普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

想いがひとつになる、動機と方法 ~幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 感想週報⑥『ひとみしりのハーモニー』~

ついにヨハネのターン

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 ヨハネにとって、幼馴染がハナマルなら、大人になって初めてできた友達がヨウとカナンです。しかし、それ以上に深い関係で繋がったのが、5話でヨハネに心を動かされてワーシマー島を出たマリでした。2人は人見知りで、不器用で、だからこそ本音をぶつけ合うことができました。

 そして、もう一人。

生き物に対して一方的なのも、不器用の別の一面といえるのでは……?
(『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』第6話『ひとみしりのハーモニー』より/©PROJECT YOHANE)

 

 

1. チームが生まれるとき

 6話では、ヨハネ、マリ、リコの3人で1つのチームを組むように、執務長官のダイヤから言われます。

 3人には、チームを組む意義、あるいは目的なら元々ありました。ヨハネは今やマリが抱いている異変への危機感を共有しています。そして、リコも動物の異常行動について調べ上げ、現状を深刻に捉えています。そんな中で、異変の調査という危険を伴うミッションに、ダイヤは市民を一人で送り出すわけにはいきません。大人の仕事なら、危険な作業を一人でしないことは当然のことです。

 ただ、それだけではチームを組むには至りません。3人が行政局か会社にでも勤めていれば別ですが、今はただ同じ目的を持った3人の別々の人です。

 その代わり、3人にはチームを組むのに相応しい「適性」がありました。ヨハネもマリも、リコのことを知っていくにつれ、自分に通じるところを感じていました。

 3人の共通点は、ヌマヅに居場所を感じられなかったということです。

 自分の好きなことを人に認めてもらえなくてヌマヅを飛び出したヨハネ

 全ての声が聞こえてしまう能力のために、人一倍に他者にどう思われているかを恐れ、一度傷ついたら立ち直れなかったマリ。

 そして、リコは世界のどこも自分の居場所にできずにいました。

 幼い頃の引っ越しの多い生活で別れが怖くなり、人と関わろうとせず、場所や人々に情が芽生える前に立ち去ってしまう放浪生活しか送れなくなっていたのです。大好きな動物さえも、飼うことはできませんでした。飼ってしまえば、いつかは別れることになります。どうせ別れるなら、別れがつらくなる前に、と……。自分の好きに蓋をしなければならなかったことが、なんと辛いことでしょう。

 ということは、リコはマリとは違う意味で優しくされることが苦痛だったということになります。また、2話でヨハネと初対面のときのぎこちないところも、対人経験の欠如に由来していることが想像できます。一方で、人間以外への食いつきは、マリのお供のお化けたちやルビィ相手でさえ変態的なほどであり、それもまたある意味一方的で通じ合おうとしていないことの裏返しのような気もします。

 そんなリコに、今度はマリがヨハネと一緒に手を差し伸べます。ヨハネからマリへ、マリからリコへ、不器用でも、否、不器用だからこそ寄り添える相手へ、バトンが渡っていきました。

 

2. 心の音

 古文書に記されていながら、マリもその意味を知らなかった「心の音」について、今回マリは自分の力で洞察を得ました。それは、「聞こえない気持ち」だといいます。マリはすべての音を聴くことができる体質でありながら、人の本心がわからないことに苦しんでいました。ひとたび人の心というものを知ってしまえば、言葉にしていないその本当の気持ちを「聴く」ことこそ、「心の音」に迫るただ一つの方法だとわかったのです。「心の音」なので、耳でも角でもわからず、心でしか聴くことができないのです

 ところで、『ラブライブ! サンシャイン!!』の1期では、言葉にしなければわからない本心がひとつのテーマになっていました。『幻日のヨハネ』では、それに裏からアプローチしているともいえます。あちらの梨子は、「かんじんなことは目に見えないんだよ」という格言を好んでいましたが、耳もそうなのかもしれません。

 そして、古代の歌い手は、まさにそのような心の奥底に眠るものを歌い、多くの心と響き合ったといいます。『スーパースター!!』2期の「本当の歌」という概念を思い出しつつ、その言葉を聞いていました。

 

3. Hey, dear my friends

 こうして繋がった3人が披露したのが『Hey, dear my friends』です。かなり台詞部分が多く、手探りで友情を築いた3人らしい語りを多用した曲となっています。この歌を歌ったことで、ヨハネの杖には9人と1匹の紋章がすべて揃いました。

