『アニガサキ』の主人公、高咲侑の名前は、ファン投票で決まりました。主人公の名前を公募するアニメというのも世にも珍しいと思いますが、これは視聴者が侑に自己投影するための仕掛けでもあります。
その企画ページに、このような文言がありました。
「あなたってこんな子!」
【投票スタート!】
— 電撃G's magazine編集部 (@gs_magazine) 2020年1月30日
読者参加企画!「あなた」の名前を教えて! TVアニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」What’s “your name”? #lovelive #虹ヶ咲 https://t.co/l3WfjHM6oc pic.twitter.com/1r8lC1gvhe
もちろんこれはのちに侑と呼ばれる人物の紹介のために使われた表現*1ですが、これを言われた視聴者は、「あなたってどんな子」か自分ではよくわかっていなかったのではないでしょうか。
今回は、自分の知らない「あなた」についての話です。
1人ではたどり着けない場所があることを証明するのが、4人の使命
- 1. ENJOY IT! ~ラブライブ!ユニット小史~
- 2. 複線で進む物語
- 3. 個性はどうやって重ねる?
- 4. 『Just Believe!!!』
- 5. 知らなかった個性がここにも!
- 6. 新メンバーがぶつかる価値観
- 7. 新しい自分との出会い
1. ENJOY IT! ~ラブライブ!ユニット小史~
今回はなんといっても、QU4RTZの『ENJOY IT!』です。『ラブライブ!』シリーズのユニットの歴史は、2011年5月にPrintempsが『Love marginal』をリリースしたときから始まりました*2。QU4RTZはラブライブ! ユニット活動11年の歴史の中で、初めてTVアニメでライブしたユニットとなったのです。ニジガクのユニットも、メンバーの新しい個性を発掘する役割を果たした意味では他のタイトルと変わりません。しかし、9人グループを3分割したイメージの強い歴代作品*3に比べ、ユニットの個性がメンバーそれぞれの個性から導かれるという特徴があります。スクスタでもアニメでもユニットに注目したストーリーが描かれたのは、この特徴からユニットを組むまでがドラマになりやすかったからでしょうか。
スクスタも4ユニットの結成を描いた
2. 複線で進む物語
3話は侑とQU4RTZの問題解決が複線的に進んでいます。これは必然で、2期は侑の物語である一方、スクールアイドルのほうも話を進めないわけにはいかないからです。侑は作曲の最終課題をどう進めればよいか、エマたち4人は4人でのライブで何をするかで壁に当たりました。ただ、それぞれが独立しているわけではないのがポイントです。今回は、ともに「やりたいことをやる、自分たちが楽しめるものをつくる」という軸がありました。その上で、「自分の知っている自分だけが自分ではない」という答えを得て、それぞれ「自分」を見つけることで表現を作り上げました。
侑は、個性豊かなスクールアイドルたちに囲まれながら、自分の個性には気づけていませんでした。しかし、スクールアイドルたちのアドバイスの通り、それを見つけなければ作曲ができないことにはなんとなく気づいていたのでしょう。作曲のコツを聴こうとしたミアは自分の気持ちを入れずに曲を作れる人なので、その考えには馴染めず、思い悩んでいました。
3. 個性はどうやって重ねる?
