普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

"足し算"できる幸せ ~ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会第2期感想週報⑥『"大好き"の選択を』~

 予告や今回のサブタイトルを目にしたときの印象からすると、大きなミスリードを受けたように感じます。栞子に髪留めを目撃されてしまったシーンからの、ボロボロと涙をこぼす (よく見ると冷や汗をかいているだけでした) せつ菜、そして一般生徒に何かを迫られているかのような予告映像を見て、正体がばれてしまったせつ菜に何か不穏なことが起こるのではないかと感じたものです。しかし、本当の不穏はもっと別の、もっと大きなところにありました。

「この3人しかない」という解決の大ヒント

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楽しいものは、足し算でできている。
(『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第2期第6話『"大好き"の選択を』より/
©2022 プロジェクトラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会/配信URL:https://www.youtube.com/watch?v=eyouLrkdCas)

目次

 

1. 正体を隠すということ

 一番気になっていたのは、せつ菜がなぜ正体を隠すのかです。今までの設定では、親にスクールアイドルであることを隠していて、そのために生徒会長もやっている、と語られるのが普通でした。しかし、それだけであれば学校内でも正体を伏せる必要性は薄いはずです。

 今回のせつ菜は、そのことを「生徒会長とスクールアイドルは全く別のこと」だから、と説明していました。とはいえ、しずくだってスクールアイドルと演劇を掛け持ちしていますし、果林に至っては学校外でモデルとして活動しています。掛け持ちだけでは本来名義まで使い分ける理由付けにはならないはず。しかし、せつ菜には「はんぱな気持ちで挑みたくはない」という強い思いがあります。それは生徒会でもスクールアイドルでも同じことで、一方をもう一方の言い訳にすることは断じてあってはならないのです。同好会で「せつ菜ちゃんは生徒会長で忙しいから」、生徒会で「菜々さんはスクールアイドルが忙しいから」という気の遣われ方をすることも、納得しがたかったのでしょう。生徒会長としても100%、スクールアイドルとしても100%であるには、自分は200%でなければなりません。それは普通は無理な話なのですが、せつ菜にとっては、その参考にできる「ヒーロー」という存在がありました。ヒーローは、人に正体を悟られないように姿を変えます。せつ菜には、「変身」を楽しんでいる部分が少なからずあったと思います。5話で歩夢の尾行に同伴するのを楽しんでいたあたりからも、それがうかがえます。

 この「変身」は、一方で、周りの人々に立ち入らせない領域を作ることでもありました。その結果、何があったとしても一人で抱え込むことになってしまいます。「菜々」と「せつ菜」の両方を理解しているのは、自分一人だけだからです。しかしそれは、支えてくれる仲間に対して失礼でもありますし、周りに気を遣われては自分の全力を出したことにならないという前提がそもそも間違っていたことに、菜々は気付きました。支えてくれた大切な人たちにその両面を見せることが、一番の恩返しになったのです。その中で、最初の相手が母*1というのも素敵だと思います。

 菜々がせつ菜に救われるという関係性も、面白いものです。1期では侑を通して、2期では歩夢を通して、せつ菜の言葉が菜々に伝えられました。2つに分けた自己が、今回も他の誰かによって結び付けられています。

 

2. より広く迫られた「選択」

 サブタイトルの『"大好き"の選択を』を見て、誰もが「菜々かせつ菜か」の選択のことだと思ったと思われます。しかし、「選択」は個人の問題では片付かなかったのです。より広く、学園全体が「学園祭かSIFか」の選択を迫られることになり、その当事者は数千人にのぼることになりました。

 そもそものきっかけとしてはSIFの注目度が上がり過ぎ、巨大な虹ヶ咲とはいえ1校で開催できる規模ではなくなってしまったことです。こうなると、栞子の名案だったはずのSIFと学園祭の合同開催自体が不可能で、より公式のイベントである学園祭に絞って開催せざるを得ない……というのは、菜々だけでなく、学園生の多くが頭ではわかっていたことだと思います。もちろん生徒の多くもスクールアイドルのパフォーマンスを楽しみにしていて、悔しいことではありますが、そのために自分たちの学園祭を犠牲にするのは筋が違う、というのが生徒たちの見解です。

 もちろん菜々自身も、既にキャパオーバーを迎えていました。2つのイベントを同時に開催し、正体を隠してそのうちの一方に出演するというのはただでさえハードで、しかも生徒会長として問題の矢面に立たされることになりました。眼鏡をかけたまませつ菜の髪の結び方をしている菜々は、そのちぐはぐな状態の表れでした。

 『アニガサキ』が面白いのは、問題が重なった状態で出現することです。ここでは、学校のキャパオーバーと、その生徒会長である菜々のキャパオーバーが同時に起こります。3話でも、QU4RTZと名乗ることになる4人組の表現の模索と、侑の作曲に対する悩みが重なり合っていました。そして、そのように重なった問題は、同じ方向性で解決をみることになるのです。

 

3. 足りないならば足せばいい!

