普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

現実と幻日 ~幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 感想週報②『わたしのおしごと』~

記事の本筋とはあまり関係がないが、本作の柔和な印象のダイヤがとても好き
 (『幻日のヨハネ SUNSHINE in the MIRROR』第2話『わたしのおしごと』より/©PROJECT YOHANE)

 

 『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』のTV放送が始まりました。当ブログでは、ABEMAの一週間先行配信を観て感想記事を執筆し、翌週のTV放送直後に感想をアップロードする予定です。

 親からの仕送りで生活していたトカイ生活とは違い、初めて本当の意味での親離れを課せられたヨハネ。「姉」的存在の狼獣*1ライラプスとともに、「自分にしかできない楽しいこと」を探します。

 

精神的未成熟

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1. 仕事のいいところ

 子どもの頃に買ってもらった占い師セットを引っ張り出して占い屋を開いたものの、閑古鳥が鳴いていたヨハネ。見かねたハナマルが、ヨハネを友達のところへ案内しようとします。1話で再会したときのヨハネのばつが悪そうな態度から、ヨハネがトカイでうまく行かなかったのも、今困っていることもハナマルは察していたのだと思います。友達の働いているところを見せることで、ヨハネの仕事探しの力になれたらと思っていたのでしょう。ヨハネは、渋々ですがハナマルについていくことにしました。

 最初にハナマルが訪れたのは、ウチーラのトチマン旅館の娘、チカのところでした。女将の母親と、娘3姉妹の4人で切り盛りしています。『サンシャイン!!』の高海家 = 十千万旅館では、母親と美渡は稼ぎに出、志満と千歌だけが旅館で仕事をしていたので、より盤石の態勢に見えます。特に3姉妹のチームワークは抜群です。

 チカが旅館の仕事にやりがいを感じているところは、見知らぬ人がたくさん訪れる場所で、たくさんの人と出会えることでした。しかし、ヨハネは極度の人見知りなので、この仕事はとてもできないと、首を横に振りました。

 次に向かったのはヌマヅ行政局でした。会いに行ったのは、執務長官のダイヤです。

 予告の段階で、着ている服などからかなり高い職位であることは予想していましたが、その仕事ぶりは実質的には「市長」同然でした。「執務長官」という言い方は、形式上の支配者、例えば領主のような存在を前提としているのでしょうか? ラブライブ! シリーズには、18歳の学校理事長や14歳のヒットソングメーカーなど凄まじい職歴をもつスクールアイドルが登場していましたが、現代日本の制度では不可能な17歳の市長は当然いません (実在する歴代最年少の市長は、被選挙年齢ぎりぎりの26歳で当選した髙島崚輔・芦屋市長)。

 ヌマヅのトップともなれば、生徒会長とは桁違いの広範囲にわたる職務をこなすことになります。道路の危険から水産業から「例の音」のような未知の事象に至るまで、調整と指示の手腕を発揮していきます。ヌマヅの住民の動向にも目を配っており、ヌマヅに帰ってきたばかりのヨハネのことももう把握していました。それでいて、Aqours黒澤ダイヤが持っていたような近寄りがたさや、高飛車なところはみられず、柔和で優しい印象でした (こちらのダイヤも、本当はとても優しいのですが……)。「ですわ」口調が封印されていたことも関係あるかもしれません。

 これほどの仕事ぶりには、誰もが憧れることでしょう。しかし、なれるかどうかは別問題です。そもそもヨハネはこんなに多忙に働きたくはありませんでした。

 ハナマルの職場見学は、ヨハネの就職のハードルを上げてしまう結果に終わりました。

 「空を飛んじゃうみたいなアメイジングな」仕事がしたいヨハネが空想すると、次の瞬間、頭上をお仕事少女が颯爽と飛び越えていきました。彼女の名はヨウといい、1話でライラプスに触れていた幼い少女たちの従姉にあたりますが、まだヨハネはそのことを知りません。自分しか思いつかないと思ったすごいことを、既に誰かがやってしまっているというのはよくあることです。「私にしかできない楽しいこと」の意味をはき違えてしまうと、その罠にはまってしまいます。

 ヨハネを揺さぶるような出来事は、さらに続きました。ハナマルがお菓子の売上金を入れていたがま口の中身を見てしまったのです。入っていたのは、想像よりずっと少ない額。お金を稼ぐ苦労を知らず、親からの仕送りをトカイでの暮らしや遊びに使ってしまっていたヨハネは、その現実を目の当たりにしてショックを受けてしまいました。好きなことを仕事にできたハナマルは、ある意味では人生に成功しているのですが、それで不自由ない暮らしができるかは別問題なのです。そのショックが、そのままヨハネの口をついて出てしまいました。それがハナマルを傷つけることになるとも知らずに……。

 

2. 現実のヨハネ

 翌日、塞ぎ込むヨハネに、とうとうライラプスもこの街を出て行くかと訊きました。ヨハネは、それを否定します。「このままじゃよくない気がする」と、昨日までと反対のことを言うのです。

 ヨハネの心境に最も影響を与えたのは、ハナマルを傷つけてしまったことで間違いないと思います。というより、今のヨハネにそれほどの影響を与えられる人や物は、ハナマルをおいて他にありません。ハナマルに謝らなければならない、ただ謝罪の言葉を述べるだけでなく、謝れるような人間にならなければならないという、「ヌマヅでやるべきこと」ができたので、今すぐにヌマヅから逃げるという選択肢はなくなりました。とはいえ、どうしたらよいかもわからず、不貞腐れたように寝転がってしまってはいましたが。人は一朝一夕に変われるわけではありません。

