普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

たったひとつ残されたよすが ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑦『決戦! 生徒会長選』~

 『青天を衝け』*126話、良かったですね。仕えた徳川幕府も仲間の多くも失った篤太夫こと渋沢栄一が、亡くなったはずの尾高長七郎からかけられたのは、かつての自分の言葉でした。

 「生き残った者にはなすべき定めがある」

 それから約150年後の原宿にも、遺されたものの戦いがありました。同じNHKの日曜夜*2、『ラブライブ! スーパースター!!』を見てみましょう。

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あの日のふたり。今も消えない記録
(『ラブライブ!スーパースター!!』第7話『決戦! 生徒会長選』より/
©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!/配信URL: 

https://www.youtube.com/watch?v=mE6w_MaJy9k )

 

前回は幼少期の誓いを貫いた勇者の物語

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1. 志半ばに散った花

 4話の記事で重大なことに触れていなかったので、代わりにここで触れることにします。

 スクールアイドル同好会が屋上で活動していることに気づいた恋はそれが許せず、許可した理事長を詰ります。しかし理事長はぴしっと一言。

「努力しようとする者からその場を奪おうとするのは良いこととは思えません。そう言うと思いませんか? あなたのお母さんも」

 この不自然な台詞が引っ掛かったものの、当時の私は間違いを怖れて何も書けませんでした。しかし私の直感は正しかったのです。花がそう言うかどうかを確かめることができる相手に、このような台詞を言うわけがありません

 そもそも結ヶ丘を設立したのは葉月花だということになっています。だとしたら、理事長の椅子に座っているのも花であるべきではありませんか? これも1話では盛大に誤解しており、2話で訂正していますが、その不自然さを流して先に進んでしまった、その考察力不足を大いに恥じております。

 理事長がこのようなことを言った理由。そもそも花以外が学校を運営している理由。それは花がもうこの世にいないからに他なりません。今からこんなことを言っても後出しにしかなりませんが、これが答えです。

 花が亡くなったタイミングはおそらく結ヶ丘の設立が軌道に乗ってから開校までの間だと思われます。夢見ていた音楽の園の誕生を見ることなくこの世を去ったのです。花は信頼していた今の理事長に学校を遺しました。花が葉月家に置いていた神宮時代の写真には、今の理事長と思われる少女と腕を組んで写っています (トップ画像)。理事長にとっても花はおそらく特別な存在で、そのために思い悩むことになりましたが、ある答えを出しました。一方遺された娘の恋は勝手に母の遺志を継ぎ、母の思い出の学び舎を令和の時代に蘇らせようとしたのです。この違いが、学校、そしてスクールアイドルに対するスタンスで大きな摩擦を生みます

 

2. 遺されたもののなすべき定め

 遺された2人には、前に進もうとする理事長 (大人!) と、過去に縛られる恋 (子供!) という逆転した対比関係が見て取れます。

 恋の父も既におらず、母も亡くし、かつて栄華を極めた葉月家はもう見る影もありません。嘘のように使用人のサヤ*3が一人、屋敷の手入れと恋の世話をしています。まだ15歳の恋にとって、縋るものは学校しかありません。それも、結ヶ丘ではなく、母がかつて過ごし、懐かしんでいた神宮*4という思い出にです。神宮は既になく、その美しく神聖な思い出を再び作り出すことで、母も悔いなく天に昇れる、あるいは、母が戻って来るのではないかとまで妄想しているのではないでしょうか。

 しかし縋れば縋るほど、そんな幻想は逃げていきます。一度は廃校になった学校のことで、2期生の希望者数は決して思わしくなく、恋は恐らく学校のために受け継いだ資産を全部つぎ込んでしまったのでしょう、邸宅の中はがらんどうとなり、サヤにもお暇をあげてしまいました。恋の夢は学校の生徒、特に普通科には受け入れられず、選挙の公約と違うことを言いだした挙句、生徒たちの信頼も失ってしまいます。

 ところで、そんな状態の恋に対抗し、ふざけて (その自覚はないが) 立候補したすみれという蛮勇がいましたね。死んでも仕方ないくらいの行為だと思いますが、カリスマが皆無な上に恋が普通科に見向きもしていなかったことが幸いだったかもしれません。恋の夢の学校には、普通科はありません

 また、4話で存在が示唆された神宮の学校アイドル部は、廃校阻止に失敗したという説があります。花たちと関係があるかは今のところはわかりませんが、恋はスクールアイドルを中途半端で学校の役に立たない存在と見做し、その過去を受け入れてはいません。「格式高い神宮でアイドルなんて低俗なものを始めたばかりに評判が落ち、人気低下につながった」と、本気で思っているかどうかはわかりませんが……。

 ところで、葉月家の飼い犬は「チビ」という名前です。恋が小さい頃は確かにチビだったのですが、大型になる犬種だということは分かっていたはずです。今では女子高生に押し勝つほどの大型犬です。それなのに、名前は「チビ」のまま。それもまた、示唆的ではありませんか? まるで時計が止まっているかのようです。

 その一方で、花から学校を受け取り、前に進んだのが現在の理事長です。普通科を作ったのが花の遺志か、理事長の意向かはわかりませんが、音楽の家に生まれた者以外も音楽に触れることを奨励しています。それはまさしく「努力する者」の背中を押せる環境といえるでしょう。「特に音楽科の生徒は (歴史を) 引き継ぎ」(1話) のような言動はありましたが、追い詰められる恋の様子を見て、恋のためにも前に進む覚悟ができたのでしょうか。

 かのんがあれほど悔しい思いをしながら袖を通した普通科の制服は、実は神宮の制服とほぼ同じデザインです。普通科と音楽科の制服を分けようと思うなら、普通なら伝統ある音楽科に伝統の音楽科に、新しい普通科に新しい制服を割り当てると思います。しかし現実は逆です。それは理事長なりのバランス感覚なのか、それとも理事長は普通科こそがこの学校の肝だと思っているということでしょうか。

 

 母が遺したものは学校だけではありません。誰あろう恋自身が、母の愛を受け、遺された存在と言えます。学校は、恋だけが一人破滅することで背負えるものでもありませんし、そうすべきでもありません。

 なお、「遺す」ことについて、まだまだ考察したいことがあります。そこで、今回は臨時増刊号を出すことにしました。

 こちらも併せてお読みください。

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 千砂都は転科して、神宮以来の伝統制服である普通科の制服を着ることになりました。キービジュアルのように、あの制服を恋も着るには、おそらく転科することになるでしょう。理事長が肝いりにする普通科が、前に進む象徴であるとすれば、恋の今後の転科にも理由はつくかもしれません。私は、理事長の過去に囚われない学校運営が、あの日の笑顔溢れる学園を蘇らせるためだとすれば、それが花と理事長が交わした約束だとすれば……と想像してしまいます。そうだとすれば、恋が笑顔になることが、一番の花の夢の実現であるはずでしょう。

 最後に、『青天を衝け』の尾高長七郎の台詞を少し変えて、締めたいと思います。

「さぁ前を向け、恋。この先こそが、おぬしの励みどきだろう」

*1:NHK総合

*2:こちらはEテレ

*3:CVが花澤香菜さんで驚いた方も多かろう

*4:神宮音楽学