普門寺飛優のひゅーまにずむ

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冒険は突然に始まる ~豚のレバーは加熱しろ 感想①~

 私の好きなライトノベルがアニメ化されました。『豚のレバーは加熱しろ』という珍妙なタイトルで、1巻の表紙やアニメのキービジュアルには1匹の豚 (ミニブタ?) と1人の金髪の美少女の姿が描かれています。現在、原作は8巻までで一区切りを迎えており、その最終巻を読んでいる途中です。

ギミックには必ず意味がある
 (『豚のレバーは加熱しろ』第1話『オタクは美少女に豚扱いされると喜ぶ』より/©2023 逆井卓馬/KADOKAWAアニプレックスBS11)

 

 本記事では、TVアニメ『豚のレバーは加熱しろ』の以下の3話の内容に触れつつ、この作品の面白い所を紹介したり、感想をお伝えしたりしたいと思います。

第1話『オタクは美少女に豚扱いされると喜ぶ』

第2話『豚もおだてりゃダンスする』

第3話『推しにガチ恋してはならない』

 

 

1. 『豚のレバーは加熱しろ』について語れ

 『豚のレバーは加熱しろ』(『豚レバ』) は、逆井卓馬さん原作のライトノベルで、ジャンルで言えば「異世界転生もの」です。もともとこのジャンルはあまり読んだことがなく、詳しくもなかったのですが、私は逆井さんのデビュー前、『カクヨム』時代にこの作品を知り、ファンになってしまいました。

 この物語は、豚のレバーを生で食べた理系男子大学生の主人公 (以下、本稿では「<俺>」または「豚」と表記) が、剣と魔法の国「メステリア」で豚に転生してしまうところから始まります。そこで出会った金髪美少女――小間使いのジェス――とともに旅に出る、という話です。

 異世界転生といえば、チート能力とか、現実世界で持っていなかった能力に目覚めるようなことを想像しがちですが、<俺> にはそのような能力はありません。身体的にはただの豚であり、精神的にはただの「眼鏡ヒョロガリクソ童貞」です。もっとも、<俺> は人間としても相当優れた頭脳を持っているので、それを宿した豚というだけに既にチートではあります。3話で豚自身が気づいたように、豚なので豚の身体・知覚能力 (嗅覚や視野の広さ) も使えるのです。

 番組の宣伝を見ると、「豚と美少女のイチャラブコメディ」であるように見えます。実際はその要素もありますが、それだけではない、というより、そこがメインというわけでははありません。世界観の作りこまれたハード・ファンタジーであり (ライトノベルではありますが)、それゆえのダークな部分が全巻を通して存在している作品です。現段階でいえる範囲で『豚レバ』を一言で言い表すと、過酷な運命に立ち向かう1匹と1人の冒険物語、といったところでしょうか。2巻以降も、巻を重ねるごとにテイストが変化していくのが魅力で、飽きさせない目まぐるしい物語が展開されていきます。

 

2. 映像化に不可能はない

 恥ずかしながら、私は原作小説を読んでいた時、この小説の映像化は不可能だと考えていました。ジェスは、イェスマの「心を読む」能力によって、豚の考えていることをすべて知ってしまいます。そして、原作小説は豚の一人称語りで進むので、ジェスや後に登場するセレスは地の文を読んで豚の思ったことに答えてしまうこともあります。そして「地の文だ」といういささかメタなツッコミを受けるのです。

 これは小説の地の文と「」で囲まれた台詞の違いを利用したギミックで、人間の言葉が話せなくなった豚は「」の代わりにイェスマにだけ聞こえる心の声 <> を使って会話します。アニメでは、これがモノローグと「エフェクトのかかった」台詞で表現されていました。一人称語りをモノローグで表現するアニメは多数ありますが、面白い表現方法を使っています。

 ただし、このエフェクトは今一つわかりにくく (3話まで実際に使われているかどうかすら判別できない)、むしろ豚こと <俺> を演じる松岡禎丞さんの演じ分けによるほうがわかりやすくなっています。豚になってしまった人間を演じるという経験をしたことがある人はほとんどいないと思いますが、声優のハイレベルさを感じるところです。そして、その <俺> と出会うジェスには、まだ明かされていない秘密が二重にも三重にもあるのですが、新規視聴者の知らない部分まで含めて大切に演じているのが楠木ともりさんです。

carat8008.hateblo.jp

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 離れてしまってもまだまだ追いかけたいと、今年私が何度も願った楠木ともりさんです。ややスケジュールに余裕が出たからかもしれませんが、今期は本作をはじめ『ひきこまり吸血姫の悶々』、『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』『ティアムーン帝国物語』などなどと、引っ張りだこです。

 この2人組は、アニメ化決定前のWebCMで既に共演しており、この2人のまま何らかの形でコンテンツ展開されてほしいと願っていました。そしてそれは原作者の逆井さんも同じだったようです。私にとっては楠木さんは言うまでもなく、松岡さんも代表作の『ソードアート・オンライン』を存じ上げないのですが、『鬼滅の刃』嘴平伊之助役など知っている役を思い出す限り、放送前からこのアニメ化に対して何も心配はいらないと思っていました。

 アニメ化への果敢な挑戦と、声優が展開する世界が、動くメステリアを実現させました。

 

3. 世界のすべては謎である

 不思議な世界に転生してしまった <俺> にとって、自分が今いる状況、そこに現れたジェスが何者なのか、すべてが謎に包まれています。その謎が少しずつ、本当に少しずつ明らかになっていくのがこの作品の醍醐味の一つではあります。ただ、謎が解けてすっきりするわけではない、ということは皆様にお伝えしてもネタバレということにはならないと思います。むしろ、知りたくなかったこともたくさん出てきます。

 3話までで言えば、ジェスの美しさや純粋さが描かれたかと思えば、一歩屋敷の外に出てみるとそのジェスがあちこちで不条理な扱いを受けています。確かにこの先モンスターやダンジョンもあるかもしれませんが、むしろこの冒険における困難はそのような、現実世界でも起こりうる形で現れるということの前触れのようです。私が思うに、異世界ものも時代劇も、すべてある意味では現実世界の鏡映しであるといえます。大河ドラマが制作される時代によって異なる人物像や歴史解釈を描き出すようなことが、この作品にもあてはまるのでしょう。

 豚になった <俺> は無力です。そして私たちもまた無力です。ときにそこに、私たちは自分自身を重ねることができると思います。

 とんでもないところで引きになってしまった3話。ですが、これで終わらないのが『豚レバ』の冒険です。