QU4RTZメンバーのうち、璃奈以外の3人は「旧同好会」のメンバーです。かつて5人で1つのライブをしようとして、やりたいことの衝突から達成できなかったメンバーたちです。自分の思っている個性をただ盛り込もうとすると当然成り立たないことは、3人が一番よくわかっています。服飾同好会の衣装も着ぐるみもかわいいですし、舞台もバーチャル空間や夢の中*4にすれば、何でも詰め込めるかもしれませんが、4人で作るステージとしては物足りません。例えばかすみの場合は決して自分勝手に「かわいい」を自己主張しているわけではなく、自分の理想とするかわいさが他の3人の中にもあると信じているから主張するのです。それでも、噛み合いません。
璃奈の発案でメンバーの家を回って合宿している中、実は当の璃奈だけはやりたいステージを言っていません。むしろ調整役に回って、自己主張は小出しにする程度です。最終的にそれも璃奈の個性だと他のメンバーからは言われていましたが、自分にできることが場をまとめ、引っ張ることだと早い段階で自覚したのではないでしょうか。旧同好会は5人での活動失敗を経験している一方、璃奈はそれを経験していないことも関係していると思います。
1期の璃奈は、ガラスに映った自分の顔に怯えていました。自分の気持ちを表現できない顔、言い換えればコンプレックスそのものを常に人に見られている状態だった璃奈は、やっとできた友達からも逃げてしまいました。しかし、今回紅茶に映った璃奈の顔 (トップ画像) は明らかに違いました。見られることも悪くないと知り、自分の姿を再発見したのがこのシーンです。
かすみは、見られていることで新たな自分を発見できることに気づいたときも、自分の理想のかわいい姿を他者も見ていると信じて疑いませんでした。しかし、かわいさはそれだけではありませんし、かすみの魅力もかわいさだけではなかったのです。かすみが魅力的だと思っていなかった大きなリボンを、4人の衣装で背負ったのは面白いアイデアだと思いました。4人の個性をただ足すだけでなく、音叉のような単一の音から、4色の光が散らばるように、可能性が広がっていったのです。
4人の家での合宿では、ユニット活動の原点にあたるSIFの写真が全員の家に飾られていましたね。彼方が自己主張を爆発させているシーン*5では写真は彼方に隠れてしまい、4人だからできることを見つけたエマの部屋では写真に焦点が合ってくっきりと映るという使われ方をしており、とても印象的でした。
4. 『Just Believe!!!』
QU4RTZのライブをはじめとするシーンで何故か多用されたのが、『Just Believe!!!』を筆頭とする3rdアルバムの要素です。「もう一人の夢じゃない」ということなのでしょうか。璃奈の妄想の中では同曲の衣装を着た4人が立っていましたし、『Margaret』や『Märchen Star』の衣装もライブ映像の中に登場しました。特に『Margaret』は、かすみが素の自分を少しずつ見せながら自分のキャラの中に取り込んでいく曲で、今回のテーマにもピッタリだと思います。
5. 知らなかった個性がここにも!
QU4RTZが活動を始めることで、登場人物が今まで見せてこなかった姿を見せ始める動きがその周辺にも現れ始めました。一番は、今までエマにしか見せられなかった姿をやむを得ず愛にも見せることになった果林です。2話でも話しかけていた愛の果林へのフォローはそつなくうまく、次回さらに関係が深まることが期待されます。
嵐珠と栞子の関係も見え始めました。嵐珠は一人で戦うと宣言した以上誰にも見せられない素を、栞子には見せていました。ただ、栞子には自分の好きなことがありません。別媒体の栞子を見ると、もしかするとあっても、過去が足を引っ張って表に出せないだけかもしれませんが、ここでは生徒会での立ち回りと同じく、嵐珠の優しい幼馴染であるべきという自分の役割を、正確に遂行しているだけかもしれません。
6. 新メンバーがぶつかる価値観
その栞子は、生徒会で聞かれた「スクールアイドルは好きか」という質問に、良い返答をしませんでした。今後、「好き」という価値観、本当の自分がやりたいことと、摩擦を起こす可能性があります。嵐珠も自分の挑発の通りに、「見る・見られる」関係から生まれたライブを目の当たりにしましたが、それを素直に受け入れることはできませんでした。追い詰められているのはかわいそうですが、どこに行き着くか見たい気持ちでいっぱいです。ミアは侑の作った曲*6を聴いて、技術は未熟ながら、自分の持っていない、心から表現したいことというものと出会ってしまいました。
1期3話で愛や璃奈が引き込まれたように一筋縄ではいかないかもしれませんが、3人の心も揺れ始めています。
7. 新しい自分との出会い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会というプロジェクトが始まった当初、今までのラブライブ! に比べて個性が記号化されている作品なのかと思っていました。「○○系スクールアイドル」であったり、顔出しをせずいつもボードを着けている、コッペパンで悪戯をする等々、表層的な個性で勝負しているように見えました。しかし、ニジガクの物語は「もう1人の自分」と向き合い、自分を再発見する方向へと進んでいきました。素の自分と演じている自分、自分の思っている自分と人が思っている自分、前に進みたい自分とそれが怖い自分、皆の知っている自分と特定の誰かにしか見せない自分など、せつ菜と菜々のような関係がどのメンバーにも見られるようになりました。私にとって、『ニジガク』が一気に面白くなったのはそこからでした。
伝えたいという想いが生み出した『NEO SKY, NEO MAP!』に泣かされてしまいました。自分のやりたいことを妥協せずやり抜く気持ちと、そばに誰かがいて、それを誰かに伝え、誰かの想いを受け取ること、そのすべてがあって「あなたってこんな子!」が生まれてきたのでした。