普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

「やってみた」を彷徨い、君との夢へ ~ラブライブ! スーパースター!! 第2期感想週報⑥『DEKKAIDOW!』~

 北海道は富良野・美瑛という広大な土地を舞台に、2期生たちのドラマが繰り広げられました。前回、マニーに拘り、Liella! をただで利用しようとしさえする夏美の事情とは何か、という謎が残されましたが、その解決編が今回に当たります。私たちは、マニーが必要な理由や、夏美が置かれた背景事情にばかり目を向け、まんまとシナリオの術数にはまりました。そこには、驚くべき逆転の発想が秘められていたのです。

 前回提示された謎の答えも含めて書いていきたいと思います。

「やってみたいこと探して 冒険したっていいんじゃないかな」

(『始まりは君の空』より)

 

鬼塚夏美の謎

carat8008.hateblo.jp

こんなにバイタリティがあるのに、夢がないなんて
(『ラブライブ! スーパースター!!』第2期第6話『DEKKAIDOW!』より/
©2022 プロジェクトラブライブ! スーパースター!!/配信URL:https://www.youtube.com/watch?v=mmjagxM1m-s)

 

 

1. 女子高生LTuberが「何か」をやってみた (かった)

 きな子は度々、夏美に「夢」ややりたいことがあるかと問いかけていました。夏美はそんなものはないと何度も俯いていました。しかし、その「やりたいことがないこと」にこそ、夏美の夢の種が眠っていたのです。

 夏美はきな子の実家で夢を見ました*1。小学生のころ、夢はオリンピック選手と語るも、かけっこではいつもビリでした。ノーベル賞を取る科学者と宣言してみては、算数のテストで酷い点数を取っていました。中学ではモデルになると豪語していましたが、背が伸びず望みを絶たれました。もっとも、これは夢の中の話なので、本当の過去の回想なのかはわかりません。もしかしたら、そんな大それた夢を口にすることもできず、独りで腐っていたのかもしれません

 とはいえ、夏美にとって夢が「到底願っても叶うはずのないもの」だったのは確かです。誰もが夢を持てと言われ、それが将来の職業や、あるべき姿であることを求められる時代です。夏美と同じように夢というものに幻滅する人も多いのでしょう。夢を見て、叶えられる人は別の人種だと思ってしまうのも無理はありません。Aqoursの廃校阻止のような到底叶わない夢を追い続けられる人は、やはりごく一握りだと思います。

 夢を持てなかった夏美でしたが、夢を持っていないだけではありませんでした。夏美の場合、形にならない「何かをやりたい気持ち」が抑えきれずに暴れていたのです。本当に夢がないだけならただただ怠惰な人生を送ることもできたはずです。マニーを稼ぐくらいしかやることがないと言いながら、夢がないせいで行き場を失ったバイタリティが溢れ出していたように思えます。

Q. 何故夏美はマニーを稼ぐのになりふり構っていられなくなっていたのか?

A. なりふり構わず走りたかったから

 これは驚くべき逆転の発想です。ただでさえ物議を醸しがちなラブライブ! シリーズにおける「マニー」の話題を、「本当は『何か』をやりたかっただけで、その『何か』をことごとく諦めた結果マニーにしか目がなくなっていた」といういかにもラブライブ! シリーズらしい背景事情に置き換えてしまったということです。きな子の言う「CEOを名乗るくらいなら何か大きな目標があるはず」というのが本当だとするなら、「夢を持つのが夢」だったのでしょう。

 結局、夏美にはマニーを稼ぐ適性もなく、色々転々としながら痛い目を見たのですが、それにしてもLTuberは夏美にとってきっとやりがいのある仕事だったはずです。色々な「何か」に挑戦しつつ、うまくいけば注目も、マニーも集められるのですから。2期生の練習動画に釣りサムネイルを付けて炎上商法をしようとするも、きな子の純粋さと情熱に絆されて、結局真っ当なサムネイルを付けた動画の再生数が伸びるシーンが、私は好きです。

 

2. 夏美とLiella! 2期生

 夏美にとって、夢とは叶わないもの、見るだけ無駄なものでした。しかし、きな子たち3人は違いました。2年生に追いつき、Liella! をさらにパワーアップさせるという夢、2年生と一緒にラブライブ! で優勝する夢は、遠いけれど実現可能なところにあると夏美は考えました。その3人は、スクールアイドルをやっているからこそ、それが遠い夢であると思い悩んでいました。

