普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

私を宿した本当の魔法 ~幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 感想週報⑫『さよならライラプス』~

 『幻日のヨハネ』アニメ版最大のサプライズといえば、やはり喋るライラプスです。最初こそヨハネを見守る姉のような存在と思われていましたが、話が進むにつれてヨハネと同じくらい未熟なもの、いやむしろ未熟な部分がヨハネとそっくりなことがわかってきました。そして、ヨハネはそんなライラプスを置いて前に進もうとして、それができなくて塞ぎ続けていて、ヨハネライラプスの関係はずっともやもやしたものが続いていました。アニメ全体にも重苦しい雰囲気を漂わせていたかもしれません。

どっちが正しいのか?

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 とはいえ、これは物語ですから、そのようなもやもやには答えが出ます。これは、そんな答えのお話です。

 

都合はいいかもしれないけれど、かけがえのない大切な存在
(『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』第12話『さよならライラプス』より/©PROJECT YOHANE)

 

 

1. 答え合わせ

 今回の話をする前に、「自分で気づいたわけではなかったのではっきりとは書けなかったけれど、既に本文で前提として扱っていた内容」があります。明示しておいても良かった気がしますが、ライラプスヨハネとしか会話していないことです。一応、1話の時点で「ワンワン吠えて疲れちゃったずらね」という台詞があり、謎として提示されてはいたのですが、明確な回答はここまで保留されていたのです。

 ライラプスヨハネと「だけ」話せるようになったきっかけも、9話以降度々回想されてきました。幼いヨハネライラプスにかけた魔法によって喋れるようになった、と簡単に説明することはできました。今回は、これまで断片的に現れてきた回想シーンがひとつながりになって、ようやく2人の過去を本当の意味で知ることができました。

 ヨハネライラプスが出会い、一緒に暮らすようになった後、ヨハネライラプスに好きな歌を聴かせるようになっていました。ヨハネは人と話すのが苦手で友達ができず、しかし寂しがり屋なので、話し相手を求めてライラプスに魔法をかけたのです。ヨハネは、自分に魔法が使えると思っていませんでした。そんな素朴な願いは、しかし本人も思いがけず叶ってしまいました。

 この頃のライラプスは、ヨハネにとって都合のいい話し相手でしかありませんでした。他の人が認めてくれない歌を好きになってくれて、どこまでも自分についてきてくれればいいと思っていて、実際ライラプスはそのようにしていました。

 ところが、いつの日からか、ヨハネの言うことすることに反対のことばかり言うようになっていました。夢を持ったといえば、ヨハネを不安にさせるようなことを言い、妹と呼べば自分が姉だと言い張り、そうかと思えばヨハネが直視したくないことを無理に気づかせ、踏み出せない一歩に背中を押してくれたりもしました。

 また、「何でも屋」であることを認めたくないながらも何でも屋として頑張るヨハネの知らぬ間に、自らも何でも屋として活躍し、ヌマヅの名犬として注目されていました。とはいえ、そのことをヨハネに報告したり相談したりはしないし、ひとりで頑張って、ついには川で溺れるような羽目になりました。

 トカイでの失敗を抱えながら、ヌマヅで人々と触れ合いながら変化していくヨハネと、ヨハネが変化していくことも、自分が変化していくことも恐れているライラプスが互いに反発していた、という構図も、これまで考察されてきた通りでした。その意味で、12話は「答え合わせの回」だったと言えます。さらに、今回は踏み込んだ答えが用意されました。

 あまり批判的なことは書かないようにしていたのですが、私は、内心ずっとライラプスのキャラがぶれていると思っていました。何を考えているのかわからないと悩んでいたのは、きっとヨハネと同じでした。ヨハネが成長すればするほど、ライラプスは同じ場所で足踏みをしていました。

 それらもすべて、ライラプスの正体を知れば、すとんと腑に落ちました。

 ライラプスとは、ある面では「ヨハネの一部分」だったのです。

 ライラプスヨハネ自身だったから、幼い頃はヨハネの理想の友人であり、自我が複雑になる10代になると、今度はヨハネの中にある葛藤とか、矛盾を映し出す鏡のような存在になったのです。だから反対ばかりしているし、自分を納得させることのないヨハネは度々ライラプスと喧嘩していたのです。

 ライラプスに諭されたことは当然ヨハネ自身が気づいていて、しかし自信がなかったり、素直に認めたくなかったことでした。

 ライラプスヨハネがいつか別れる運命にあると知ったとき、別れたくない、ヨハネの成長を認めたくないと思ったのはライラプスであり、すなわち自分の変化を恐れていたのはヨハネでした。

 ライラプスの思考や行動がヨハネとよく似ていたのは、当然のことだったわけです。

 自我というものは、常に自分自身の中に矛盾を抱えています。ヨハネは、その矛盾を知らず知らずの間にライラプスに担わせて、「裏表のない」自分自身と切り分けていました。そして、トカイへ行ったとき、その半分をヌマヅに置いて行ってしまったのです。トカイで夢を叶えるにあたって必要な不安とか、恐れとか、ありとあらゆる自問自答の自問の部分を、ライラプスに預けて、あまつさえ喧嘩別れしてしまったのです。だからトカイでのヨハネは文字通り「半人前」で、大人たちにはそれを見透かされてしまったのでした。

