普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

いまを愛して、明日に恋しよう 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 6th Live! ~I love You⇆You love Me~ 感想

とにかく巨大なKアリーナ横浜


 1月14日 (日)、『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 6th Live! ~I love You⇆You love Me~』神奈川公演DAY2に行ってきました。

 2023年、前例のないキャスト交代を平和裡に成功させ、『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS』(『スクスタ』) を失いながらも、ショートアニメやOVAなどの他とは違う活動を多数展開してきたニジガクの、1年半ぶりのナンバリングライブです。ライブは「愛の交換」をテーマに、それらの要素をふんだんに盛り込んだ贅沢なものになりました。変わりゆく現実の中で、私自身も変わらない気持ちを見つけられるライブだったと思います。

 この記事では、ライブの軸となった5thアルバムと『ラブソングカーニバル』について考えつつ、ライブの内容に踏み込んでいきます。

 

 

セットリスト一覧

1. KAGAYAKI Don’t forget!

MC

幕間

2. チェリーボム

3. Cooking with Love

4. My Shadow

5. Waku Waku! Monday Morning

6. 5201314

7. 恋するSunflower

8. Request for U

9. 背伸びしたって

10. Feel Alive

11. Walking Dream

12. 私はマグネット

13. 小悪魔LOVE♡

14. Lemonade

15. 咬福論

16. New Year’s March!

17. Happy Nyan! Days

幕間

18. Go Our Way!

19. Just Believe!!!

20. Fly with You!!

アンコール

21. Love U my friends

22. Fire Bird

23. 決意の光

24. Toy Doll

25. TOKIMEKI Runners

26. 恋するMagic!!

27. わちゅごなどぅー

MC

28. OUR P13CES!!!

29. SINGING, DREAMING, NOW!

ダブルアンコール

30. Fly with You!!

 

1. すごいぞ! Kアリーナ横浜

 今回のライブ会場は、2023年夏にオープンしたばかりのKアリーナ横浜 (以下、Kアリーナ) でした。日本最大級の音楽ライブ専用アリーナで、20,000人という規格外の収容能力を持ちます。これを上回るのはさいたまスーパーアリーナや各種ドーム球場であり、どうしても音響面では妥協せざるを得なくなります。ところが、Kアリーナは音楽専用アリーナなので、その音響のレベルが驚くほど高いのです。ロアースタンドの最後方の奥まったところまで音圧が届き、大きい会場特有の遅延なども気になりませんでした。この形でこの規模というのは経験が無いので、脳が錯覚を起こしてステージがかなり近く見えてしまい、しかし実際にはけっこう遠いのでキャストはむしろ実際より小さく見えてしまうという、妙なことが起きていました。

 凄いのは、会場の施設だけではありません。ニジガクのために設営されたステージも、見たことがないほど豪華仕様になっていました。ステージの両脇には、なんと1人につき1つ、合計12個のバルコニーが、海外のしゃれたアパートのように積み重なって置かれていました。このバルコニーもステージとなっており、それぞれメンバーアイコンが割り振られ、一部の曲ではキャストが実際に自分のアイコンのところで歌い踊りました。

 Aichi Sky Expoで開催された愛知公演では、トロッコを使ったパフォーマンスがありましたが、Kアリーナにトロッコが通れる通路はありません。すると、演出の変更は不可欠になりますが、Kアリーナには客席の側、かなりの高所に大きなバルコニーが両側上下で計4箇所あります。『New Year's March!』ではステージに5人、バルコニーに2人ずつ計8人が入ってパフォーマンスをしていました。残念ながら、私の席からは左上のそれが死角となってしまいましたが、かなり近くから見えた人もいたでしょう。

 Kアリーナの魅力は、付帯設備にもあるといえます。トイレやコインロッカーの充実ぶりもさることながら、7階では本格的なバーが営業しているのは他の会場ではまず見られないものです。ラブライブ! シリーズでは開演前の飲酒が禁止されていますが、終演後にはライブの観客を迎え入れ、『翠いカナリア』を想起させるとして話題になった『翠』が飛ぶように売れたり、『繚乱! ビクトリーロード』などのニジガクの楽曲で大盛り上がりとなったり、大好評だったようです。

