普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

変わり続ける永遠の聖典 スクールアイドルミュージカル 2024年公演・文化祭&後夜祭スペシャル公演 感想

2024年公演のキービジュアルを映した会場内のモニター (2024. 1. 21)

 2010年に始まり、今年で14周年を迎えるラブライブ! シリーズ。その始まりは「無印」こと『ラブライブ!』ですが、ラブライブ! の世界の中にはそれより前の、スクールアイドルの始まりを描いた物語があります。2022年に初演され、ラブライブ! とミュージカルの親和性の高さを改めて証明した『スクールアイドルミュージカル』(『スクミュ』)。盛況により、毎年再演が行われています。

 私は2022年の初演・東京公演を観に行きましたが、このほど2024年1月13日 (土) に再演を鑑賞する機会に恵まれました。さらに、今回新しい試みとして始まった『文化祭&後夜祭スペシャル公演』も1月21日 (日) に参加することができました。年々新しくなる「はじめて物語」について、現況を紹介したいと思います。

スクールアイドルミュージカルのススメ

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(ネタバレ注意) 2022年公演の感想

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『文化祭&後夜祭スペシャル公演』セットリスト一覧

<文化祭>

1. 真っ白なキャンバス

2. 未完成ドリーム!

3. 君と見る夢

4. きらりひらり舞う桜

5. ゆめの羅針盤

<後夜祭>

6. 今すぐはじめよ!

7. 応援してね♡

8. 主役になれない主役

9. So My Way

10. 意識し合うとか惹かれ合うとか

11. あなたに夢ちゅう

12. パフェパフェ行進曲

13. わたしの星座

14. この先もずっと

15. 夢見ガチガール

16. 青春の讃歌

17. 夢はドコカラ

<アンコール>

18. ゆめの羅針盤

 

1. 歌舞伎町で、ラブライブ!?

 今回の公演会場であるTHEATER MILANO-Zaは、新宿の東急歌舞伎町タワーの中にあります。2023年にオープンした新規施設で、「ジェンダーレストイレ」*1で物議を醸したのが記憶に新しいところです。歌舞伎町のど真ん中で存在感を放つ新宿東宝ビルのすぐ隣に位置しています。東宝を創業したのは阪急電鉄小林一三ですが、この東急歌舞伎町タワーを建設した東急グループの創業者五島慶太は小林の弟子であり、既に天の上にいる彼らが歌舞伎町で巨塔を競わせているようにも見えます。

 この公演に合わせ、東急歌舞伎町タワーではラブライブ! シリーズとのコラボ企画が開催されていました。担当するのはルリカとアンズのほか、μ'sからPrintemps、AqoursからCYaRon!、ニジガクからA・ZU・NA、Liella! からCatChu!、そして蓮ノ空からスリーズブーケの総勢16名です。3月に開催される『ユニット甲子園2024』を意識した展開だと思われます。いずれも、プロフィールの番号が「1番」のスクールアイドルを含むユニットであり、属性は少しずつ違っていてもその作品の「顔」が揃っていました。もっとも、スリーズブーケと歌舞伎町の取り合わせの違和感にはツッコミを寄せる人が多かったのですが……。

 椿咲花と滝桜から始まったスクールアイドルの歴史が大きく花開いているのを目の当たりにできた、良い企画でした。

主人公ユニットが歌舞伎町に集結。『スクミュ』と『ユニット甲子園』を繋ぐ。
ルリカとアンズも、イラストで描かれるようになった (2024. 1. 21)

2. 2024公演の変更点

 さて、『スクミュ』は2023年夏の追加公演から、舞台装置と演出を変更しています。初演では、巨大な廻り装置が舞台に置かれ、それを半回転させることで椿咲花のシーンと滝桜のシーンを切り替えていました。これが、上から平面状の校舎が吊され、椿咲花のシーンと滝桜のシーンでそれらを上下させて切り替える方式に変更されていました。そこまでのスペースが取れない劇場でもできる舞台装置なので、将来的なツアー公演も可能になるように考えた変更だったようです。切り替えは暗転の間にスムーズに行われ、特段の違和感なく楽しむことができました。

