普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

学ぶこと、信じること ~ウルトラマンブレーザー感想月報③~

その激情、パートナーには伝わっている?
 (『ウルトラマンブレーザー』第10話『親と子』より/©円谷プロダクション)

 

 今回は、『ウルトラマンブレーザー』以下4話の感想をお届けします。

第9話『オトノホシ』

第10話『親と子』

第11話『エスケープ』

第12話『いくぞブレーザー!』

 なお、執筆時点で13話が放送されておりますが、本記事にはその内容には含んでいません。

 

 いよいよ『ウルトラマンブレーザー』前半のエピソードが終わりました。人間とウルトラマンが同一人物である場合を除いて、ウルトラマンとの交流は必ず大きなテーマの1つになります。ゲントの場合は、「隊長」であり、「父」であるというのが今までのシリーズとの一番大きな違いです。部下や子どもと普段から接していることが、ウルトラマンとのかかわりにどんな違いをもたらすのかが見えてくる1ヶ月でした。

 

相手の意思は尊重しましょう

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1. 異文化との出会い

 『ブレーザー』のテーマは「対話」あるいは「コミュニケーション」という話があります。3ヶ月目に至り、ゲントとブレーザーの関係が試されるような、そしてコミュニケーションが求められるような出来事が起きました。

 その前段として踏まえておきたいのが、地球侵略にやってきた「セミ人間」ことチルソニア遊星人のツクシ ホウイチたちと音楽との出会いです。この世界観では音楽を楽しむことができるのは地球人だけだとツクシたちは語っていました。言葉より強い力で人の心に染みこみ、変えていく音楽の虜になったチルソニア遊星人たちは、地球人を滅ぼすことができなくなってしまいます。

 アンリもツクシたちの音楽が好きで、しかし、あるいは、だからこそツクシたちを止めなければならなかった辛さが、この回を独特の後味にしています。この回では『ウルトラQ』の復活であるかのような演出が数多くなされ、そのインパクトが強いものの、音楽を通して地球人と宇宙人の対話が成り立ったことが、ただ侵略者を撃退して終わるはずだったエピソードを「悲劇」に変えています。

 ゲントの中に宿る宇宙人、ウルトラマンブレーザーの場合はどうでしょうか。ゲントの身に起きた最初の異変は、嫌いなはずの野菜ジュースを味見したことでした。初めて経験した地球人の身体で、ブレーザーは味覚に興味を持ったのです。次は、テレビ番組で紹介された赤ちゃんの映像でした。幼い命がどんなものであるかを知ったブレーザーは、ゲントが洗っていた食器から洗剤をこぼしてしまいました。何にでも興味津々なブレーザーは、まるで子どものようです。そしてゲントは、ブレーザーの意識が表に出てきていることに気づき始めます。

 

2. 理解し、信じるために

 その半面、ゲントはブレーザーが何を思い、どんな行動を取るのかに理解が及んでいませんでした。8話までのウルトラマンブレーザーは確かにゲントの意思を反映していたようですが、10話以降ではその食い違いが目立ち始めます。目的が「命を守ること」、そのための手段が「怪獣を倒すこと」と共通しているときは、その食い違いは生まれません。しかし、10話で地球人の子どもをテレビで見たブレーザーは怪獣の幼体を守ろうとし、11話で隊員の安全を守るために撤退を図ったゲント自身の行動を見たブレーザーは、今度はゲントを守るために怪獣との戦いを回避しました。

 食い違いの原因は、ブレーザーが学習していることだったのです。

 ゲントにとっては、命を守ることと隊長として任務を果たすことは、切り離せないことでした。大人として経験を積んだ半面、柔軟でなくなってしまった部分があったことは否定できません。子どもの方が柔軟で素直で、大人が答えに困るような正論も言ってきます。それはゲントの実の息子ジュンもそうでした。生まれたばかりで罪があるはずもないデマーガの幼体を駆除するという防衛隊の作戦に疑問を呈し、その攻撃から幼体を庇ったブレーザーを「今までで一番良かった」と称賛しました。

 これを大人は汚れていて悪く、子どもは純粋で良いという二元論で語るのはなんだか雑な気がします。ゲントのかっこいいところは、上層部と部下たちの間に立って部下たちを守り、自由に考えさせることで組織としてのパワーを最大化しようとする「大人」としての立ち振る舞いだからです。だからこそ、時として矛盾を矛盾のまま抱え込もうとする「大人」のゲントは揺さぶられるのです。

 このとき、ブレーザーは積み上げてきた人類の味方という信用を失いかけていました。端から見れば、デマーガ戦では敵前で乱心した上で防衛隊の作戦を妨害、ゲバルガ戦では敵前逃亡したようにしか見えません。そもそも人々がブレーザーを信用したのも何度か人類の敵を倒したからという、言ってしまえば身勝手な理由に他なりません。TV局の人たちもブレーザーのことを恐ろしい存在として捉えていましたし、すべての人がブレーザーを信じたわけではなかったと思います。第一に、防衛隊の指揮を執るハルノ参謀長はブレーザーを信用していません。

 そんなとき、ブレーザーのことを信じてあげられるのは、一番近くにいたゲントだったはずです。ところが、ゲント自身がブレーザーのことを信じ切れていない描写がありました。「ブレーザーが現れたらどうする」というテルアキ副隊長の質問に「様子見」という消極的な回答しかできず、ゲバルガ戦から一度撤退した後は、とうとうブレーザーストーンをロッカーに預けて出撃してしまいました。それでも絶体絶命に陥ったときにポケットを探ってしまったのは皮肉なものです。