 それだけ見ると、キャラクターの特徴を捉えたキャラクターソングなのですが、私たちはこれを聴いて「まさかの方向性」だと思ってしまいます。それは、やはり『ラブライブ! サンシャイン!!』の世界におけるGuilty Kissの存在があるからです。「愛こそすべて」を標語に掲げ、持ち歌のほとんどがロックなナンバーであるユニットのメンバーは、津島善子桜内梨子小原鞠莉。世界を跨いで、全く同じメンバーでの歌唱です。方向性は全く違いますが、『Hey, dear my friends』もまた愛を歌う曲であることに、「生まれた世界は違っても変わらないもの」という、『幻日のヨハネ』を成り立たせる根本原理を意識させられます。

 『ラブライブ! サンシャイン!!』との関わりについて語ったところで、ヨハネが他の人物の名前をどう呼ぶかについて簡単にまとめておきたいと思います。津島善子は (『スクスタ』における他校生を含む) すべてのメンバーを呼び捨てしています (ただし、最初期は上級生に対しさん付けだった) が、ヨハネは少々様相が異なるようです。

 まず、ハナマルとマリは物語初登場当時から呼び捨てです。ただし、ライラプスは「ハナマルちゃん」と呼んでいることから、幼い頃はハナマルをちゃん付けしていた可能性もあります。

 一方で、この回でリコの呼称がさん付けから呼び捨てに変化しました。幼馴染のハナマルと、自分と近いところがある友人は呼び捨てするという法則性があるのでしょうか。

 ダイヤだけは終始さん付けです。執務長官という名誉ある立場にあるので、これは自然です。そう考えると、リコを当初さん付けしていたのは、学者だからだと予想できます。ヨハネの親も学者なので、名誉ある仕事、あるいは自分とは違う世界の職業だと認識しているかもしれないということです。

 チカやカナン、ヨウなど仕事中に出会った仲間のことは、なんと「ちゃん」付けで呼びます。善子はちゃん付けをしたことがないので、『サンシャイン!!』ファンにとってはかなり新鮮です。なお、ルビィには、5話で呼び捨てとちゃん付けが混在していました。

 ここまで見てくると、立場の違いや、自分との心理的な距離によって二人称を使い分けていることがわかります。

 おまけに、もう少しだけ『サンシャイン!!』の話をします。リコが動物学者になったきっかけに、迷子の犬を拾ったことが語られていました。まさに同2期5話『犬を拾う。』と重なるエピソードです。同話で梨子が飼い主が見つかるまで保護していた犬は、善子が拾ったものです。この犬 (あんこ) がライラプスのモデルになっていることは有名です。同話では、この出来事が善子と梨子の距離を縮め、さらに梨子が犬嫌いを克服して一歩前進するきっかけになりましたが、『幻日のヨハネ』のリコは、拾った犬の飼い主が見つかって別れることになったことで、ますます “情” への恐れを強める結果に終わりました。

 

4. これからの幻ヨハは?

 6話まででメインキャラクター9人全員が挿入歌を歌いました。ヨハネの異変に対する向き合い方も決まり、ヨハネ・マリ・リコのチームと行政局との繋がりもできた今回は、ここまでの流れを一旦まとめる役割を持っていると思います。

 ここまでの感想記事では、『幻日のヨハネ』の世界を、働いて日常を営む「昼」と、異変に立ち向かい解き明かす「夜」に分けて解説してきました。前者の象徴が『R・E・P』を歌うハナマル・ヨウ・カナンであり、後者の象徴が『Be as one!!!』を歌う、ミリオンダラーのケイティーことチカと、スカーレットデルタことダイヤとルビィです。今回揃ったヨハネ・マリ・リコの3人は、その2つを繋ぐ存在に位置づけられます。

 そして、それらを繋ぐためにルビィの提案でセッティングされるのが「女子会」です。人付き合いが苦手な3人がどんなドタバタを繰り広げるのかが楽しみですね。

 ……ではあるのですが、もう一つ楽しみなことがあります。原典『サンシャイン!!』で全員が揃った回の次である1期10話は『シャイ煮はじめました』です。タイトルからはコメディ回と思わせつつも、梨子のスケジュール被り問題が容赦なく起こりました。もしかすると、同じような波乱が起こるかもしれません。

 次回で『幻日のヨハネ』は折り返しです。

 

2023. 8. 10 追記

 「女子会」を提案したのはルビィでした。本記事を訂正いたしました。