普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

歌から生まれる物語 幻日のヨハネ ~THE STORY OF THE SOUND OF HEART~ 感想

DAY3で「的中」を果たしたえばらさんのフラワースタンド

 年間13回 (ラブライブ! 以外のものも含めると15回!) という、自分としては驚くべき回数のライブに参加した昨年を、私は『幻日のヨハネ ~THE STORY OF THE SOUND OF HEART~』*1で締めくくりました。ラブライブ!シリーズに位置しながら、スクールアイドルの物語ではない歌物語。アイドルだらけの『異次元フェス』から一転、ベテランAqoursがどんな姿を見せてくれるのかと期待を寄せ、DAY2に既に昨年だけで4回目となった武蔵野の森総合スポーツプラザへ足を運びました。DAY2といっても日曜日の最終公演ではなく、3日間公演の中日です。

 なお、本稿では『幻日のヨハネ ~SUNSHINE in the MIRROR~』のヨハネたちを演じるキャスト9名のことも、便宜上「Aqours」と呼称します。

『幻日のヨハネ』とは何だったか? 振り返る最終回感想carat8008.hateblo.jp

 

 

セットリスト一覧

1. 幻日ミステリウム

2. GAME ON!

幕間

3. テ・キ・ナ ミュージック

幕間

4. Far far away

幕間

5. Tick-Tack, Tick-Tack

6. Be as one!!!

7. R・E・P

8. Hey, dear my friends

9. Best wishes

幕間

10. Special Holidays

11. GIRLS!!

幕間

12. Wonder sea breeze

13. ヌマヅやっさよいさ唄

幕間

14. 好奇心ジャーニー

幕間

15. Forever U & I

幕間

16. La la 勇気のうた

17. BLOOM OF COLORS

幕間

アンコール

MC

18. キミノタメボクノタメ

エンドロール

 

1. 特典曲ミュージカル

 まず初めに、『幻日のヨハネ』最大の問題である、ラブライブ! から学校とアイドルを抜いたら何が残るのか?」について、このライブが出した答えをまとめておきます。

 OPテーマ『幻日ミステリウム』カップリング曲『GAME ON!』のパフォーマンスを終えて始まった本編、最初の曲は第1話挿入歌の『Far far away』……かと思いきや、まさかの『テ・キ・ナ ミュージック』でした。これはBD第1巻特典曲です。Aqoursファン歴が長い人で、BD特典曲だから予習範囲外にした人はおそらくいないでしょう。Aqoursは特典曲だからといって扱いを下げることはしませんし、むしろ『スリリング・ワンウェイ』や『キセキヒカル』、ソロ曲の『in this unstable world』等々、積極的に特典曲に強い楽曲を用意してきました*2。そこまで読めていたとしても、その上を行ったのが『ヨハネ』ライブです。『ヌマヅやっさよいさ唄』がかかったときは (特にDAY1の参加者は)、皆大いに驚いたことでしょう。ラブライブ! シリーズで未発表曲のライブでの初披露は、過去に『迷冥探偵ヨハネ』と『ハクチューアラモード』の2曲がありますが*3、今回のライブではなんと全7巻の特典曲がすべて披露され、未発表曲は3曲にも及びました。

 なぜこれだけの特典曲を並べたのでしょうか。それにはこの作品の特典曲の特徴が大きくかかわっています。特典曲には、挿入歌よりも挿入歌性の高いものが揃っているからです。