 ゲントにとってブレーザーは他者ですが、なにぶん自分の中に宿っているため、なかなかその他者性を認めてあげることができなかったのだと思います。だから自分の思い通りにいかなかったことで、ブレーザーのことを信じられなくなったのだと考えられます。そしてこのとき初めて、ゲントはブレーザーをひとりの他者として認めることができたのだと思います。自分と同じように大切な存在を守るべく戦っている、自分とは何もかも違う存在としてブレーザーを認めたことが一つのステップでした。もう一つ同時にこのとき乗り越えたステップが、極限状態で他者を信じることです。これに関しては後述しますが、それによりゲントは初めて、ブレーザーが勝手に出てくるのではなく、ゲント自身の意志でブレーザーと一緒に戦うことを決意したのです。ブレーザーはそれに応え、ロッカールームを突き破ってゲントの元に馳せ参じました。

 「ブレーザー=子ども」というアナロジーは、ここでも顔を出しています。親にとって子どもは自分の遺伝子を持つ自分の分身でありながら、れっきとした別の人間です。だから親の思い通りにはならないし、同じことを考えているようで違うことを考えているものです。ゲントは、「まずはお互いのことを知るところからだな」と言っていましたが、そこからゲントと手の掛かる新たな息子のようなブレーザーとの二人三脚が始まるのです。

 

3. 行くのは俺だけじゃない

 『ブレーザー』のキャッチコピーは「俺が行く。」実はこれが隊長らしからぬ態度だということは、以前指摘した通りです。組織の長は組織の力を最大化することによって、1人では決して解決できない問題に立ち向かいます。ゲントは普段は機動力を高めるため、それぞれが自立して動く「大人の組織」のリーダーとしてリーダーシップを発揮していますが、土壇場ではたった一人で突撃する癖があります。ちなみにそれは、ブレーザーとも似たもの同士でした。ブレーザーも突然現れてゲントを変身させ、あたかも「俺が行く俺が行く俺が行く!」という感じで、勇ましいやらかわいいやらでした (それがゲントの不信を招いた側面もあります)。

 ゲバルガに一度敗北したSKaRDは、2度目の掃討作戦に挑みます (12話)。またしても責任を背負い込み、一人で飛び込もうとするゲントの元に、SKaRDの仲間や、かつてゲントに率いられていた機動部隊の仲間が続々と現れました。

 ゲバルガとの再戦には、ゲントはチームで挑みます。それを踏まえて、再度ブレーザーの力を頼ろうとしたときには、どちらか一方の意思で戦うのではなく、ブレーザーとも「チーム」で敵に挑もうという意識に変わってっていました。

 それが、12話のサブタイトル『いくぞブレーザー!』に繋がるのです。

 

4. 新たな力、チルソナイトソード

 12話では、ウルトラマンブレーザーチルソナイトソードという刀剣でゲバルガを撃破しました。武器を使わないニュージェネウルトラマンはいませんが、このチルソナイトソードは登場の経緯が一癖も二癖もあります。

 そもそものきっかけとして、防衛隊がチルソニア遊星人の持ち込んだ物質を新たな装備に使用しようとしたことがありました。隕石に含まれていたチルソナイトはケイ酸アルミニウムの一種だといいます。現実では陶器などにも利用されている熱に強い鉱物で、宇宙に飛び出した文明が利用しているほどですから恐らく非常に優れた物性をもっているはずです。劇中で描かれたアースガロンの装甲を突き破る硬度だけでなく、これは予想ですが、例えば大気圏突入しても全く変性しないなど、いくつもの能力を持っていると考えられます。これをアースガロンに装備し、ゲバルガのコア破壊に成功したのがチルソナイトスピアです。

 その後、ゲバルガとの再戦でピンチに陥ったブレーザーが手に入れたストーンを使ってこのチルソナイトスピアを引き抜くと、チルソナイトスピアは剣の形に変化しました。それも、ゲバルガの電磁力を帯びるという誰も予想していなかった性能をもって、です。ゲバルガは自らの電磁力で貫かれたのです。

 ウルトラマンブレーザーの武器ですから、技名を言わないし、ゲントがインナースペースで操作したりしないし (『ブレーザー』にインナースペースは登場しない)、描写のすべてがハードSFらしくなければなりません。「特撮ヒーローは玩具のためにあるのか」という問いは絶えず論争の種になっていますが、ウルトラシリーズの商品展開と作品のリンクはここまでアップデートされているのです。 

 

5. セカンド・ウェイブ

 ゲバルガの撃破を見届けたハルノ参謀長が、誰かに意味深な電話をしていました。

「セカンド・ウェイブ、退けました」

 セカンド・ウェイブに対する「ファースト・ウェイブ」とは、1話のサブタイトルであり、ゲバルガと同じく宇宙から来たバザンガのことを指します。ゲバルガとバザンガという名前もどこか似ています。ハルノと、そして電話の相手は何が起きているのか知っているのです。

 これに関して、今のところ二つの可能性が考えられます。一つは、『ネクサス』のように上層部が最高機密を抱えており、下部の部隊には何も伝えずに作戦を遂行させているという説。もう一つは、実は上層部がなんらかの目的を持って事態を展開させているという黒幕説です。

 中間管理職ゲントは、まだそのことを知りませんが、どちらの可能性にしても、近い将来人間のもつ恐ろしさと相対することになります。そのときに仲間との絆が力になってくれるのか、ブレーザーが人間に失望したりしないか、見守っていきたいです。