普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

共感。次は、あなたの番 ~幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 感想週報⑤『まおうのひみつ』~

 『どうする家康』28話では、織田信長の最期・本能寺の変が描かれました*1。これまでに幾度となく描かれた「戦国最大のミステリー」ですが、今年は人を信じないように生きてきた信長と、彼がただ一人友として認めた徳川家康とがすれ違い続け、お互いにとって相手がかけがえのない存在だと気づいたときには、討たれるなら家康にという信長の最期の願いもかなわず、惨めに散っていく悲劇でした。最近の大河ドラマは「関係性のオタク」に突き刺さるストーリーを時々供給してきます。

 3時間後の『幻日のヨハネ』に話を戻します。こちらの「魔王」もまた、誰も信じられずにいました。

「イマドキ女子」に笑顔をもたらす方法は?
 (『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』第5話『まおうのひみつ』より/©PROJECT YOHANE)

 

友達ができた日

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1. ヨハネとマリ

 『幻日のヨハネ』のヨハネと言えば、臆病で人見知りで、自信が無い上に世間を甘く見ている「まるでダメな美少女」という印象がどうしても強いです。しかし、人の頼みは断れず、特に近所の子ども3人組のリュウ・セツ・ラン (名前の由来は「リュウゼツラン」。欧米では100年に一度咲く花とされ、沼津市の花ハマユウと並び、市制100周年を記念して本作に選ばれたものと思われます) に対しては、年長者としての自負をもって振る舞おうとしているように、見直すところも多々あります。そして、3話で出会ったワーシマー島のマリに対しても、他の人に対してとは違う態度を見せています。

 ヨハネがマリに対して人見知りをせず、積極的に話しかけるのは、マリに自分と近いものを感じているからです。マリの寂しそうな様子を見て思い悩むのは、マリの痛みがわかるわけではなくても、マリの痛みを自分の痛みとして感じるからです。

 3話でも紹介したように、マリは魔王の姿と能力を受け継ぐ人物です。自分が他の人と違うこと、そしてその能力で街の人々が自分の噂をするのもすべて聞こえてしまうことから、自分が社会に受け入れられていないのだと悟り、ワーシマー島の暗闇に篭もってしまいました。実は、幼い頃一度だけ街に出たことがあったのだそうです。しかし、そのときに受けた眼差しや声に傷つき、それ以来島を出ることはありませんでした。本当はたった一人に怖がられただけかもしれないけれど、それでも幼いマリが人を信じられなくなるには十分でした。

 ヨハネも同じでした。人と違ったことで、傷ついてヌマヅを出て行った過去があります。本当は歌を楽しむヨハネを嘲笑したのはごく数人だったかもしれません。しかし、ヨハネはヌマヅの人が皆そうなのだと思いこんでしまいました。しかし、帰ってきてからのヨハネは、唯一想い続けてくれていた親友のハナマルに手を引かれ、連れ添ってくれる家族のライラプスに背中を押され、ゆっくりながら動き出していました。カナンやヨウとも友達になり、少しずつヌマヅに溶け込んでいきました。

 今度は、ヨハネがマリの背中を押す番……なのですが、そう簡単にはいきません。

 「皆他人で、自分のことばかり」という言葉は、ヨハネの心にものしかかりました。マリが抱えていた苦しみは、確かにヨハネと同じようなものだったかもしれません。しかし、そこから抜け出す方法もヨハネと同じとは限りません。「自分ができたことは他人にもできるはずだ」というのは、自己肯定感が低い人がやりがちな押しつけだと思います。

 ヨハネのいいところは、その押しつけに気づき、認めたことです。自分が信じている、友達がいれば変われるとか、楽しい人生が待っているということが、マリに否定されたとき、ヨハネはマリの言葉に耳を傾けました。逆説的ですが、ヨハネはマリの「皆自分のことばかり」という発言を聞き入れることで、そうではないことを示してしまったのです。マリの凍った心は、これでようやく解け始めました。

 マリが繰り出すことを決意したヌマヅの街でも、ヨハネはマリに寄り添っていました。街の人々にマリを友達だと紹介して回れたのも、信頼 (まだ「何でも屋*2としての評判」の部類かもしれませんが……) を得ていた証たと思います。ヨウの従妹の双子、ナミとミキに「おねえちゃんは誰?」と聞かれるシーンは、1話を思い出させる名シーンです。

 そのナミとミキの姉でカメラマンのツキに、モデルを頼まれていたときのことです。例の3人組がマリに何かを言い放ち、そのせいでマリは怯えて隠れてしまいました。実際にはマリのことをからかったわけではなく、島からついてきたウミウシのお化けのことを物珍しがっただけです。『ラブライブ!』で星空凛が女の子らしい格好をできなくなったときもそうですが、子どもの発言に大概悪気はなく、とはいえトラウマというものも何がきっかけになるかわからないものです。

