メンバー、それぞれの思い
  4. これからどうなるのか/どうなるべきか?

 1. 『スクスタ』20章とは?

 『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS』(スクスタ) は、μ's、Aqours虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会という歴代ラブライブ!シリーズのスクールアイドルが総登場するゲームアプリです。ストーリーは虹ヶ咲学園に所属し、9人 (のち10人) のスクールアイドルを支える部長兼マネージャ的立場の「あなた」を主人公とし、それと同時代に存在するμ'sとAqoursのメンバーたちも登場します。

 主人公はある日、μ'sとAqoursの合同ライブを見て、スクールアイドルたちを一番近くで見たいという夢を抱きます。そして、ばらばらになっていた虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会を立て直します。その後、スクールアイドルたちの文化祭である『スクールアイドルフェスティバル』(SIF) への出場を目標にAqoursやμ'sとの交流が始まりますが、SIFは主催者が退いたことで開催が取りやめになってしまいます。主人公はSIFの主催を引き継ぎ、元主催者の妹であった三船栞子との確執と和解を経て、会場やスタッフの問題を解決し、ついにSIFを成功裏に収めます。ここまでが1st Seasonの内容です。

 主人公はその直後から、2ヶ月の短期留学へと旅立ちます。その間、主人公に成長した姿を見せるべく、同好会メンバーたちはμ'sとの合同合宿を行います。紆余曲折あってAqoursも合流するのですが、現実時間でもこの2ヶ月間は基本的にストーリーが進みません (Intermission)。

 問題の2nd Season開幕である20章は、主人公が留学から帰ってくるところから始まります。学校へ向かった主人公を迎えたのは、"スクールアイドル部" を名乗る鐘嵐珠 (Zhong Lanzhu) という見知らぬスクールアイドルが、同好会メンバーの筈の果林栞子をバックダンサーとして従え、ライブを行う姿でした。その場に居合わせたかすみに連れられて再会した同好会メンバーに告げられたのは、衝撃的な事実でした。

  • 鐘嵐珠は学園理事長の娘であり、最近転入してきて部を設立したこと。
  • 嵐珠は同好会に部への合流を求め、同好会は活動停止、部室取上となり、生徒会メンバーによる監視に追われていること。
  • 部は作曲、マネージメント等を (μ's、Aqours、同好会とは異なり) プロに任せていること。
  • 果林栞子はいまや部のメンバーとして活動していること。

 同好会活動を認めてもらうべく、主人公は嵐珠のもとへ交渉へ向かいます。ところが嵐珠は部の部室を見せつけ、生徒として編入させた天才作曲家、ミア・テイラーとも引き合わせて、逆に主人公を作曲家として自信喪失に陥らせてしまうのでした。

 同好会メンバーたちは生徒の支持を回復するため、ゲリラライブを企画します。しかし、生徒の多くは裏被りした部のライブに流れてしまいました。残った少数の生徒の前で必死でライブをやり遂げたかすみ。しかし、その姿を見たしずくは、逆に部への移籍を決意してしまうのです。

 ばらばらになってしまった同好会はどこへ向かうのでしょうか?不安のままに、20章は終わります。

2. 鐘嵐珠という人

 この20章騒動でもっともヘイトを一身に集めているのが嵐珠その人でしょう。理事長である母の七光りで圧倒的な資金力を振りかざすところ。高慢で、自分のやりたいことを押し付けて、人の話を聞かないところ。同好会メンバーのことは「磨けば光る原石」と考え、自分の活動に無理やり引き入れようとするところ。そして主人公である「あなた」に、冴えない、要らないと言い放ったところ。カチンとくるポイントは、確かにたくさんありました。

 その嵐珠の幼馴染である栞子は、嵐珠のことを「自己中心的で、強引で、人の神経を逆なでする天才」と評します。一方で我が強く、押し付けがましいのは自分と同じで、「自分がそうしたら皆が喜ぶに違いないという思い」だけで悪意はないことを強調しました。

 そのような性格のため、嵐珠には栞子しか友達がいません。嵐珠はスクールアイドルで青春することを望み、一緒に活動するミアを友達と言い張りますが、今のところ本当にミアから友達だと思われているかは疑わしいところです。*1

 虹ヶ咲の物語において、「価値観の押し付け」は度々影を落とします。まさに本人も言っている通り、「みんなが正しく幸せになるため」に、かつて姉の薫子が名家の娘としての安定人生を捨てて挑戦し、苦難するもととなったスクールアイドルを否定し、廃部に追い込もうとした栞子自身がその一例です。TVアニメでも、せつ菜ラブライブ!大会に出場することで皆の「大好き」が叶えられると信じて、自分の「大好き」を押し付けたのは記憶に新しいです。*2メンバーそれぞれの個性が要となる虹ヶ咲では、価値観同士の衝突から解放されることはないのだと考えます。