 トカイにいた頃の、等身大の自分も知らず浮かれているヨハネの『テ・キ・ナ ミュージック』。

 再会で時が動き出す幼馴染、ヨハネとハナマルの『Tick-Tack, Tick-Tack』

 本編中でも少し描かれた、マリとダイヤというヌマヅの陰と陽の主同士が想いを手紙に託した『Best wishes』

 待望の幼馴染トリオ「ヨウチカナン」曲『Special Holidays』

 ここからが未公開で、祭りの楽しさを観客みんなで共有できる新たな音頭『ヌマヅやっさよいさ唄』。

 リコとルビィ、種族も出身も違う2人が共通点を見つけて少しずつ距離を縮めていく『好奇心ジャーニー』

 この劇のフィナーレに相応しい全体曲『BLOOM OF COLORS』

 ここで見たように、特典曲のミュージカル性を利用し (あるいはライブがミュージカル的になるように特典曲を設計し)、特典曲によってライブが一つの物語として駆動するように仕立てたのです。本編最終回や『光景記』でも活躍した島本須美さんのナレーションも起用したように、『幻日のヨハネ』の持てるすべてがそのために注ぎ込まれました。

 例えば『好奇心ジャーニー』の直前の幕間では10話『ライラプスをさがせ』の映像が使われますが、本編とは少し違った形で、リコとルビィにフォーカスしたように、映像の使い方も少しずつアニメ本編と変化させていました。それも相まって、様々なキャラクターの組み合わせで楽曲が披露されたことで、基本的にヨハネにフォーカスしていたアニメよりも群像劇的な見せ方となっていたと思います。

 ラブライブ! から学校とアイドルを引いたらミュージカルが残る、というのが『幻日のヨハネ』の答えです。

 これを機に、もう一度アニメを振り返ってもらおうというのも、もちろん制作側の狙いだと思います。実際にアニメ映像や特典曲がこのように活用されたことで、アニメBDの商品価値はさらに上がったと思います。有り体に言えばライブそのものをBDの販促にする「特典曲商法の進化版」とも言えるでしょうか。(笑)

 

2. Aqoursのチカラ

 『ヨハネ』ライブの骨となったのは『幻日のヨハネ』の物語性であり、楽曲ですが、肉となったのが8年半の年月に渡り積み上げられてきたAqoursの真の実力だと思います。歌で物語を表現することは、ラブライブ! シリーズのシンクロパフォーマンスの延長線上にあります。今回Aqoursの9人は、私たちもよく知るAqoursメンバーと同じところも異なるところもある、新しい9人のキャラクターを背負ってそのパフォーマンスに挑みました。

 今回誰よりも輝いていたのは、やはりヨハネ役として座長を務め上げた小林愛香さんでした。アニメ本編でも十分には描かれなかった、トカイにいた頃の青二才なヨハネから、仲間と出会って充実してきた生活、ライラプスとの心の交流まで、ライブでの表現を実現させた幅は、スクールアイドルの善子としてのパフォーマンスでの表現の幅を遥かに上回り、まさにスターの風格でした。前半では可愛いという感情を呼び起こされ、後半では本当の自分を見つけ、成長したヨハネの姿に涙しました。

 アニメ『幻日のヨハネ』の放送中から、小林さんがラジオ番組などで繰り返し言っていたことがあります。第12話『さよならライラプス』で涙が溢れてしまい、収録を何度も出直したりやり直したりしたというエピソードです。小林さんは涙が止まらないほどに独りでヨハネと、ライラプスと向き合いました。その想いを直接誰かに届けられる機会が、いかに尊いものだったでしょうか。みんなで作り上げる歌も素晴らしいですが、『幻日のヨハネ』は自分と向き合う物語で、その主演には小林さんが最も相応しかったと、あのパフォーマンスを見た私には言えます。

 Aqoursの9人でヨハネたち9人を演じたライブパフォーマンスは、「直球」あり「変化球」ありで、Aqoursの経験の豊富さが伺い知れるものでした。「直球」を代表する曲が『Wonder sea breeze』です。ヨハネたち9人が歌いながらフォーメーションダンスを行うこの曲については、アニメでも「安定のAqoursの産物」である、と評価しましたが、ライブでもAqoursが培ってきた力がわかりやすい形で証明された曲です。このライブを開催することを考えれば、こういう曲は不可欠だったのです。