 ヨハネはそんなマリにどう寄り添ったのでしょうか。

「今私も目を瞑ったよ」

 一人だと怖いことも、二人なら怖くない。マリに向けられているのが奇異の眼差しではないことを信じてもらうために、ヨハネはマリと一緒に街の人々と相対することにしました。それは、この数日ヌマヅで学んだことではありますが、はっきり言葉で伝えてくれるハナマルの真似でも、ヨハネの心を見通すようなライラプスの真似でもない、ヨハネにしかできない優しさでした。

 ところで、ツキは「イマドキヌマヅ女子」を探してヨハネとマリを被写体に選んでいました。考えようによっては、マリは登場人物たちの中で一番「現代人」に近いと言えます。最近、何かと物議を醸しているSNSですが、私たちはSNSを通して、世界中の人の言葉を目にすることができます。その情報の洪水の中で、しかしながら、人の本心を知ることは余計に難しくなっているといえます。中には見るからに矛盾した言動をする人もいて*3、ますます人を信じるということを難しくしています。マリが島を出られなくなってしまったことに、私たちは多かれ少なかれ共感しうるところを持っています。

 

2. 魔王の役割

 『幻日のヨハネ』では、皆にそれぞれ役割がある、ということが一貫して描かれていました。それは、ワーシマー島に住む “魔王” も例外ではありません。

 魔王がすべての音を聞くことができるのは、音によって異変や危険が起きているのを知り、人々をそれらから守るためです。幼くしてその能力に恐れをなしていたマリは、かつて魔王だった父から、その大切な役割について説かれました。日の光の下でヌマヅを治めている、現代なら行政局がある一方で、陰ながらヌマヅを守ってきた一族ということになります。マリは父の言葉を覚えていて、誰も信じずにずっと島に篭もって暮らしたいと思いながらも、このままではいけないと内心感じていたのでしょう。

 実際に、橋や滑り台の損傷にいち早く気づき、行政局に知らせていました。顔は見せられなくても、島を訪れていたダイヤとルビィに手紙を渡していたのです。普通の人間であれば打音検査をしないとわからないような異変に、些細な足音の違いなどから気付いたのでしょう。マリは、マリにしかできないやり方でヌマヅを守っていました。

 陰に住む者にも役割やできることがある一方で、一見陰とは無縁に明るく暮らしている人たちにも、陰の部分があるということも忘れてはなりません。ヨウやカナンにさえ落ち込むことや誰にも教えていない悩みがあって、それらと折り合いをつけながら生きているのです。

 その実、マリは、誇れるくらいには特別であり、絶望するほどには特別でないとでも言いましょうか。

 そして、5話で新たに公開された古文書のページには、魔法の杖を掲げた勇者の姿が描かれていました。そのシルエットは、ライラプスの杖を持つヨハネによく似ています。

 果たしてヨハネは救世主になることができるのでしょうか?

 ところで、この古文書は「古い文字」で書かれています。ヨハネにも読めない文字でしたが、所々が「幻日文字」(ヨハネ文字とも。キャストがこう呼称していることもあり、ヨハネの方が一般的?) と似ています。また、マリがダイヤに宛てた手紙でも、街中で見かける文字と字形の差異がみられます。例えば「あ」を表す「◇」が丸みを帯びた星形 (スクールアイドル小原鞠莉のアイコンを思い浮かべると、それに近い) になっています。少し古風な字を書く人なのかもしれません。

 

4. Over the Rainbow

 先行配信が行われた7月23日は、マリ役 (当然、鞠莉役でもある) 鈴木愛奈さんの誕生日でした。その記念すべき日に初登場したのが、先程も述べた写真屋のツキです。ナミとミキの姉で、ヨウと同い年の従姉妹である彼女は、『ラブライブ! サンシャイン!!』の世界における渡辺月に相当*4します。そう、劇場版『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』で初登場した人物です。二つの世界を通して、地上波アニメには今回が初登場となります。

 今回は前回のライラプスの不穏な発言について、冒頭で軽く触れられただけになりましたね。ヨハネがトカイに出ることを決めた日、何かが起きたようです。それが何かはわかりませんが、その日、決定的に何かがすれ違ったように感じました。今後の回で、2人の秘密が解き明かされるのでしょうか。そして、「今度こそ」すれ違わずに済むのでしょうか。

*1:毎年恒例、いきなり大河ドラマの話をしだすシリーズ

*2:だから占い屋!

*3:SNSの場合、運営者からしてそうなので、救いようがない

*4:ナミとミキは『ラブライブ! サンシャイン!!には登場しない