 ライブ側でも、会場の敷地を使って様々な企画を用意していました。筆頭は『ニジガクのど自慢大会』です。なんと当日飛び入りでファンがニジガクの楽曲を歌えるというもので、初日には近隣トラブルに発展するほどのフィーバーとなったようです。私が会場に着いたときには既に企画は終了していましたが、2日目は平穏無事に終えられたようで、参加者からは思い出に残ったという声が聞かれました。また、『あなたと私のニジガクラブレター交換!』という企画もあり、参加者とメンバーが往復はがきでラブレターを送り合う場として、メンバーごとに12個*1のポストが設置されました。

 

2. 二面性と愛と恋

 ライブの感想に先立って、今回のライブに向けて制作された5thアルバム『Fly with You!!』について触れておきたいと思います。「ラブソングカーニバル」に出演するため、全員がラブソングを作るストーリーが『スクフェス2』で展開されました。そして、アルバムも表題曲以外、12人のソロ曲がすべてラブソングという異例のものになりました。

 ラブソングというと、「愛の歌」とも「恋の歌」とも捉えられると思います。ただ、それらは同じシチュエーションに発生するものでありながら、愛と恋というものは時に矛盾するものです。

 簡単に言えば、好きだから自分を犠牲にしても相手に尽くしたいと思うのか、好きだから相手にたくさん求めたいと思うのか、そこに早くも二律背反があります。現状よりも相手を追い求める気持ちを「恋」と言います。それとの対比で言うならば、今の相手を受け入れる気持ちが「愛」です。言い換えれば、求めるエロースと与えるアガペー、でしょうか。

 これまでの『虹ヶ咲』の物語がずっと問い、答えてきたように、矛盾あるところにその人だけの答えが生まれ、個性が生まれます。6thライブでの「愛の交換」は、そうしてそれぞれのメンバーが導き出した自分だけの愛の形を表現し、私たち「あなた」の好きの気持ちに響くライブになりました。

 いくつか楽曲を見ていきたいと思います。わかりやすさで言えば嵐珠の『5201314』、せつ菜のチェリーボムはメンバーのイメージのど真ん中の楽曲だと思います。「恋はいつだって単純」、なはずがないと思っていても、嵐珠が言えばそうであるような気がしてしまいます。裏表が全くない嵐珠が心の求めるままに全てを解き放つ清々しさと魅惑の力を兼ね備えた曲です。演じる法元明菜さんについても、初めてパフォーマンスを見た4thライブの時点で既に心に響くものがあったにもかかわらず、2年間でまるで別人のような成長を見せています。本当のところはわからないものの、ライブを楽しめるようになったように見えるので、それが当時との違いかもしれません。

 『チェリーボム』は、狭い意味での恋愛の歌ではありません。『スクールアイドルの日常 私のラブソング編』で初めて見たときは、そんなのありなのかと驚きましたが、存在そのものが世界を大好きで埋め尽くすスクールアイドルである優木せつ菜にとっては、むしろこのスタイル以外に「ラブソング」はありえないということです。そして、演じる林鼓子さんにとっては、自身初の「オリジナル」ソロ曲です。昨年2023年の4月にせつ菜を引き継いだ林さんは、せつ菜との向き合い方に悩んでいたということを、今回の感想でほぼ初めて公衆の前で吐露しました。『チェリーボム』という曲を得て、パフォーマンスを作っていく中で、自分が「優木せつ菜」になればいいことに気づき、吹っ切れたといいます。楠木ともりさん時代にも近いことを言った気がしますが、まさにその「吹っ切れ」から放出されるエネルギーがせつ菜の力になっていると思います。

 同じようにアイデンティティをぶらさずに自分の恋愛観を明確に示しているのが璃奈の『私はマグネット』です。璃奈だけが、愛という特定の相手を想定してラブソングを作りました。同好会に入って、様々な感情を経験し、また学んだ璃奈ですが、愛にもらったものや愛に対して抱いている感情を振り返って、恋愛感情はこれに一番近いから「愛さんへのラブソングを作る」と言い切り、それを実行する璃奈の思い切りの良さが光ります。

 かすみの『背伸びしたって』としずくの『小悪魔LOVE』は、対になっている、というより双方のイメージが入れ替わっているように見えるのが特徴です。この2人は、お互いがお互いの持っていないものを持っているライバル同士です。好きな人に愛してほしいときに、かすみは「しず子みたいな素敵な女性」になれたら、しずくは「かすみさんのようなかわいい女の子」を演じられたら、それが叶うと思っているのです*2。それでいて、歌の内容はそれぞれのメンバー自身に徹しており、決して憧れていても自分が自分自身でしかなく、互いに「なる」ことはできないことを察せられます。