 そもそも、ニジガクがソロアイドルとして活動するのは、それぞれが自分のやりたいことをのびのびとやるためで、誰にも邪魔されずというよりは、誰かの邪魔をすることなくそれができるのが、一人というスタイルだからです。やりたいことをやることが誰かの大切なものを侵さないならば、一人である必要はありません。むしろ、QU4RTZの「関係性から生まれる響きを伝えたい」という「やりたいこと」には最低でも複数名が必要でしたし、DiverDivaのように傷ついた大切な人を新たな関係性に迎え入れるべく「ライバル」を表現するにも、複数名が必要でした。

 今回はより単純で、「何でも一人でやることはできない」から、力を足し合わせることになりました。とはいえ、単純な足し算ではそれぞれのやりたいことも、魅力も発揮できないのでは? という疑問は、以前からニジガクを応援していたファンなら一度は抱くと思います。それに対し、せつ菜と歩夢、しずくという3人なら、足すだけでもどんどん面白いことが起きて楽しい、ということを証明するのが、他でもない前回の寸劇です。曲も3人のソロの楽しい部分をマッシュアップしたような作りで、演出もせつ菜が歌えば火が噴き出、ロックな曲調で、歩夢のときは御伽噺のような背景に、メルヘンな曲調に変わります。しずくの好きな台詞もあります。3人いるから3人分の楽しいことが足し合わせられるし、この3人だからこそ足し算が成り立つ、という関係がA・ZU・NAなのです。『スクスタ』では余り者組だったA・ZU・NAですが、そこに"足し算の美学"を見出したのが『Infinity! Our wings!!』です。

 ちなみに衣装も、『Dream Land! Dream World!』の衣装 (3人の配色はシャッフルされている) に『スクスタ』の『わくわくアニマル』をそのまま足したような衣装でした。前回の「野獣」が、まさかみんなの知っている『わくアニ』に落とし込まれるとは、脱帽しました。

 A・ZU・NAの誕生もそうですが、今回何よりも大きなイノベーションは、虹ヶ咲学園そのものが1校だけでは開催できないイベントを、あたかも学校同士が「ユニット」を組むかのように、複数校の力を足し合わせることで実現したことです。学園祭の日程が近い学校同士が会場を出し合い、スクールアイドルのイベントを連続開催するという、かなりパワーあふれる手法です。もちろんステージなどは各校で準備することになり、負担は純増しているとしか思えませんが、それだけどの学校の生徒も全力を出して挑んでいることになります。出せるだけの「自分」を出し合って、それでいて各人が全力を出すという姿は、まさにせつ菜の望んだものだったのではないでしょうか。

 これが決まった会議では、SIFへ参加表明していた各校の代表スクールアイドル、虹ヶ咲の生徒会、虹ヶ咲の同好会代表としてのかすみ、さらには虹ヶ咲の「もうひとつの陣営」である嵐珠が参加していました。立場を超えて、SIFに協力を惜しまない人がこれだけいたのです。また、ここに参加していなかった紫苑女学院のスクールアイドルが突然協力を表明したのは、嵐珠が水面下で交渉していたのでした。このような影の活躍ができる人だということは意外だったと同時に、「結果だけを残していく」という嵐珠のスタイルを貫いているともいえます。

 

4. 今回も見逃せない"スクールアイドルの軌跡"

 新登場の紫苑女学院・黒羽咲良役の大森日雅さんがはまり役過ぎて驚きました。キャラ、キャストともに存じ上げていましたが、この組み合わせには気づいていませんでした。

 さて、このように『スクフェス』出身のスクールアイドルも追加で登場しましたが、今回の衣装にも取り入れられた動物要素は、『スクフェス』ではμ's・Aqours*2の衣装にも存在しています。『スクフェス』要素で言うならば、そもそも『スクフェス』のストーリーは、「μ'sの活躍でスクールアイドルを志す生徒が多数音ノ木坂に転入し、そのたくさんのスクールアイドルを支える存在として"あなた"が必要とされる」という始まり方です。どことなく今回と重なる部分があります。

 もう一つ、こじつけかもしれませんが、スクールアイドル会議にオンラインで参加しているメンバーのアイコンが、「オレンジを中心に9色」になっています。会議の趣旨からすると、この9人は同じ学校のスクールアイドルではないのでしょうが、どことなくμ'sやAqours、それに2年目のLiella! のような他作品のスクールアイドルを彷彿とさせる要素です。

 

 4話から少しずつ、栞子のストーリーに向けて準備が進んでいます。今回は姉・薫子が教育実習生として着任するところが描かれました。一度は全校のために私情を犠牲にするそぶりを見せ、たくさんの生徒の前でそれを翻した菜々は、自分のことを押し殺しているように見える栞子にも、十分すぎる影響を与えたはずです。

*1:放送日翌日は「母の日」。昨年のこの時期に開催された3rdライブでは、スクスタにおける母に想いを伝える曲『MELODY』を披露した

*2:Liella! はすみれのグソk……なんでもありません