 そしてこの日も占い屋を開けていると、今度は「楽して稼ぎたい」という甘い考えも矯正される出会いがありました。占い屋を訪れたのは、占いの客ではなく、動物学者のリコでした。ヨハネのお金に困っているという話を聞いてしまったリコは、たまたま仕事場に入ってきたライラプスを、研究のために引き取り、協力金を渡すという交渉を持ちかけました。ヨハネは一瞬誘惑されていましたが、大切な家族であるライラプスを売るという選択はいくらなんでも許しがたいものであり、その申し出を断りました。その後、前日にも店を訪れてヨハネに依頼を断られていた子どもたちが再び現れ、ささやかな謝礼とともに手伝いを頼みに来ると、ヨハネは受け入れました。

 こう見ると、このままではライラプスが売られてしまうという焦りから覚醒したという捉え方もできますが、私は違う見方をしています。ライラプスの提供を断るとちう選択は、ヨハネが自分の意志でした決断でした。トカイに出たのもヌマヅから逃げ出したという側面があり、トカイでは喧騒の中である意味流されて生きていたので、ここで自分の意志を通すことができたことはヨハネにとって自信になったと思います。それと同時に、ライラプスと一緒の暮らしに、責任感が芽生えたということでもあります。

 リコがしようとしたことは好奇心の暴走が元であり、他人の家族を横取りするようなコンプライアンスアウトなことですが、結果としてグッジョブだったと言えます。ここまできてしまえば、ヨハネにお仕事をする精神面の準備は十分にできているからです。とはいえ、まずはできることから。近所の人の頼まれごとを一つ一つ解決して小銭を稼いでいきます。いつしか、そうしていることが楽しいということにも気づき始めていました。「自分にしかできない」ことをするのに欠けていたのは、案外誰にでもできるようなことなのかもしれませんね。

 リコのことを勝手に占っているところからもわかる通り、ヨハネの占いは独り善がりで、仕事としては成立していませんでした。結局のところ、占いなどというものは、もしかしたらこの世界では魔法を使うのかもしれませんが、いずれにしても人の困りごとや悩みごとを解決する手段に過ぎないのです。関係ない手伝いをしているようでいて、ヨハネは占い師としても一歩を踏み出しています。

 ところで、リコを占ったときに出た、頓珍漢な結果ですが、つぶさに見ていくとあることに気づきます。「小さい頃勉強が苦手だった」。「2年前にヌマヅに来た」。「人生に迷っている」。これは、ヨハネ自身のことではありませんか?

 実際には、2年前のことは真逆で、ヨハネはヌマヅを出てトカイに行っています。ヨハネが勉強が苦手だった描写はありませんが、「Aqours津島善子」はというと、媒体によっては成績の良い描写もあるものの、『スクスタ』では成績が怪しい様子が描かれていたと思います。「人生に迷っている」のは言うまでもありません。独り善がりの占いでは、水晶玉を覗いても自分の顔しか見えないでしょう。

 こうして、夢に描いた通りではないけれど、ヨハネにもハナマルと向き合う準備ができました。ヨハネがハナマルに謝るシーンで気になるのは、ヨハネのほうがひな壇状の場所の上に立っているということです。人に謝るシチュエーションでは珍しい気がします。ハナマルと向き合えるようになったヨハネは、ハナマルの憧れという立場に戻ることができたということでしょうか。

 こうして現実と向き合うことで、ヨハネの夢の「滑っていた」部分を徐々に埋めることができると信じています。

 

3. 夜は非現実の世界

 1日で少しばかりのお金を稼いだヨハネ。そのお金を、トカイに戻るために貯金するのかと思いきや、ハナマルのお菓子を買いに行くと言います。友達思いの美談……と思いきや、ヨハネは重大なことを忘れていました。

 もう外が暗くなっていたのです。前日に行政局を訪ねたとき、ダイヤは夜間の外出を禁止するということを部下たちに伝えていました。その忠告を無視して、ヨハネは夜のヌマヅ*2に繰り出してしまいます。忘れていたのか、あるいは人の話を聞かない傾向は変わっていないのか、わかりませんが、ヨハネは夜の森で、凶暴化した生き物に襲われてしまいました。様々な異常を引き起こすノイズが原因です。

 リコがヌマヅに来たのも、その調査のためでした。

 謎の瘴気のせいか、それとも恐怖で体が硬直したのか、動けないヨハネの元にライラプスも向かいましたが、間に合いません。

 窮地のヨハネの元に現れたのは、「ミリオンダラー」を名乗る3人組でした。とんでもない身体能力を持ち、空中で高速宙返り*3を決めました。……どうみても、トチマン旅館の三姉妹ですが。

 旅館は、夜を過ごす人々に安全と快適を提供する仕事です。その従業員一家が、お客さんを旅館というシェルターに匿って夜の世界で人知れず戦っているとしたら、その2つの顔は表裏一体であるといえます。

 さて、この旅館一家のことを考えていると、この作品の構造がだんだんと見えてくる気がします。ヌマヅに、「昼の顔」と「夜の顔」があるということです。現実世界と同じように、労働して粛々と日常を生きていく「昼の世界」と、虚構に世界が支配され、その中で人々が敵と戦ってゆく「夜の世界」二重構造であり、それもチカたち三姉妹のように、昼と夜が互いに関連し合いながら物語が進んでいくことが予想されます。それは、「幻日」というタイトルが表すように、鏡映しの「2つの太陽」のようなものです。

 次回のタイトルは『団結 Are you ready?』。ということは他にも夜の世界を守る人が現れるはずです。それは誰でしょうか?

*1:わんこ

*2:ハナマルの菓子屋も営業していないのでは?

*3:三女・ケイティーだけ、1回転のバック宙。これはAqoursの『MIRACLE WAVE』における高海千歌のバック転のオマージュではなかろうか