 ライブでは、相良茉優さんが『背伸びしたって』の大サビをしずくのバルコニーで歌っていて、しずくへの意識を感じました。

 自分の恋愛経験を歌にするわけにもいかない (笑)*3 スクールアイドルとしては、このように自分の好きな人や物事に置き換えたり、等身大の自分と向き合ってラブソングを作ることになります。それは他のメンバーにしても同じことです。その中で、私が気になったのが、歩夢の『Walking Dream』とエマの『恋するSunflower』の違いです。2人とも、「視線」と「記憶」という共通するコンセプト歌詞に盛り込んでいますが、2人の方向性はだいぶ異なります。『恋するSunflower』は恋人との思い出や、あるいは既に思い出の恋人を歌っている (『虹ヶ咲』の文脈で「観覧車」といえば、既に失われたものと考えられる) と捉えることもでき、たとえ離れても見つめあっているような、繋がっているような感覚を歌にしています。その一方で、『Walking Dream』はもっと近くにいる、あるいはいてほしい「あなた」に対して、あなたのことは全て覚えている、そしてずっと見つめているという内容です。これも、2人のスクールアイドルとしての姿勢の違いにかかわるところです。歩夢がスクールアイドルを始めるにあたり、まず始めに意識し、今も一番大切にしているのは、10 mも離れていないところに住んでいる幼馴染のことです。それに対して、エマはざっくり1万kmもの距離を隔てて、スクールアイドルへの憧れを育んできました。大切な存在だから常にそばにあってほしいのか、遠く離れていても大切さは変わらないのかという、スクールアイドル観がそのまま恋愛観に反映されています。それにしても、『Walking Dream』はものすごい曲です (笑)。ライブでの大西亜玖璃さんの迫真の演技に鳥肌が立ってしまいました。第一、曲名も名前そのままですし、Cメロの歌詞も「輝きもトキメキも切ないなんてWalking Dream」です。なんと、『TOKIMEKI Runners』『KAGAYAKI Don’t forget!』『Fly with You!!』などでも並べて使われるニジガクの2大モチーフが、歩夢に独占されてしまっています。

 

3. ラブをライブで

 一方で、歌ではあまり自分の欲を主張しない様子を見せていたのが、果林、彼方、栞子でした。彼方と栞子は相手への愛や思いやりの結果として、果林は自らの臆病さから、積極的に相手に求めることがない、あるいは求められないという曲になってしまいました。

 しかし、果たして本当にそれでいいのか、彼女たちがそう思っているのか、ライブで披露された『My Shadow』『Cooking with Love』『咬福論』を聴くと考え直さざるを得ませんでした。

 果林がなぜクールなのかと言えば、自分のことも周りのことも俯瞰して見がちだからです。自分の容姿に自信があるというよりも、客観的に見て優れていることを自覚してモデルを志したり、同好会でも皆が遠慮がちにする中で皆が望んでいることを言い当てたりという具合です。ライブのコール&レスポンスで演じる久保田未夢さんが周りを煽るような言動をしていたのも、実は自分がモテることをわかっているであろう果林の言動として違和感がないものです (それにしても、これまでに輪をかけてやかましいコーレスでしたね……)。

 『My Shadow』は、自分の弱さから恋に破れてしまうというシチュエーションから生まれた曲でした。普段の果林なら、自分のことが見えてしまうからこそ大人ぶって気持ちを隠して、そのせいで大切なものを手に入れられないかもしれません。でも、果林はスクールアイドルです。自分の気持ちを情熱的に表現できる方法を、もう持っているのです。久保田未夢さんの今回のパフォーマンスには、そんな裏の意味を感じ取ってしまうほど、感情がこもっていました。

 彼方は、確かに大切な相手のために自己犠牲を払うタイプではあります。妹の遥に対して、実際に自分が犠牲になってスクールアイドルを続けさせようとしたことがありました。それに対して、誰かの欲求を解放させることには実に長けています。歩夢にあんな歌詞を書かせたのも、実は彼方なのです。では自分の叶えたいことを解放することはできているのでしょうか? 『Cooking with Love』は、相手が幸せなら自分は何もいらないという歌です。しかし、愛するばかりで何も欲しない人にあの「ぎゅっとしてChu」ができるでしょうか。MCでもダメ押しでやっていたほどなのです。私にはそうは思えませんでした。たとえ「愛されたい」と思わなくても、「愛させてほしい」というのも、ささやかなようで強い願望だと思います。

