普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

知ろうとする力 ~ウルトラマンブレーザー感想月報④~

孤独でなければ恐怖ではない
 (『ウルトラマンブレーザー』第16話『恐怖は地底より』より/©円谷プロダクション)

 

 今回は、『ウルトラマンブレーザー』以下4話の感想をお届けします。

第13話『スカードノクターン

第14話『月下の記憶』

第15話『朝と夜の間に』

第16話『恐怖は地底より』

 

一歩ずつ、知っていこう

carat8008.hateblo.jp

 

 

 前半で重厚なリアリティある世界観とメインメンバーの人物像を描き出してきた『ウルトラマンブレーザー』ですが、ついに後半で本筋の物語が動き出しました。前作『デッカー』も同様で、後半から未来世界でのバズド星との因縁を巡る物語が展開されましたね。単発回で怪獣の魅力を表現してきたウルトラシリーズの伝統と、一繋がりのストーリーの中で主人公たちの成長や絆を描いていく平成・ニュージェネレーションシリーズの面白さを両立させるには、これがちょうどよい手段なのかもしれません。

 10月の計4話は、『ブレーザー』の物語の謎に分け入っていく回でした。『ブレーザー』がテーマとしているコミュニケーションは、相手のことをよく知ることであり、それは謎を解き明かすことに似ているかもしれません。

 

 

1. エミの秘密

 前半の物語で一番謎が多かったのが、エミのことだったと思います。アンリやテルアキ副隊長は故郷が登場したり、ヤスノブは誰も見ていないところでやってしまう素顔が描かれたりする中で、エミだけはあちこちに潜入する活躍がありながら、その過去には触れられていませんでした。

 初めてその話題が出たのは、13話です。特撮映像こそ新撮がありませんが、もはや13話を「総集編」と呼ぶのは実態に即していないでしょう。新事実や登場人物の過去が明らかになっていきました。

 ただ、エミはここでもまだ本当の入隊理由を伏せています。防衛隊のシステムをクラッキングしたのが「遊び」だなどと言われて、確かにエミの天才ぶりを見るとあり得なくはないなと信じこんでしまいそうですが、その先の14話を見ると、上層部が隠蔽した父、樹の死に迫るべくシステムに潜入していたことがわかります。

 これまで単発回を重ねてきた『ブレーザー』が、24年前に飛来した地球外物体「V99」と、それに関わる3年前 (2020. 9. 9) に起きた事件を中心に一つの物語に繋がろうとしています。その真相は未だ謎のままですが、土橋佑という人物が鍵となっていること、「ファースト・ウェイブ」バザンガと「セカンド・ウェイブ」ゲバルガがそれらと関わりがあることが判明しています。さらに、この時の事件で土橋を護衛していたのがゲントで、結果的にエミの父を助けることができなかったという、2人の因縁も明らかになるなど、14話は一気に展望が開ける回になりました。

 この事実について嗅ぎまわっていたエミは防衛隊のスーツ姿の男に捕らえられ、連れてこられたのは土橋本人のところでした。それまでのハルノ参謀長の発言から、てっきりエミは処罰を受けるものとばかり思われましたが、V99の事故について真実を知りたい、あるいはすべて知っていて、なお若い人の手で真実が暴かれるのを見届けたい土橋が接触を求めたのでした。ハルノもまた、詮索するならSKaRDを解散させなければいけないと散々脅しておきながら、エミを泳がせているようにしか見えません。ハルノと蒼辺樹は親友だったとエミは知らされていますが、ハルノにはまだ思うところがあるようです。ただ、知りすぎたエミを消そうとしているならば、もう消すことはできているでしょう。エミの知るところ、知りたいことを聞き、隊長としてエミの活動を許可した (=護ることを約束した) ゲントはもちろんのこと、様々な思惑はあるのでしょうが、エミに期待している人は本人が思っているよりも多いのかもしれません。

 余談ですが、土橋を演じたのは寺田農さんです。初代『ウルトラマン』からの大常連で、直近では『ジード』でリクの育ての親、錘を演じていました。得体の知れなさを醸し出す土橋は、このときの気さくで温厚そうな様子とはまるで違いますが、『天空の城ラピュタ』でムスカという大悪人の声を演じた寺田さんがあまりにも有名すぎて、引っ張られている部分もあるかもしれません (?)。

 