 その一方で、演出や演技に関しては初公演のことをよく覚えているわけではなく、見逃した部分も多々あったと思います。一部の演出が強化されているような気がしましたが、それはむしろキャストのパフォーマンス力が向上したために、そう見えただけという可能性もあります。何しろ、演技も歌もダンスも、初演と比べると格段にレベルアップしていました。『異次元フェス』では舞台俳優として立つのはかなり困難と思われる東京ドームでのステージを経験する*2など、この1年余で多大な経験を積んだことと思います。アイドルとしてのパフォーマンスレベルが上がったのも確かなのですが、上手くなったからこそ、それに加えて役者としてアイドルを演じるという要素も盛り込めるようになっている気がしました。今のスクールアイドルはラブライブ! などの大会で切磋琢磨しあうことにより、トップクラスならプロ並みかそれ以上の実力を有していると思います。しかし、この時代のスクールアイドルにはそれがありません。特に椿咲花の生徒たちは本当の素人です。プロと同じコーチングを受けている滝桜のアイドル部とは実力差があって当然なのですが、その差がパフォーマンスでもわかりやすくなっていたと思います。

 キャストの一部交代を挟みつつですが、公演の度に進化する『スクールアイドルミュージカル』の今後が楽しみですね。

 

3. 12曲初解禁! 後夜祭スペシャル公演

 さて、ここからは『文化祭&後夜祭スペシャル公演』の感想を書いていきます。

 今回の目玉は何と言っても後夜祭……なのですが、その前に『スクミュ』本編がダイジェストで披露されました。本編の上演はないと事前のお知らせに書かれていたのでこれは嬉しいサプライズです。いわば「ほぼ10分でわかるスクールアイドルミュージカル」*3ですね。主要なシーンのみを抜き出し、楽曲もサビのみであったり、それ以上に大胆に抜粋したりして、最速で物語を振り返れるようになっていました。もし先にスペシャル公演を見てしまった人がいても、大筋はわかるようになっているとは思います。もちろん、そんな人もいつかの再演で本編を観たくなること間違いないでしょう。通常の本編は、拍手以外での応援はできないのですが、スペシャル公演ではずっとペンライトを使用することができたため、『夢見る世界』の「埋め尽くされたペンライト」で、本当にルリカの視界をペンライトで埋め尽くすことができました。

 この公演のメインは、本編ラストの文化祭から、つまり『真っ白なキャンバス』の披露から始まりました。通常なら、この曲をやった後に本編の曲を何曲か、1つになったスクールアイドル部のメンバーで披露して終わりなのですが、スペシャル公演ではその後に「後夜祭」が開催されます。これは、椿滝桜女学院高スクールアイドル部のメンバーたちが、普段の活動の合間を縫って作ってきた曲を入れ替わり立ち替わり披露するものです。これらは当然本編に出てこないので、ライブで未発表新曲が12曲も披露されることになりました。当然、これは前代未聞のものです。未発表新曲の披露は、リアルライブでは『幻日のヨハネ』ライブの3曲が過去最多であり、本物のスクールアイドルがライブをしているという体である『蓮ノ空』Fes×LIVEであっても、3曲が限度です。それを考えれば、まっさらな気持ちで12曲も聴けるということがいかに破格であるかわかると思います。通常のコンテンツで発表されている曲を差し置いて未発表曲を大量に出せば、それを期待しているファンの気持ちに応えていないことになってしまうので、これができるのも『スクミュ』ならではでしょう。