 そんな果林や彼方の姿を見て、私たちには庇護欲という感情が芽生えます。少なくとも彼方に関してはそれを計算してやっているとは思えませんが、恋愛の格言に「押してダメなら引いてみな」とあるように、愛し方のみならず愛され方も人の数だけ正解があるように思います。

 栞子も、本当の感情と歌詞の間にギャップがある一人です。言葉では好きな人の負担になりたくないといいつつ、相手に咬み痕を付けるというよく考えるととても強い独占欲の表現を、極めてピュアに言い放つのです。曲作りが感情をが「隠す」方向であるにもかかわらず、結局ライブでは感情が溢れ出してしまうのが、流石の嘘がつけない「まっすぐ系」らしさです。今回は、この『咬福論』でも『OUR P13CES!!!』でもそうですが、小泉萌香さんが歌詞の一部をシャウトに変えるパフォーマンスをやっていました。もちろん、栞子を表現するために、栞子でもそうするという解釈に基づいたものではあると思うのですが、どこか楠木ともりさんを彷彿とさせるものでもありました。

 ラブソングカーニバルから生まれた12曲は、12通りの個性から生み出された愛の形をシミュレーションするようなセットリストでした。最後の『咬福論』まで終わったときには、まるで恋愛アドベンチャーゲームの全ルートをクリアした*4ときのような気分になりました。勝手にそんな想像をしていると、アンコールの情報発表で驚きの情報が明かされました。

 なんと、『虹ヶ咲』のビジュアルノベルゲームの発売が決定したのです。それも、サンプル画面は『スクスタ』のストーリー画面そのもの。ニジガクメンバーと一緒にトキメキを追いかけ続けた「あなた」が帰ってきます。

 

4. ニジガクの2023年

 今回のライブでは、5thライブから1年半が空いたことで、やるべきことが山積みになっていました。それらをひとつのライブとしてまとめることができるのかが、今回心配していたことです。昨年6月に公開されたOVA『NEXT SKY』、そして同じ6月に幕を閉じた『スクスタ』、さらに10月に発売されたアルバム『Fly with You!!』と、単独でもライブを構成できるような要素が渋滞していたのを、6thライブはどう処理したのでしょうか?

 蓋を開けてみれば、『Fly with You!!』のアルバムテーマである「愛の交換」が、一筋の軸になっていました。メインセクション20曲のうち13曲がアルバムの曲なので、実際そうならざるを得ません。そのためか、『NEXT SKY』の楽曲は、ライブ全体にちりばめられ、そのストーリーに準拠しない形となっていました。これは、シリーズの歴史の中でも初めての事態です。それによって、ライブ全体のコンセプトの散乱を防いでいたのです。2曲目のEDテーマ (!)、『Wawawa☆What’s up!』に至っては、披露されない公演があるほどでした。それでも、R3BIRTHの『Feel Alive』、全体曲『Go Our Way!』、そして特典曲にあたる1年生曲『Waku Waku! Monday Morning』と、一曲一曲のインパクトが強く、このセトリの中でも埋没することはありませんでした。思えば、ユニット曲に学年曲にセンター曲、そしてソロまである栞子・小泉さんの出ずっぱりぶりが印象に残るライブでもありました。

 千穐楽の情報公開で、『映画 ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編』3部作の制作、第1部の公開日が発表されました。今後も、アニメの世界から飛び出した楽曲が披露される機会が何度もあることを期待させてくれます。

 『スクスタ』については、ライブの一番冒頭で振り返りの映像と、事実上のエンディングである『KAGAYAKI Don’t forget!』の披露によって、お別れを告げる場が用意されました。サービス終了直前の記事にも書きましたが、色々な声があった中でも、みんな『スクスタ』のことが好きだったのです。そして、今度こそみんなに愛されるゲームとして帰ってくることを心待ちにしていたのです。その願いは、先述の新作ゲームの発表という形で叶いました。

『スクスタ』が好きでした

carat8008.hateblo.jp

 

 ニジガクの7年間の歩みは、何かを手放しながら、消えていったものが新たなものにバトンを渡して、何度でも始まる物語でした。『スクスタ』のサービス終了後には一時的に『スクフェス2』にニジガクのストーリーを任せつつ、裏で新ゲームを開発していました。ステージでの演技を続けられなくなった楠木ともりさんが林鼓子さんにせつ菜を託したのも、言うまでもなくそれです。アニメも「完結編」とは銘打っていますが、新しい未来へのバトンを、なにか用意しているに違いありません。そう、あの歌詞のように。

