普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

時間と空間、そして人 ~幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 感想週報④『空と海のあいだ』~

何事も、体験あるのみ
 (『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』第4話『空と海のあいだ』より/©PROJECT YOHANE)

 

 前回は、『幻日のヨハネ』の世界を形作る「昼と夜」の構造のうち、「夜」の話でした。

 

夜の似合う少女と昼から捨てられた少女

carat8008.hateblo.jp

 

 今度は、「昼」つまりヨハネが自分にしかできないことを探さなければならない時間の話です。2話ぶりの「お仕事回」になります。

 宇宙に行きそうなサブタイトルだと思ったアニメファンの方もいるかもしれません。今回は、簡単に要約してしまえば、「空と海のあいだ」に、「時間と空間」、そして「人」を見出す回です。

 

 

1. 空飛ぶ職場体験

 マリに会った次の日にヨハネの家を訪ねてきたのは、母からの手紙を預かったメッセンジャーのヨウでした。

 ヨウは、ヨハネに郵便配達の手伝いを頼みます。人見知りのヨハネは、町の人たちにおずおずと手紙を差し出すばかりでしたが、受取人たちの喜ぶ顔を見てだんだんと張り切りだしていました。

 そして、ヌマヅのメッセンジャーといえば、長距離は空を飛んで届けることになっています。2話で空を飛んでみたいと言ったらヨウが飛んできて、自分の思いつきの浅さからヨハネの中ではなかった話になっていましたが、口に出すと不思議に縁ができるもので、職場体験の一環としてヨハネも飛ぶことになりました。ヌマヅでは、人間大砲で空を飛びます。サンライズはロボットアニメを多数ヒットさせてきたブランドということもあり、メカ描写がやたらかっこよくなってしまうのは面白いところですが、ともあれヨハネもこの大砲から空を飛び、風に乗るのを楽しんでいました。

 ヨウが空を飛ぶ仕事を好きな理由は、風に乗るのが気持ちいいからだけではありません。ヌマヅの自然や人々を、すべて一望することができるからです。ヨウは大空に大好きを叫んでいました。ヨハネにはまだそれはできなかったものの、体験を通して気づいたことは、確かにあったと思います。

 数日前*1、なぜヨハネは空を飛びたいと思っていたのでしょう。ヨハネが得たかったのは、優越感だったのではないかと思います。空からヌマヅに住む有象無象を見おろして、自分が他と違う存在なのだと示したかった、あるいは自分に言い聞かせたかったのだと思います。だから空に先客がいたのを知って黙ってしまったのです。2話の時に、母から言われた「特別」の意味を履き違えているのではないか、と書いたのは、具体的にはそのようなことです。

 実際には、空を飛ぶ楽しさは他のところにありました。空高く昇ってより広く遠く見渡せるように。より多くの人と人を結ぶことができることに、誇りとやりがいを見出せるのだと思います。ヨハネはヨウとの飛行を経て、他を見下すのとは違う「特別」への上り方に、一歩近づいたのではないでしょうか。念願の空は、叶ってみれば思っていたのとは違ったかもしれませんが、素敵な場所でした。

 

2. リサイクルクイーン

 ヨウたちが手紙を届けに来たのは、カナンのところでした。海に落ちているガラクタから様々なものを生み出す「ウチーラのリサイクルクイーン」です。別の世界のスクールアイドルである松浦果南にはものづくりの要素は皆無だったのでどのようなキャラになるのか予想もつきませんでしたが、ウチーラの海と太陽を頑張ったご褒美にする、超然とした性格は共通していました。アイドルでいうならば、某男性アイドルグループのように何でも作ってしまう人物です()。果南の場合、その生き方のスケールの大きさゆえに、媒体によっては細かいコミュニケーションを怠ったり、学校の勉強に縛られるのを嫌ったりする一面もありました。一方でカナンは、おおらかさはそのままに、喋るロボット・トノサマや、そのミニチュアも制作しているなど、精密な加工もお手の物のようです。

 何でも作るカナンを、ヨハネ「それこそ何でも屋」と揶揄します。それは自分が占い師を自称しているにも拘わらず「何でも屋」と呼ばれることへの反発ではありますが、何でも屋ではだめなのでしょうか。誰にでもできる頼まれごとしかできない自分を卑下するあまり、他人のことも知らず知らず見下していないでしょうか。誰かをリスペクトするには、まずは自分に誇りを持つことです。

 

3. 「もの」が繋ぐ思い

 これまでにヨハネが見てきた仕事は、お菓子屋に旅館、役所、メッセンジャーと、すべて人と接する仕事です。一方で、カナンはものを扱う仕事です。とはいえ、根っこは同じだとわかります。

 今回受けた依頼は、いつもの子ども3人組 (リュウ・セツ・ラン。男女入り混じっているが、本作における「神モブ」ポジションといえそう) からの、壊れたブランコの修理です。実際にはブランコの持ち主との契約関係とはいえ、カナンは子どもたちのために張り切ります。

