ニジガクが5thライブで『繚乱! ビクトリーロード』を披露してステージを爆発させている頃、同時間帯に放送された『スーパースター!!』2期9話では、ここまでLiella! で雌伏していた時限爆弾が爆発しました。可可が中国に帰らなければならないという話は1期10話から続いていますが、とうとう引き返せないポイントまで来てしまったのです。ここでその問題を「起爆」したきっかけから振り返ってみましょう。
せっかく勝ったのに……
1. 落日
Liella! が見事通過したラブライブ! 地区予選。今年は広範な地区でオンラインライブを開き、東京大会に出場するチームを絞り込むという方式でした。つまり都下のどこの学校もSunny PassionやLiella! と競合しうる大会だったのですが、ここでSunny Passion (以下、サニパ) が敗退するという誰も予想していなかった事態が起こりました。
注目すべきは、結果を見て真っ先にLiella! に連絡してきたことです。Liella! はずっとサニパが注目してきたスクールアイドルで、ライバルであり仲間であり、そして自分たちのファンでいてくれる存在でもあります。ドルオタの可可やメイはもちろんのこと、かのんも自分たちの「連覇」という夢を本気で応援してくれていたのです。自分たちが一番悔しいのに、真っ先にライバルにエールを送り、同時にファンの心配をしてくれているのです。今のラブライブ! の大会では評価されませんでしたが、彼女たちこそ真の
それにしても、ライバルと主人公チームというものはなかなか直接対決させてもらえないのでしょうか。ラブライブ! のライバルチームでラブライブ! 公式大会で勝敗が決したのは、実は今までに2例だけです。『ラブライブ!』2期9話のμ's対A-RISE (μ'sが決勝進出) と、『スーパースター!!』1期12話のLiella! 対Sunny Passion (サニパが決勝進出) です。もちろん、ウィーンもライバル枠ですから、3例目にその対決が加わることになります。
とはいえ、そんなサニパの2人の「心配」は、的中していました。サニパを「下した」*1ウィーン・マルガレーテという存在を意識し、静かに覚悟を決めつつあった人がいました。日本に来たそもそものきっかけがサニパであった、可可です。
2. 可可の覚悟
YSIFで自分たちに土を付けたウィーンに憧れのサニパが敗れたことは、可可にとって自らの前途を悟るには十分でした。
可可は昨年から、スクールアイドルで結果を出さなければ日本にいられないという条件でした。昨年は都大会準優勝という十分すぎる結果を持ち帰り、次は優勝という相当無理な条件で日本に残ることを認められた経緯があります。そしてそのことはすみれしか知りません。
可可は、中国にいたころは優等生として振る舞うことを求められてきました。日本に来てからの奔放な性格には、その反動を感じます。中でも特に雑に甘えることを許してくれているのが、平安名すみれ、そう、あのすみれです。どれだけうまくいってもこの日々には終わりがあることを可可は知っていて、すみれに甘えられるだけ甘えておこうとする様子が見られます。しかし、事態が急変し、それどころではなくなりました。
もちろん可可を含めてLiella! 全員、新たな脅威の前に手をこまねいているわけではありません。千砂都からは十分に成長したとはいえ、まだ1年生の練度が課題だと冷静な指摘があり、その対策を求められました。そうは言っても、ただ勝てばよいというのではありません。かのんにとってサニパとの交流と対決を通して芽生えた勝利の意味とは、皆の喜びを結び合わせることです。戦う以上は勝たないと、悔しさや悲しみが存在してしまいます。裏を返せば、悔いの残るような勝ち方は許されず、それゆえ1年生を抜くという選択肢は端から存在しませんでした。
可可にとっては、スクールアイドルとして皆と歌えるこの日々こそがかけがえのないものです。その日々が想像より早く終わりを告げるかもしれない今、終わってしまう日々だからこそ、悔いの残ることはしたくありません。明日のために今日を犠牲にすることは、あってはなりません。
その一方で、端から勝利の意味が違うメンバーがいました。そう、あのすみれです。
3. みてろ!