 それに対して、「変化球」だったのは『GIRLS!!』でした。アニメでは女子会のシーンをバックにヨハネがソロで歌っていましたが、ライブでは9人曲に変化しました。女子会を表現する曲なので、実際に女子会に参加している全員がパフォーマンスに参加するのは、アニメとライブという媒体の違いに合わせた変更といえます。『GIRLS!!』のすごさは、本当に9人がステージ上で女子会をしているかのようなリアリティにあります。この曲でのパフォーマンスは、ほぼ台本無しで自由にやっていたようです。ラブライブ! シリーズのキャストは、生放送などで即興劇をやる機会が代々あります*4。蓮ノ空などは、バーチャル配信という形でそれをメインコンテンツに据えているほどです。『GIRLS!!』では、ライブで当然活きるであろうシンクロパフォーマンスの実力というより、このような即興劇的なスキルが活きていたといえるでしょう。分厚いしおりの配布から、スイカ割り、お菓子作りなど様々な活動に至るまで、メンバーの行動を魂のレベルで理解したキャストたちが演じていたことがこのパフォーマンスの実現に繋がっており、そう考えるとAqoursがメンバーとキャストの二人三脚で8年半ともに歩んできたことこそが重要だったともいえます。もちろん、『幻日のヨハネ』のキャラクターたちはAqoursメンバーとは少し違いますが、これまでにAqoursキャストが演じた寸劇の中でも振れ幅のあるキャラはいくらもいましたから、このくらいは問題ないのでしょう (笑)。

 「Aqoursがやったら絶対に凄いパフォーマンス」と「こんなの見たことがないというパフォーマンス」の双方に、Aqoursの無限の可能性を感じました。

 

3. ヌマヅというセカイ

 スクールアイドルのステージとは異なる世界観を演出していたのは、パフォーマンスだけではありません。舞台装置や大道具、小道具にもキラリと光るものがありました。

 最も目を引いたのは機械仕掛けのセンターステージです。二段階に分けてせり上がるようになっており、『好奇心ジャーニー』や『キミノタメボクノタメ』では実際にキャストを乗せて上昇したり回転したりしていました。このセンターステージは独立しており、メインステージへの行き来にトロッコが使われたため、全体的にトロッコが多用されるライブとなりました。私の席はアリーナのかなり後方でしたが、どのキャストも一度は間近で見ることが叶いました。トロッコで印象的だったのは、『Special Holidays』の準備段階のことです。まだ直前の幕間が終わっていませんでしたが、アリーナ最後方の通路では暗闇の中チカ役・伊波杏樹さんを乗せたトロッコが進行していました。近くにいた観客は驚き、早くもブレードをみかん色に点灯してしまう人が続出しました。それに対し伊波さんは人差し指を口に当て、「シーッ」のポーズを取りました。その仕草には悪戯っぽい可愛らしさがありました。

 話は戻りますが、動くステージはもう一つありました。メインステージ上にもせり上がるジャッキがあり、『ヌマヅやっさよいさ唄』でマリ役・鈴木愛奈さんが使用していました。盆踊りのような楽しい音楽の途中にあって流れを一変させるソロパートで、マリの魔王としての威厳、祈りを捧げる仕事であるという本領、そして演じる鈴木さんの歌唱力をまとめてアピールするステージでした。この台は、この曲でしか使われない贅沢な設備でした。

 舞台装置の充実度では、これまでのライブとは一線を画していたと思います。これに匹敵するのは、6thライブの東京ドーム公演で出現したフローティングステージくらいのものです。

 大道具では、ヨハネが切り株のステージで歌うシーンでステージに草花を配置していました。これらは、幕間中にスタッフが人力で持ってきていました。

 小道具のパフォーマンスは、やはり調理器具や本物のパンなどがステージに上がった『GIRLS!!』が珠玉です。その一方で、思ったほどギミックを使わなかったのが『Be as one!!!』でした。スカーレットデルタやミリオンダラー・ケイティーのコスチュームで登場するということもなく (そもそもマスクを被ったままのダンスは困難。ニジガク・天王寺璃奈の田中ちえ美さんも璃奈ちゃんボードを被ってダンスすることはない)、あくまでヒーローをイメージさせる程度の衣装に身を包んで、ライブパフォーマンスでバトルの熱さを表現していました。使ったものといえば、過去にユニットライブで登場したことがあるバズーカくらいです。ルビィが合体したバイクについては、ルビィ役の降幡愛さんとダイヤ役の小宮有紗さんが「組体操」風に表現していましたが、これは後々ギャグとして弄られてしまいました。(笑) この曲には相当の期待を寄せていましたが、それを上回るライブ映えだったと思います。