「どこかで 沈んでく夕陽が ほら また どこかで昇るよ」

 愛知と神奈川で変化する「いま」を歌うことも忘れません。12月のクリスマス直前 (DAY2はクリスマスイブ) だった愛知公演ではQU4RTZの『Twinkie Town』のほか、『サンタが町にやってくる』を披露し (ニジガクの単独ライブでのカバー曲の披露*5は、知る限り初)、クリスマスという恋人たちの季節を演出しました。一方、年が明けた神奈川では、発売前の新曲『New Year's March!』を披露しました。こちらは、新年の歌というより、1年の12ヶ月を12人のスクールアイドルに見立てた曲で、1年間365日*6どんなときもスクールアイドルが「あなた」とともにあるという歌詞です。大好きなニジガクメンバー12人に12ヶ月がそれぞれ (見事に全員誕生月とは異なる月)、また月ごとの風物詩が割り当てられ、今年もきっといい年になると確信させてくれるものでした。先述した通り、この曲では客席近くのバルコニーが使われました。視点がメインステージとバルコニーを行ったり来たりして、これから始まる目まぐるしい1年を想像させるくらい、目が忙しかったです。ところで、この曲は『日本全国酒飲み音頭』に似ているような気がします。ネット上でも同じ意見が見られました。一見不適切なたとえのように思われますが、実は『日本全国酒飲み音頭』は外国人に日本の風物詩を覚えてもらうために作られた曲です。もし仮に、『New Year's March!』も似たような背景で作られた曲だとすると、国際色豊かな虹ヶ咲学園の姿を反映したものと言えるかもしれません。

 それだけでも新年を祝う歌だったところ、もう1曲『Happy Nyan! Days』が使われました。それも、新年バージョン (Happy New Year! Days) に替え歌されての披露でした。元々は公募で選ばれた「猫の日の歌」として制作されたはずの曲ですが、いつのまにか新年の歌になっていました。この「なんでもあり」ぶりには流石に笑ってしまいましたが、猫だから仕方ありませんね。最後には、A・ZU・NA以外のメンバーも全員、猫耳を付けて登場しました。そして、『一月一日』をバックに13人が新年の挨拶を行い、1月1日に投稿された挨拶動画の再現となりました。

 ところで、R3BIRTHには『NEXT SKY』関係で出番があり、クリスマスと新年の歌でそれぞれQU4RTZとA・ZU・NAの出番がありましたが、そうするとDiverDivaが何もしないのか、という点が気になってしまいました。すると、アンコールでDiverDivaの『恋するMagic!!』が披露されました。ラブソングメインのライブとしてはこれ以上ない選曲でした。ここで村上さんを射止める久保田さんは、『My Shadow』とは対照的に、大人ぶっていないときの、大胆な果林の姿そのものでした。

 

5. ニジガクはいつまでも

 実は、ニジガクのライブに行くのは「今回で最後」のつもりで参加していました (あくまで「つもり」で、ひとつのシナリオのようなものです)。これは、コンテンツが長く続き、シリーズも幅広くなっていく中で、それぞれとの最適な付き合い方を考える必要を感じたためです。そんな中、『異次元フェス』で念願の『哀温ノ詩』を聴くことが叶ったのを機に、毎回ライブに参加するのが当たり前ではない気持ちで参加してみようと思ったのです。もちろん、ライブという場が用意されるのも決して当たり前のことではありませんから、これは全くの大嘘というわけでもありませんし、金輪際ライブ現場から引退すると言っているわけでもありません。

 その気持ちで臨んだ『恋するSunflower』で、私はライブにおいては今までないくらい大粒の涙をぼろぼろこぼしてしまいました。私の推しは、過去の思い出になった恋を大切にしてくれるし、私自身もそれをいつでもいつまでも思い出すことができると教えられた気がしました。『虹ヶ咲』アニメ2期では、「距離が離れたって、押してくれた手の温もりは残る」という彼方の台詞がありました。ラブライブ! に教えられたことを胸に走りだそうとするとどうしてもラブライブ! から離れて行ってしまうというジレンマに、ニジガクは既に答えを出しています。