 誰も知らない曲たちなので、どの曲も、歌唱メンバーが寸劇の中でどのような曲なのかを紹介しつつ、歌う前に曲名を宣言してからパフォーマンスするという流れになりました。

 ここで初公開された12曲の性格ですが、歴代シリーズの映像作品で言うならばBDや劇場前売り券の「特典曲」でよく見られるような楽曲が多かったと思います。ユニットでの披露であったり、ソロ曲があったり、あるいは椿咲花・滝桜の旧学校別に披露されるものもありました。それどころか、ルリカとアンズの母であるマドカ・キョウカの両理事長による『青春の讃歌』なる楽曲さえありました。母、あるいは理事長は青春を見守る立場であるはずですが、『スクミュ』はもはや言わずもがな、マドカとキョウカが青春を取り戻す物語でもあります。何十年もかけてやっと自分の想いに気づき、それを伝えられた2人の始まりでもあります。13日の通常公演にはラブライブ! シリーズを見たことがない*4人を連番に誘いましたが、見事に理事長推しになってしまいました。

 そんな理事長が尊い楽曲にはもう一つ、『意識し合うとか惹かれ合うとか』があります。これはルリカとアンズの曲なのですが、ルリカが母マドカと、アンズが母キョウカと一緒に練習をしたという経緯から、公演では4人の楽曲として披露されます。その実、アンズのパートはマドカのことを、ルリカのパートはキョウカのことを歌っているかのようで、母親たち自身にとっても自分の思いを重ねられるものになっていました。親世代も子世代も、ネガティブな意味かポジティブな意味かは別にしても、意識せずにはいられない2人という関係であることには違いなく、運命に導かれているような気もします。

 出会いが生んだ物語がある一方で、たった一人で星を掴みに行く少女もいました。今回唯一ソロを披露したミスズの『わたしの星座』がそれです。登場人物たちの中でもパフォーマンス力が突出しているという難しい役柄ながら、ステージ上には頂点を目指す少女の姿が確かにあり、演じた南野巴那さんのごまかしのきかない実力を浴びることができました。

 そのミスズがユズハとともに歌うのが『主役になれない主役』です。ややメタ的にも思える曲ですが、アイドルや競技の世界にはその時代の「主役」、つまりスターが存在します。それぞれの出身校のスターと関係が深かった2人が、どのようにして「主役」となっていくのか考えさせられます。ここから数年後、「みんなが歌ってみんながセンター」、そしてやりたい気持ちさえあれば誰でもなれるスクールアイドルへと発展していく萌芽を感じる曲です。

 ユズハはその一方で、思わぬ曲にも参加しています。『パフェパフェ行進曲』です。スイーツをテーマにした曲は、「後世」のスクールアイドルたちにも『sweet&sweet holiday』や『コットンキャンディえいえいおー!』、同じパフェをモチーフにした『Sugar Sugar Yummy Yummy Parfait』、また『ハクチューアラモード』など数多く存在しますが、それらと比べてもいささか「おバカ」な歌詞です。名門校だった旧・椿咲花女子高校の学力学年2位が歌っているのはギャップが凄いです。他にも電波ソング全盛期らしい『あなたに夢ちゅう』があるなど、とにかくバラエティに富んでいるのが、今回初披露された楽曲たちの特徴です。

 

4. 2年目の物語、そして卒業

 日々のレッスンの合間に、これだけ多種多様な曲を仕上げていたメンバーたちや、その成長に感激する2人の母親の姿を見ていると、この公演がどのようなものなのかが浮かび上がってきます。カーテンコールの文化祭は本編から1年後の話です。つまり、この世界にスクールアイドルという言葉が生まれてから1年後、椿滝桜のスクールアイドルたちが送ったスクールアイドルとしての日々の結果こそが、この公演だということです。これまでのラブライブ! シリーズであれば、アニメやアプリでスクールアイドルたちの活動を確認して、その成果としてのライブを観に行く、という流れが確立していました。それと比べると、今回は成果だけを見せられ、それに至る過程を想像する、という楽しみ方になります。実は、同時期に行われたLiella! の5thライブも、それに近い性格がありました。3期生の物語が描かれていない中で、既に成長した姿を見ることになったからです。もし仮に私がラブライブ! の世界に生きている人間だったなら、『スクールアイドルコネクト』誕生まではライブから日々の活動を想像するしかないことになります。つまり、「彼女たちが見ている世界はどんな景色なんだろう?」という気持ちを、私たち自身も抱くことになるのです。