 

2. 魔法が解けても

 とはいうものの、"ヨハネ" になる前のライラプス、つまりヨハネの半身の依り代となった子犬 (繰り返すようだが狼獣。しかし、本当に喋れるわけでもないとなると、ただの犬でも話としては成り立つ) がいたはずです。母と約束を交わしたのは、真のライラプスだったと解釈しています。ライラプスヨハネを想う気持ちは、どこまでがどちらのものなのか、今ではわからなくなってしまいましたね。

 ヨハネの心の音はライラプスにとうに通じていて、ライラプスは10年前後もの間、ヨハネの一部を宿して、ヨハネと同じように喜び、楽しみ、そして悩んできたのです。ですから、ヨハネが成長していくのが寂しかったのがライラプスの本当の感情だというのも間違いではないのです。

 ライラプスヨハネの半身を宿していて、ヨハネを映す鏡だという今回の話の結論が、ある面では比喩であり (こちらではライラプス自身の人格を重視している)、ある面では本当である (この面ではライラプスに宿ったヨハネのほうを重視している) というのが、『幻日のヨハネ』のミソなのでした。これはかなり複雑ですが、2人が別れた後の様子を見ると、真のライラプスの存在に迫ることもできると思います。

 これまでヨハネを導いてきた杖を手にしたヨハネ。杖そのものが何かをなせるわけではありません。ヨハネには、仲間たちとの思い出と、かけがえのない経験があります。杖はその象徴である、といえばそれまでですが、私には、ヨハネがこの杖に導かれて仲間たちと出会ったと思えます。それは、かつて話し相手を求めたヨハネに、魔法がライラプスという友を与えたように、自分にしかできない楽しいことを求めていたときに、今度は直接そのものをくれるのではなく、もう一度歌う自信だったり、特別な力を持っているかもしれないという原動力や、力に詳しくて、手を差し伸べてくれる相手を求めている仲間との出会いなどなど、物語の場面場面でヨハネが自分の力で進めるように、道を探す手がかりをくれたのです。ヨハネが形のない輝きに気づいたとき、それをいつでも思い出させてくれる存在の大切さを認識していたのは、ライラプス (の中のヨハネ?) でした。これに関しては、今思えばどちらが正しいとか間違っているということではありません。

 そのことを言葉にしたヨハネに、ライラプスは一言「バウ」と吠えて返しました。私は、こんなに感情のこもった吠え声を聞いたことがありません。これは、ヨハネライラプスの声が聞こえなくなったことだけを指しているのではなく、むしろ別々の存在になった後も信頼関係が消えていないことを意味しています。ライラプスが最後に語ったように変わらないものなどない中で、決して変わらないものを言葉ではない方法で示してくれました。なお、私の貧弱な耳には、この声が日笠陽子さんの声なのか*1、それとも別の声優さんの声か、あるいは本物の犬の鳴き声なのかは判別できませんでした……。

 自分自身を宿す存在とのかけがえのない時間。相手の半身を受け入れ、融けあうほどの愛。『幻日のヨハネ』はやっぱり百合でした。

 

3. 異変の行方は?

 正直、ヨハネライラプスの関係の答え合わせが終わって、それと同時にヨハネが一人前の存在として生誕する瞬間さえ見届けたら、もう12話は十分なのですが、世界はそれどころではなくなってしまっています。

 上空から木の根のようなものが生えてきてしまっています。

 トーレス湿地原には、人間さえ昏倒させるほどの強烈な不協和音が漂っています。

 このままいけば、確実にヌマヅは終わりです。

 これまでも、ヨハネが前に進めるように手助けしてくれたのとは裏腹に、ヨハネに何かが足りない時に限って異変がヌマヅを襲っていたので、これも含めてヨハネの心象描写のようにも描かれています。『幻日のヨハネ』というタイトル通り、ヨハネの内面を世界として描いているともいえるのですが、それにしたってこれを現実の現象としてみたときにはあまりにも深刻です。行政局は、ついにヌマヅからの疎開を決断します。ヌマヅの外には安全な地域が広がっているのですね。

 そして、こちらの状況は12話を通してほとんど進展しません。ヒントすら示されていないので、13話の予告にあった晴れ渡るヌマヅが実現するためには、13話で唐突に解決するほかありません。

 先述のようにこれが心象描写なのであれば、ヨハネに足りないものがなくなった今、解決の糸口が見えてくるはずです。そうでなければ、嵐のように自然に去っていくのかもしれません。

 おそらく制作側としては『幻日のヨハネ』の本題として捉えてはいないのでしょうけれど、私たちにとってはどうしても気になるヌマヅの行く末は、いよいよ13話で明らかになります。

*1:こんなに上手かったら麦穂あんなさんの立場が脅かされてしまうのでは?