可可の事情を知っていて、案じるすみれ。しかし可可は、自分に構うなと立ち去ってしまいます。すみれにとって勝利の意味とは、可可とスクールアイドルを続けるということに他なりませんでした。勝たなければ可可が帰国して9人ではなくなってしまうが、勝つための最速手段は9人ではなくなることという二重拘束問題が部の中で共有されれば、Liella! の9人でなら道が見つかるかもしれませんが、可可は1年生抜きという可能性とそもそも向き合いたくなかったので、議論を避けたのです。1期と違って、今度は可可が逃げています。
翌日、突然都大会は1年生抜きにしようと言い出し、意味不明な主張を叫び出すすみれ。2年生たちはすみれの本当の性格を知っていますが、事情を知らないのですみれが乱心したと思ったはずです。しかし、1年生にはなすすべがありません。実力不足も自覚していたことですし、その提案を受け入れるほかありません。
すみれは可可の気持ちをわざと踏みにじることで、可可に本当のことを打ち明けてほしかったのでした。他のメンバーたちはそんなことは露知らず、今まで結んできた絆に一気に亀裂が走る危機に陥りました。普段ならこういうとき、かのんの一言で解決したりします。というよりも、Liella! にはかのんに依存する体質があり、千砂都が部長になって多少バランスは取れましたが、未だに顔色を窺うようなところが見られます。ところが、今回はそのかのんが機能不全でした。またしてもウィーンがかのんの家に現れたことが影響しているのでしょうか。ウィーンが何を目的にかのんに固執しているのか気になりますが、今回それは脇に置いておきます。かのんに余裕がなく、「すみれちゃんにはすみれちゃんの事情も」と、かのんがよく言う台詞を千砂都が言っているほどです。
戦力外通告を正直に受け入れ、それをすみれに伝えに来た1年生たちに対し、すみれは全員で歌いたいと言ってしまいます。ショウビジネス界で、幼いころから大人として振る舞うことを覚えてきたすみれが、これほど大人げないことができるようになったのかと思ったほどですが、人のまっすぐな気持ちに触れてしまっては、独りで悪者になることなどできません。それも千砂都のような肝の据わった人物ならわかりませんが、すみれならなおのことできるはずがありません。すみれは良い子も良い子、演じるペイトン尚未さんの腰の低さも相まって、善良のイデアのような存在です。
そのやり取りを聞いていた可可に、すみれはついに抱えてきた想いをぶつけます。自分の夢を繋ぎ留めてくれた可可と、最後までスクールアイドルを続けたいというすみれの願いは、実際の行動はあまりに不器用でしたが、すみれにとってはどんな手段でも構わないと思うほどに一途なものでした。物語を独りで終わらせても、悔いの残らないものにしたいと思っていた可可を、今度はすみれが繋ぎ留めたかったのです。
とはいえ、こうしてきちんと打ち明けられたからよかったものの、今回の話は一歩間違えればすれ違いのまま悲劇に終わったかもしれません。もし屋上での衝突をかのんか千砂都が丸く収めてしまっていたら、すみれが求められてもいないのに可可のために足掻いているということが可可に伝わっていなかったら、"ショウビジネスの世界に返り咲く"などと言っても、すみれは嘘吐きグソクムシに逆戻りでした。実際は皆、9人で歌うべきだと思っていたのに、最悪それが実現しないまま終わっていたでしょう。今回の「尊さ」は裏返せば「危うさ」であることを指摘せざるを得ません。
なお、今回の脚本では、可可とすみれの関係にクローズアップするにあたって、それ以外の要素を少しずつ引き剥がしていく構成になっています。それもあって、「クゥすみ」ファン以外の方は、もしかしたら置き去りにされた感覚があったかもしれません。そうまでして確認された「9人でなければならない」かつ「勝たなければならない」という要求。果たしてLiella! は叶えられるのでしょうか?
*1:もっともサニパは総合得点で上位に入らなかったのだが、直後のパフォーマンスで注目を攫われたためこのような言い方をしている。Liella! が入っていなければサニパが……という見方もできるが、そういった配慮の可能性も