2. 個性的すぎる怪獣たち

 10月の怪獣は、変わり種ばかりでしたね。

 一体目は「一切着陸しない」ことで話題になった月光怪獣デルタンダル。

 二体目は、初代『ウルトラマン』以来の登場となった、子どもの絵が宇宙線で実体化した二次元怪獣ガヴァドン

 三体目は、見た人にその人が最も恐怖するものの姿を見せる幻視怪獣モグージョン。

 それぞれについて、簡単に印象を書いていきます。

 超音速で空を飛び、積乱雲に潜むデルタンダルは飛行シーンしか存在しないため、地上用の着ぐるみが存在しません。制作陣も初めて知ったとき衝撃を受けたほどだったそうですが、私が注目したいのはこの回が防衛隊内部の人間ドラマを中心にした回だということです。そして、デルタンダルの特性や出現経緯などはこの回の主題とはあまり関係がないのです。このような形でも個性的な怪獣を登場させられることに私は驚いてしまいました。

 15話のガヴァドンはファンの間で語り継がれてきた伝説のような存在で、今回はほぼ原典そのままの姿を現しました*1。この回は、子どもたちの世界をメインに描いているので、主題と怪獣ががっつり絡んでいます。大人の世界から疎外された子どもの、こちらを見て欲しいという感情が怪獣を生み出すのは原典通りですが、ゲントの息子であるジュンも関わっているだけに、ゲントの家族とのすれ違いが強調されてしまうのは辛いところです。家族と過ごす時間が少ないために、向ける愛情も一方的なものになってしまうのです。子どもらしいわがままも叶わない家庭環境のなかで、子どもは大人になることを強いられてしまいます。明言はされていませんが、友達のアラタやツムギたちもそれぞれに家庭の事情があるのでしょう。その事情は酌むに値するものがあります。しかし、生み出してしまったものに対しては責任が生じ、その責任を取れないという罪が生まれます。子ども達はそれを知って、ほんとうの大人になるのです。

 モグージョンの生態は、考察しがいのあるものでした。その人が最も恐怖するものに自らを見せかけるモグージョンの姿は、エミにはなんと自分自身に見えていました。誰もが心に怪獣を飼っているものだとは思いますが、いつも涼しい顔をしているエミの心の中には、不条理に父を喪ったことから生まれた激情があります。自分に対しても嘘をつき続けてきたエミの中で、本当の自分というのは怪獣に成りかかっているということなのでしょうか。

 なぜモグージョンがこのような生態を持っているのかに関しては、エミが幻覚に苛まれたときにSKaRDメンバーがとった対応にヒントがあると思います。自分たちも「恐怖」を体験したテルアキ、ヤスノブ、アンリは必死になってエミと連絡をとろうとし続けていました。これをさせないための攪乱が一番の目的でしょう。モグージョンと出会った人は、パニックになると同時に、他の人との意思疎通が困難になります。同時に出会った別の人には、モグージョンは別のものに見えているからです。こうして、モグージョンは集団で行動する生物を孤立させることができます。そうしてしまえば、たとえば『デッカー』に出てきたツインテールの大群のような生物さえも餌食にすることができるというわけです。裏を返せば、SKaRDメンバーがそうしたように、独りぼっちにしないことこそが恐怖を克服する方法だと言えるかもしれません。AIが発達して人手を減らしても仕事ができるようになったとしても、人を独りにしないことは人間にできてAIにできないことだと、この物語は言いたいのでしょうか*2

 

3. もっと君を知れば

 なぜ、『ブレーザー』にはこうも立て続けに変わり種怪獣が現れるのか、怪獣に対する意欲が高いのかというと、販促要素を抜きにして考えれば、13話でゲントが言っていた「知らないから知ろうとする。知ろうとするから、相手のことを考える」という言葉を体現するためだと思います (販促を含めて考えるなら、怪獣をたくさん出すという方針から逆算してこのテーマになっているとも言えます)。つまり、毎回SKaRDが怪獣を知ろうとして奮闘することが、より大きくはブレーザーのことやV99に迫ることに繋がっているのです。

 まだまだお互いに知らないことの多いゲントとブレーザー。ゲントが知っているようで全然知らないゲントの家族のこと。そして、過去の事件のことを知ることで自分自身に決着をつけたいエミ。残り8話では、もっとよく知ることができるのでしょうか。

*1:より怪獣らしいフォルムのガヴァドンBは登場せず

*2:このAIこと「EGOISS」の声が石田彰さんということで、不穏を感じた人は多かっただろうが、おそらく大丈夫だろう……