 本公演には全てを知り得ないからこそ楽しめる部分がありますが、思えば本編にも不思議な部分があります。椿咲花アイドル部になった5人は、どのように仲良くなったのか、何も語られていません。ルリカとユズハは幼馴染なのがわかっていますが、マーヤとヒカルがどのようにして合流したのか、ただ1人下級生でルリカのことが好きなユキノがどうしてこのグループにいるのか、想像するにしても背景がまったくわかりません。このあたりもいつか知れたらいいなと思います。

 この5人グループからは、まもなく3年生4人が卒業します。本編から1年経っているのでルリカたちは3年生*5なのです。そして、ユキノだけが、同じ部活の同級生トアとともに残されることになります。これら2つのことが、『この先もずっと』を聴いていて脳内に去就しました。

 

5. この先もずっと、一瞬は永遠に

 『スクールアイドルミュージカル』は、少しずつ変化しながら、3回の公演期間を終えました。今回は、一部キャストが降板し、残るキャストも椿・滝沢親子を除いてダブルキャストとなりました。このようにキャストの定期的な入れ替えを伴うことは、特殊事情があった『虹ヶ咲』優木せつ菜の場合を除けば歴代シリーズでは考えられず、これまでとは違った「続け方」をするという意図を感じます。キャストの都合に縛られず、自由な方法でスクールアイドルにとってただ一つの「聖典」を演じ続けていくことを考えているのかもしれません。最初から言われていた「映像化しない」という話も、もしそれが本当なら納得です。だとすれば、ルリカやアンズもいずれ誰かに受け継がれるのかもしれませんし、ひょっとすると数十年後には堀内まり菜さんと関根優那さんが「椿マドカと滝沢キョウカ」を演じる、などということもあるかもしれません。

 ただし、それには条件があります。この物語が支持され続け、公演を観に訪れる人が絶えないということです。スクールアイドルを謳っていても、現実には商業作品ですから、売れなくなった時が終わりです。ずっと続くと思っていた『スクフェス』シリーズが11年で歴史に終止符を打ってしまったことを忘れてはなりません。1月13日の公演は空席が目立ちましたが、この日はニジガクの6thライブでしたから仕方ありません。21日のスペシャル公演は、相当の席が埋まっており、ファンが意欲をもって新しい公演を見に来ているのを感じました。

 初演を観た人からすると、まだ1年余りしか経っておらず、そう何度もリピートしなくてもよいかなと思うかもしれません。今は蓮ノ空を追うのに忙しければそれも仕方ないと思います。しかし、また少し経てば、新しいラブライバーも増え、『スクミュ』を観たことのない人も増えてきます。そのタイミングで再演があったら、一度観た私たちは彼らにその魅力を繰り返し発信していけたらと思います。余力があれば少しずつブラッシュアップされてゆく『スクミュ』にまた足を運びたいとも思います。

 最後に、ラブライブ! シリーズを新しく知った皆様が、最初にどの作品を見るべきかという、意見の分かれる問題があります。基本的には、最初に目に留まった作品か、その時一番ホットなものを追いかけるのがよいと思います。『リンクラ』をインストールして週3回の配信を追いかけるのも良し、映画を半年後に控えた『虹ヶ咲』のアニメを1話から通しで見るも良しです (個人的には、現役が長い分楽しみ方も多いAqoursをおすすめしたいところですが……)。そして、スクールアイドルというものを少し知ってきたところで、コンテンツの源流であるμ’s、そしてもしそのタイミングで公演があれば、すべてのスクールアイドルのルーツである『スクミュ』を観て、スクールアイドルがどこから来たのかを知ってもらえればと思います。

*1:現在は仕切りで男女別に区分されている

*2:AKB48で東京ドームを経験したキャストはいるかもしれない

*3:実際には何分だったのかは、流石に時計を見ていないので不明

*4:アニメなら『スーパースター!!』1期のみ視聴済み

*5:史上初の3年生主人公は『スーパースター!!』澁谷かのんになると思っていたが、タイミングの差でルリカに先を越された