 夏美はきな子たちに対し、自分の夢とはまるで違うと諦めに似た感情を抱きつつも、その本気には絆され、それを無理だと遠い目をする3人に対しては黙っていられない様子でした。自分では持てない形の夢を持っている相手だからこそ、「諦めるくらいなら夢なんて語ってほしくない」と、激励したのです。自分自身には届かないと思っている相手を応援する気持ちは、2話のメイのきな子に対する言葉と重なりますね。そして、メイの時と同じく、それは夏美自身にも言えることだと、見ていた方の多くが思ったに違いありません。

 

3. かのん: 南風の「お遣い」

 1年生と別行動となり、去年の5人に戻った2年生たちは、1年生たちのことが気になって仕方ありませんでした。ちゃんと成長できるのか、夏美が悪さをしていないか、それぞれに気にするポイントは違いましたが、最終的に直接北海道に行ったかのんが夏美をLiella! に誘うという「力技」で事態の解決がつきました。1期で神津島から駆け付けたのはまだ現実的ですが、女子高生が後輩の様子を見るだけのために一人で北海道に行くのはあまり現実的ではありません。しかし、ここで何故か北海道で仕事をしていたかのんの父 (翻訳家) が登場します。家から遠く離れた土地で、缶詰めになっていたのでしょうか? 父の忘れ物を届ける「お遣い」で北海道に行くという大義名分を与えられ、かのんは北の大地へ旅立ちました。そこで、父からヒグマの着ぐるみをもらい、1年生、それも夏美に接近します。父はスクールアイドル活動に役立つと思って着ぐるみを用意したのでしょうか。お父さんのスクールアイドル観はどうなっているのでしょう (笑)。もしかすると、忘れ物をかのんに届けさせたこと自体、合宿している娘の後輩たちのことを知っていた父の計らいだったのかもしれません。

 バイタリティはありながら、自分の夢を信じられなくてひねくれていた夏美には、かのんの言葉がよく効きます。今のかのんを見れば雲の上の人と思っても無理はありませんが、1期には、あるいはそれ以前には本当に色々ありました。なので、「お互い欠けてるところや、届かないところを補い合って」という言葉はかのんの実体験に基づくものなのですが、実は夏美自身それを実践しかかっているところでした。諦めそうになっていた3人の背中を押したことで心境の変化があり、撮るだけではなく一緒に練習に参加してみようとするなど、1年生同士の距離も近くなってきたところでした。かのんの訪問のタイミングは実にドンピシャだったといえます。動画で見た1年生の成長しか知らないかのんが、この時の夏美にぴったりの誘い方をしたことは驚くばかりです。

 考えてみれば、夏美が思い描いては持つことさえできなかった夢とは、皆自分一人に関するものでした。誰かと共に追いかけるタイプの夢は、今までの夏美が諦めてきた夢たちとは違うものです。今までの夏美には「みんなと一緒に」という意識が無さ過ぎて、他者はせいぜい動画のネタくらいの認識しかできていなかったほどです。夏美の場合は、「みんな」だからこそ、夢を始めることができました。

 実にLiella! のかのん以外8人のうち、かのんが直接背中を押した5人目となりました。

Q. 1年生にはみんなの潤滑剤になりそうなメンバーはいないが、夏美のメンタルは大丈夫か?

A. 夏美の悩みは偶然やってきたかのんのおかげで解決した。ただし、1年生3人と夏美もお互いの成長につながるぶつかり方をすることができた。

 

3. 1. 千砂都の場合

 1年生の成長に注目していた千砂都に目を向けてみます。1年生の実力と成長を信じ、難しい課題を課して待つという方法は、かのんにやったのと同じ、ぶれない千砂都らしいやり方です。気になったのは、夏美のことを心配する2年生*2たちの中で、一切夏美に言及していなかったことでした。千砂都も興味のある人のことはよく見ているようですが、興味のある人や物しか見えていない傾向はあると思います。「まる」に対する偏執的な愛や、行動の極端なところなども合わせると、言葉を選べばかなり"集中型の才能"の人なのかもしれません。

 

4. ビタミンSUMMER!

 今年も学園祭で初めての全員曲が披露されました。昨年の『Wish Song』とは打って変わってポップな1曲です。タイトルにも歌詞にもふんだんに夏美要素を盛り込んだ、まさに夏美の始まりの曲です。1年生の中で最初にセンターを務めるのが最後に入った夏美だとは予想もしていませんでした*3。昨年のLiella! からは想像もできない姿、これこそがLiella! をステップアップさせるという1年生の夢が叶いかけている証拠なのだと思います。

*1:本段落では「夢」という単語が多義語として出ざるを得ないので、文脈で判断していただきたい

*2:ビジネスをなめている夏美に反感を持つすみれに対して、恋の心配の仕方は、夏美に本当にお金がないのではないかと身につまされていたようにも見えた。これも非常に印象的

*3:恋も加入後すぐセンターをやっているので予想不可能ではなかった