ユニットの「初めて」、侑の「初めて」
完全に余談から入りますが、『ラブライブ!』シリーズアニメの制作会社だったサンライズは今年4月に会社再編により、バンダイナムコフィルムワークスという社名になりました。その一方で、YouTubeなどの配信では開始時や右下に現在もサンライズのロゴが入っているのをご存知ですか? 実は、「サンライズ」の名前は同社のアニメブランドとして存続しているのです。
今回は、サンライズに因んで (?)、「虹ヶ咲の太陽」のお話です。
1. これまでの宮下愛!
従来の愛、特に『スクスタ』での彼女には明確な弱点が描写されていませんでした。勉強もゲーム感覚、スポーツも人助けもそつなくこなす上、新しいことをどんどん思いつき、失敗してもめげない人物として捉えられていたと思います。新しいスクールアイドルと友達になろうと「部」に移籍したかと思えば、トーナメントライブを思いつき、それで打ちひしがれた果林が彼方の助け船でエマと和解したと思えば、ユニットでのライブを思いつくという具合ででした。
しかし、『アニガサキ』では違います。1期の段階で、「ルールの決められたゲームの中で最高のパフォーマンスを発揮する」という特性が描かれていますが、裏を返せば表現したい自分自身があることには気づいていませんでした。だから特定の部活には所属していなかったのですが、スクールアイドルになることで愛はなりたい自分を表現する楽しさを覚えました。
今回も愛は、今まで描かれてきた愛では想像もできないような壁にぶつかることになりました。
2. 姉と妹というもの
『スクスタ』ではお目にかかっていましたが、愛の"姉"、川本美里がアニメ初登場しました。「姉的存在」ということは、血の繋がり以外の部分は姉妹ということになりますが、どのような点で美里は愛の姉なのでしょうか。
美里は病弱で、繰り返し入院していたこともあり、外の世界との接点を持たずに過ごしてきました。その美里に外の楽しいことをたくさん話したり、できる遊びを一緒にしたりして元気を与え、心を照らしてきたのが愛、という関係が、これまで語られてきた美里と愛の関係です。姉妹のうち姉というものは、妹から活力をもらって生きる生き物なのです。ニジガクなら彼方もそうですし、『サンシャイン!!』ではダイヤも聖良もそうであったはずです。しかし、それだけなのでしょうか?
その疑問に答えてくれたのが今回の2期4話でした。姉は妹より先に生を受けた存在です。美里は、人見知りであった愛の最初の友達でした。妹にとって、生まれて初めて接する年齢の近い女性を姉というのであれば、確かに美里は愛の姉と言えるでしょう。妹とは、姉の姿を見て人格形成をするものです。先の例で言えば、遥もルビィも理亞も紛れもなくそうです。今の活発で友達の多い愛を、美里が形作ったことは、「姉妹的存在」の重要な要件です。
愛といえば、どこまでも「テンアゲ」で、笑顔を、楽しさを振りまいていく人物でした。それこそ嵐珠ではありませんが、今までの愛は「与えるだけ」のキャラクターとして描かれてきたところがあるのではないでしょうか。それに対して、今回は美里の優しさを受け取ったり、元気をもらったりという側面にスポットライトが当てられました。このことにより、美里が愛にとって大切な存在であることがより強調されたのです。
3. 与える光と照らし合う光
久しぶりに太陽の光を浴びた美里は、愕然としてしまいます。ずっと自分に光をくれた愛は、外の世界ではもはや美里だけのものではありません。愛が楽しみを見つけたことは喜びつつ、自分がもはや得られないものを届けてくれる愛が、自分のものでなくなってしまったことは、ただ一つの心の支えを失ったも同然でした。
美里と疑似姉妹という箱庭に籠っていたのは、愛も同じでした。自分は美里を元気にしてあげられると無邪気に信じ続けてきて、そのためのオンラインライブまで企画したほどです (ここでの愛はいつものアイデアマンです、アイだけに)。
自分がやりたいことを追求することで、美里が傷ついていた可能性に思い至った愛は、スクールアイドルとしての自己を否定してしまいます。一番大切な人が持てないものを自分は持っていて、しかもそれを与えることができないという状況は、元気でも笑顔でもなんでも気前良くあげてきた愛にとっては耐え難いものでした。
しかし、その愛が与える側から奪われる側に回ったとしたらどうでしょうか? 愛が絶望してしまった暁には、果林は愛のファンを全部奪うと宣言します。もちろん、愛はそれに全力で抵抗します。助けるということが、与えるだけではありえないことを、果林は実践してみせたのです。今の愛に必要なのは、張り合える存在でした。"太陽"と"夜の星"が本気で喧嘩する神話のようなユニット、DiverDivaの誕生です。
そして迎えたライブは、オンラインライブとは言いながら、会場での観覧もできるようにしていました*1。複数の選択肢を用意することで、愛は美里自身の手に選択を委ねます。美里は愛に合わせる顔が無く会場入りを躊躇していましたが、配信を見て最前まで駆けつけていました。
このライブが美里にもたらした展望は大きく2つあると思います。1つは愛と競い合う存在としての果林を見せつけたことで、美里にとっても張り合う存在を見つけさせたこと。もう1つは、「オンライン」というソリューションで、まだ身体に不安の残る美里にも、諦めていた国際関係の仕事ができるかもしれない、という可能性を提示したことです。2人の箱庭が、消えない光によって新たな関係性へと生まれ変わったのです。
4. 4話に見る1期のおさらい要素
愛と美里の関係性の構造は、1期の侑と歩夢の関係に少し似ている気がします。歩夢に押し倒されるまで歩夢の異変に気付かなかった侑と、侑が自分の夢を見つけたことに暴発してしまった歩夢に比べれば、この2人の関係はよほど大人だとは思いますが……。愛と美里の関係も、客観的には「幼馴染」です。
それと同時に、同じ姉妹回である彼方の回 (7話) も思い出されます。これは、彼方一人、遥一人では叶えられそうもないスクールアイドルの夢を、二人が一緒に歩むことで諦めずにいられるという回でしたが、ここでは2人ではだめで、3人でライバル関係になることで初めてバランスが取れました。
果林が愛を挑発するシーンで登場した屋上の練習場所は、1期2話で旧同好会が分裂するシーンでも使われています。ちょうど日向と日蔭になるところがあり、今回もそれが心象描写に活かされています。
ED主題歌後、2つのシーンが流れましたね。1つは栞子の姉 (言うまでもないがこちらは実姉)、三船薫子の帰還。もう1つは、しずくの家のシーンです。『アニガサキ』は次回を匂わせるシーンをどこかに必ず入れてきますが、2つも入るのはレアケースだと思います。薫子は、『スクスタ』でも大暴れしたキャラクターで、侑のアナザー的な存在でもあります*2。一筋縄では行かなそうですが、栞子の覚醒に大きく関わってくることは間違いないでしょう。