 一方で、嵐珠がせつ菜と一番大きく違うのは、他人に迷惑をかけても全く頓着しないところです。せつ菜が同好会を辞めた (アニメでは廃部にした) 理由は、いずれも「自分の押し付けによって皆に迷惑をかけたから」でした。人様に迷惑をかけずにオタク活動をすることはせつ菜のポリシーであり、それを破ってしまうと周りのせつ菜自身を想う気持ちも顧みずに自爆するところを何度も見たように思います。これはおそらくせつ菜こと中川菜々の家庭環境が原因です。中川家ではオタク活動や、ひいてはスクールアイドル活動が禁止されていたため、堂々とは言えない趣味をやっているという意識を菜々自身が内在化させていたからといえます。

 一方で、そのような人のことを慮る経験を全くせずに、そして自らの望むことを、何の障壁もなく実現したことしかなく*3高2まで成長してきてしまえば、どんな人間ができあがるでしょうか。親の顔が見てみたいですね。

 そう、その親というのが他でもない自由な校風と専攻の多様さで知られる人気の高校・虹ヶ咲学園の理事長です。

3. 同好会メンバー、それぞれの思い

 20章ではそのような鼻持ちならない人物の登場や同好会活動が迫害されていることだけでなく、メンバーの「仲間割れ」もラブライバーの心を痛めつけました。

 事態に対する各メンバーのスタンスをまとめると、以下の通りです。

  • 歩夢: 主人公と共にあるべく、同好会に残留
  • かすみ: 同好会に残留し、実力で自分たちが「本物」だと認めさせたい
  • しずく: かすみに対抗する秘訣を探りに部へ移籍
  • 果林: 自らの実力を磨くために部へ移籍し、嵐珠を実力で超えたい
  • : スクールアイドル活動自体を優先し、また嵐珠と友達になるために部に移籍
  • 彼方: 同好会に残留
  • せつ菜: 同好会に残留するが、静観
  • エマ: 同好会に残留し、果林がステージで歌う姿が見られないことに怒りを露にする
  • 璃奈: 同好会に残留するが、静観
  • 栞子: 嵐珠の幼馴染として部へ移籍

 ここでは便宜上「残留」「移籍」という表現を使いましたが、客観的な実態はそうでない可能性があります。嵐珠は自らの部に同好会そのものを引き入れたいのです。そして、母である鍾理事長のもとでは、嵐珠が望んだことは実現します*4つまり向こうの言い分、ひいてはより客観的な見方のもとでは「嵐珠が同好会に加入して予算も付けて部に昇格させて環境も整えたのに、何人かが言うことを聞かずに勝手に本家同好会を名乗って抵抗を続けている」という可能性さえあります。主人公の視点は当然同好会側にありますから、偏っているという可能性は否定できません。

 今回同好会を「裏切って」部に行ったメンバーたちの目的は、「①自分を磨くこと」「②嵐珠との対話」に大別できそうです。

  虹ヶ咲のスクールアイドルたちは、自らのやりたいことのために妥協しない活動をモットーにしています。場合によれば、11人で活動することよりも自らの実現したいことが優先するということです。このソロ活動を提案したのは、スクスタでは果林です*5。そんな果林ですから、レベルアップのためにより高い環境を求めるのは自然です。

 ところが、エマはそんな果林を軽蔑するかのような言葉をかけます。部では最も優れた者しか歌うことができません。しかし、ファンは果林が自分の言葉で歌うのが見たいのです。主人公をはじめとする同好会メンバーはライバル同士でありながらそれぞれのメンバーの一番のファンであり、それに背を向けることになればかつてのせつ菜の失敗とも重なります。

 一方でしずくかすみの場合には状況が少し異なってきます。しずくはかつて自身のコンプレックスであり、どの媒体でも発揮の仕方に苦難していたた「自分らしさ」をフルに発揮できるかすみに憧れ、強烈にライバル視しています。そして、嵐珠のステージをそれとは異質な存在として捉え、それに「自分らしさ」だけで対抗できるかすみに憧れています。そして自分の目指すべきものが部と何が違うかを見極め、かすみに対抗できる自分らしさを手に入れるためにあえて部へ乗り込んでいき、修行して帰ってくることを誓います。自分磨きという意味では果林と共通していながら、同好会メンバーとしての自身を確立するために部の活動を知ることを目指しています。しずくかすみの行く道は違っても、同好会は自分らしさを発揮できる場だという認識は共通しているのです。

 嵐珠の幼馴染である栞子は、生徒全員、特に同好会メンバーを幸せにするという使命を忘れてはいません。そのために部に乗り込んで死に体で帰ってきた同好会部長である主人公を気遣い、同好会の救済に尽力することを約束します。そして自ら、幼馴染のそばにいて支えながら、その暴走を見守り、裏を返せば監視していくのです。*6

 のスタンスはそれに似ているようで、違います。栞子のそれが「正しく、幸せ」になることだとすればの場合は「楽しく、幸せ」であることといえるでしょう。璃奈の"義姉"である川本美里は人づきあいにハンデがあり、なかなか友達ができなかったところ、が話しかけて友達になりました。は誰とでも友達になることができますが、特にそのようなタイプの人と打ち解け、笑顔を引き出すことを得手、かつ趣味としているようにも見えます。そんなが、今度は嵐珠に目を付けたのでしょうか……?