 カナンが困難とも思える修理に精を出せる秘訣は、そのものの「未来」を見ているからだとのことです。少し先、自分の思い通りの形になったブランコは、子どもたちを乗せ、笑顔にしています。さらに、イメージイラストには「こどもからおとなまで長く愛してもらえるように」とあり、遠い未来のことも見据えています。当然ですが、ものを扱う仕事は、そのものを通して人に働きかけることです。

 一方で、このブランコに思い入れがあるのは、子どもたちだけではありません。ヨハネも、昔このブランコに乗っていたことがありました。自分を認めてくれなかったヌマヅが嫌いで、捨ててしまいたいと思っていた過去ですが、そこにカナンの「名言」が刺さります。カナンは誰かが捨てたものを、他の誰かにとって必要なものに生まれ変わらせるプロです。「要らないものなんかない」というカナンの言葉で、ヨハネはブランコの修理を手伝うことでその思い出を生まれ変わらせようと思い立ちました。

 経験のないヨハネは失敗続きでしたが、カナンは優しく教え、見守ってくれました。カナンが気前のいいお姉さんなのは私たちの知っている通りかもしれませんが、もしかしたら、ヨハネ自身がそうやって生まれ変わろうとしていることにカナンは気づいていたのかもしれません。

 ものは、過去と今と未来の人の思いを繋ぐ存在です。ヨウと一緒に「空間」を俯瞰した体験に続き、今度はヌマヅに流れている「時間」に触れたことは、「特別」にさらに近づく一歩だったと思います。自分の仕事によってできる人とのつながりは、そのような時間と空間の中で「今」「ここ」にしかなく、一見誰にでもできる仕事でもそこに唯一性があるのかもしれません。

 

4. ともだち

 ヨハネは、「やりたいこと見つけたら、聞いてくれる?」とヨウとカナンに問いかけました。これは、ヨハネとヨウ・カナンがこの1日だけで友達になれたことを表しています。

 自分の夢、より広く言えばアイデンティティに関わることをさらけ出せるというのは、信頼の証です。とりわけヨハネは昔、自分が幼い頃から好きだった歌を否定され、それから人を信じなくなって、身の丈に合わない夢に篭もってしまったという経緯があります。それが、自分のことを誰かに聞いてもらおうと自分から言い出せたと言うことは、その傷は少しずつ癒えていると言えそうです。ヨウとカナンのオープンな性格のおかげもありますが、ヨハネの確かな成長を感じるワンシーンでした。もう4話と考えると、やや遅いようにも感じますが、1話から6日間しか経っていないので、例えば『ラブライブ! スーパースター!!』の駆け足の時間軸とは全く異なり、むしろヨハネは濃密な経験で急成長しているくらいです。

 友達といえば、チカもヨウもカナンもハナマルの友達でしたね。ヌマヅ全体のまとめ役であるダイヤにさえ、快く仕事場を見学させてもらえるほどでした。スクールアイドルの国木田花丸は元々どちらかというと内向きな性格で、あまり友達が多いイメージはなかったのですが、考えてみれば2人とも愛嬌と人望がある子ですね。特に、ひねくれてしまったヨハネにも親身に尽くしてくれる善性の塊のようなハナマルは、誰からも好かれること間違いありません。

 今回も挿入歌『R・E・P』が公開されました。歌詞をちゃんと見ていないので、タイトルの意味までは分かりませんが、それぞれの日常が詠み込まれたラップ曲のようです。ライブと戦闘曲に続いて、今度は日常が歌になりました。

 

5. ライラプスの秘密

 ヨウとカナン、ハナマルには「やりたいこと見つけたら、聞いてくれる?」と聞いていたヨハネですが、ライラプスには少し違うことを言いかけていました。

「宿題の答え見つけても、今度こそ……」

 しかしライラプスは肯定を返しませんでした。ヨハネが眠ったのを見て返した答えがこれです。

「ごめんね、ヨハネ

 またしても「昼」回の最後に不穏な引きが用意されてしましました。

 「今度こそ」なので、前にはヨハネの願いに応えなかったことがあったのでしょうか。カナンと直したブランコは、ヨハネライラプスの出会いの場所であるように描かれていました。しかし、ヨハネは「一人で寂しかった、忘れたかった」と言っています。他の人たちがライラプスと触れ合っている以上、ライラプスが存在していないというのは流石にない話です。しかし、ヨハネが成長するとライラプスも変わってしまうことを、ヨハネは感じ取っているのかもしれません。空を飛んでカナンのところに来た後、ヨハネライラプスの毛に顔をうずめていました。ヨウと空を飛んだ時、ヨハネは今まで見えていなかったものを見ることができました。ところが、それによってライラプスと離れて行ってしまう予感がして、不安だったのでしょう。

 ヨハネがまだ知らないほうがいい、ライラプスの真実が隠されているかもしれないのです。

 次回は、妖精のルビィと魔王のマリの話。つまり、「夜」に相当するファンタジーの話です。

*1:描かれていない日がなければ3日前