 『R・E・P』の衣装は、それらとは打って変わってほとんど普段着でした。仕事に精を出す3人を表現する、そのまま働けそうな服装です。普段はアイドルとしての姿ばかり見ているので、このような衣装は新鮮でした。

 

4. 心の音の物語

 ラブライブ!シリーズは長年、ライブでアニメを再現し、スクールアイドルの世界を現実に顕現させるノウハウを蓄積してきました。『ヨハネ』ライブは、それを応用して、ライブを通して一つの物語を構築するスタイルを確立させたと思います。元々『幻日のヨハネ』自体、アニメやライブとは異なる展開をするものとばかり思っていたのですが、同期の作品が「演じる」ことについて新境地を開拓し、見ている者を世界観の中に巻き込んでいく『スクールアイドルミュージカル』と『Link! Like! ラブライブ!』だということを考えると、『幻日のヨハネ』が異世界を舞台にした1本の「映画」の中に我々を取り込んできたことも不思議なことではありません。最後に流れたエンドロールには、ただ見るだけでない感動がありました。普段とは違う演出や衣装、それらを生み出し支えた方々の名前がずらりと並んでいたのです。それはまるで様々な役割でヌマヅを支え、生活している物語の中の人々のような存在です。

 ライブのタイトルは和訳すると「心の音の物語」でした。アニメでは、ヨハネライラプスの心の音に注目したストーリーが中心になっていましたが、ライブでは先述した通り群像劇的な見せ方になっていました。それぞれに心の音があって、それらを手探りで共鳴させていく、コミュニケーションが世界を形作ることが、そのセトリや演出によって見せたかったものなのだと思います。アニメではヨハネの逡巡に寄り添いすぎたためか、やや間延びした印象だったところが見事に埋められていました。あるいは、ファンが本当に見たかったものは、往々にしてライブで供給されるということでしょうか。

 これは後から情報で知りましたが、最終日のDAY3だけ、ライラプス役の日笠陽子さんがステージに登場し、『BLOOM OF COLORS』に参加したそうです。当然未発表曲のため、大きなサプライズとなりました。μ’s以前から活躍していた声優であり、ラブライブ! シリーズのステージに立つキャストとしては『スクールアイドルミュージカル』理事長役を除けば歴代最高齢の38歳5ヶ月*5と、ラブライブ! 比でいえば大ベテランではありますが、小林さんの願いに応えてスケジュールの合間を縫って駆けつけたというエピソードには、どこかライラプスの面影を見てしまいます (元々は観客として参加するつもりだったあたりは面白エピソードですが)。

 ところで、『幻日のヨハネ』関連楽曲でまだ残っているものがあります。『SILENT PAIN』です。また、11月発売のゲーム『幻日のヨハネ ~BLAZE in the DEEPBLUE~』主題歌『Deep Blue』も未披露かつ未発売です。ただ、両方ともAqours名義で発表されている楽曲のため、Aqoursのライブで披露される可能性もまだまだあります。『幻日のヨハネ』の楽曲も、今後単体でも披露される機会があればよいなと思います。

 

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*1:サイトおよびチケット上のタイトルは「The Story of the Sound of Heart」となっているが、ロゴの表記に従う

*2:特典曲商法ともいう

*3:つまり、『ハクチューアラモード』以外全てが善子/ヨハネ関連ということになる

*4:Liella! にはあまりない気がする

*5:この記録は、3月に予定されている『LoveLive! Orchestra Concert』の新田恵海さん (38歳3ヶ月) にも塗り替えられることはない