 しかし、部に行った他のメンバーの行動と比べるとの行動はやや異質です。自らの限界に挑みに行った果林しずく、博愛的で自己犠牲的ともいえる栞子に対し、はこの状況を楽しんでいるようにも見えます。そしてこの行動によって、少なくとも一部のメンバーの笑顔が奪われていることにも留意すべきです。

 ところで、せつ菜璃奈の動きは少し気になります。同好会でしか活動しないことを表明し、ゲリラライブの準備などは積極的に進めましたが、部や部に行ったメンバーへの抗議は特に行っていないのです。ほかにもそのようなメンバーはいますが、かつて「大好き」の表明のために戦い、栞子と選挙戦を交えたせつ菜や、無類の親友であると離れ離れになってしまった璃奈は特に意外に思えます。尺の都合もありそうですが、せつ菜の場合は先述の通り他人の領分に踏み込み過ぎないようにしようという思いが働いたのかもしれません。璃奈に関しては現時点では情報不足としか言えません。もしかすると、について、璃奈だけが知っていることがあるのでしょうか?

4. これからどうなるのか/どうなるべきか?

 この度のことで「スクスタやめます」という方を除いて、虹ヶ咲のスクールアイドルたちの行く末が気になるところだと思います。

 1st Season後半の栞子編では、自らのやり方が壁にぶちあたった栞子が同好会メンバーの影響で変わっていく様子が描かれました。ということは、この先の章で描かれるはずのものは嵐珠の成長であり、虹ヶ咲の根底であるそれぞれのやりたいことややり方が違っていて、それを押し付けあうのではなくその競い合いと重なり合いで一人では生み出せなかったものを生み出していく、ということを理解していく過程でしょう。しかし、ここで障壁になってはならないものが、最大の障壁になります。

 虹ヶ咲学園の理事長。鐘嵐珠のお母さん。いち転校生である嵐珠が喚いたところで大金が動いたり同好会の活動が禁止になったりすることはありませんから、前項で述べた通り、この母の娘のことが「大好き」な気持ちが、同好会の関係者たちをめちゃめちゃに乱している、というのが事件の本質だと思います。虹ヶ咲の自由な校風が偽りだということは決してなく、この学校では、鐘理事長のもとで自由な校風が成り立ってきました。しかし、今までもすべてを与えてきた自分の娘が、自分の学園に転入してきました。お母さんは最高の環境を与えるため、スクールアイドル部を作り、最高の仲間を与えるため、同好会を理事長権限で無理矢理統合させようとし、その結果すべての歯車が狂ってしまったのです。

 思えばラブライブ! の歴代理事長は大金と権力を握っており、その娘はやはり多くを与えられてきました。ことりに留学の案件を持ってきたのも音ノ木坂学院の理事長でしたし、鞠莉はおそらく前理事長であった父に浦の星女学院そのものを与えられました。それだけの力を持った存在が暴走しているならば、それを止めるのはとても難しいことです。

 しかし、この理事長の目に物言わせない限り、同好会に明日はないといっていいと思います。そしてそれができるのは娘である嵐珠ただ一人であり、嵐珠の心を開き、初めての孤独な挑戦を後押しできるのが虹ヶ咲のスクールアイドルたち、そして”あなた”です。

 もはや希望的観測ばかりつらつらと語っていますが、同好会を『裏切った』メンバーたちがその鍵になると信じています。『離れていても繋がっている』こともまた、ラブライブ! で長らく語られてきたことです。そしてこの状況に置かれそれぞれに立ち向かおうとしている皆のスクールアイドルの信念は、それをきっと可能にしてくれることでしょう。

 21章は月末の公開。執筆に1週間ほどかかってしまいましたが、ここで語ったことは大いに裏切られるかもしれません。しかし、この『今』をここに刻み付けておこうと思います。

*1:もっともミアは所謂ツンデレであるだけという可能性もある

*2:スクスタにも似たような展開がある

*3:それに加えて、生まれつき美形でもある

*4:「やりたいと思った時から、きっともう始まってるんだと思う」断じてそういう意味ではないはずだが……

*5:ここはアニメとの最大の違い

*6:部下が同好会の監視委員などやっているのは、一体何の皮肉だろうか