 とはいえ、最後のつもりで臨んだからこそ、「その続きを」知りたいという気持ちも、より強く抱く結果になりました。運命に翻弄されながら、その時その時の形でトキメキを追いかけてきたニジガクのように、どんな形でもニジガクを応援することはできると思っています。今回発表された映画『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編』も、キャストたちからは「終わり」ではないことが強調されています。考えてみれば、1年間を描く物語が年明けを迎え、『NEXT SKY』が1月の物語であることもわかっていたので、3年生にとって残された時間はわずかで、どのように卒業していくのか気になっていました。この映画も3部作が予定されていますので、まだまだ『虹ヶ咲』の物語を見られる贅沢さを考えれば、寂しさを感じることはありません。アニメ作品があるということはライブも開催されます。余裕さえあれば、見に行くのだって本当は自由であるはずです。大西さんがかねてより掲げていた「単独東京ドーム」という夢を叶える姿を見たいという気持ちも、消えたわけではありません。

 

6. 愛を伝えて生きよう

 まだまだ未来が希望に満ち溢れているニジガクと、実際に想いの交換ができる時間がアンコールです。今回は、これまでの「集大成」のような姿が見られました。まずは、今回1stライブ以来4年ぶりに観客が「アンコール!」を叫べるようになったのが1点目です。ちなみに、ラブライブ! シリーズではアンコールの時にグループ名やユニット名を呼ぶという定番がありますが、「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」と「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」はグループ名ではないため、普通に「アンコール!」となります。メンバーたちを待つファンの目の前に現れたのは、「アンコールラブメーター」でした。無観客の2ndライブなどで、アンコールの一体感を醸成するために採用されたメーターが、満場のアンコールの声によって再び貯まり始めました。途中、エマが貯まったハートを「食べてしまう」*7という迷演出もあり、会場はより盛り上がっていました。

 アンコールではショートバージョンも含め9曲も披露されて、みんなで作った『OUR P13CES!!!』、そして『NEXT SKY』のEDテーマ『SINGING, DREAMING, NOW!』で締められましたが、退場して暗転した直後、再び2万観衆から声が上がりました。誰が言い出したかわかりませんが、このときの声は「アンコール!」ではなく「もう一回!」でした。決まった形ではない、本心からの必死の叫びのように感じられました。その通常とは異なる様子に私の血も沸き立ち、このダブルアンコールに全身全霊で乗っかりました。ダブルアンコールは何度あっても、特別なものであることに違いありません。

 ニジガクの13人は、帰ってきてくれました。

 『Fly with You!!』の大合唱は、きっとこれからもずっと覚えていることでしょう。キャストの13人もダブルアンコールならではのフォーメーションや振付を崩したスタイルで私たちの声に応えてくれて、心と心が繋がったのを感じました。2回目にして最後のサビの転調はこれまでに音源で聴いた、あるいは1回目の披露で聴いたときよりもはるかに壮大に聴こえました。この「壮大さ」もニジガクのライブの魅力だと思います。『虹ヶ咲』には、自分の「好き」や誰かの「好き」に向き合うという普遍的なテーマがあります。1人の女の子が、様々な関わりの中で理想の自分だけでなく、1人を超えたところにある理想の世界を目指す力が、12個、さらに言えば、それを応援する「あなた」という現実の主人公とも重なり合ったときにだけ生まれるのがニジガクの全体曲であり、そのためそれぞれが宇宙に通じるほどの力を持っているのだと私は思います。ニジガクのライブのクライマックスには、他のシリーズ作品と比べてもトリップ体験のような瞬間が毎度のようにある気がします。

 いまを生きる生身の「あなた」を想い、その存在を真っ直ぐに受け止めるのが「愛」なら、まさにこの『Fly with You!!』が演者にとっても、私たちにとってもその体現となりました。その半面、叶うかわからないけれど、まだ見ぬ未来で「あなた」を求める、止められない気持ちも、このライブを通して付いて回っていました。口先でこれで終わり、などと言っていても消えなかったその気持ちは「恋」にも近いものではありますが、あえて呼ぶなら「夢」なのでしょう。

*1:侑にラブレターを送ることはできない

*2:もう2人でくっつけばいいのに

*3:もっとも、私たちの考える「アイドル」のイメージとはかけ離れてしまうものの、そういう本当に赤裸々で等身大なスクールアイドルも存在するのかもしれない

*4:筆者は遊んだことがないが……

*5:シリーズ全体では『MTV Unplugged Presents LoveLive! Superstar!! Liella!』がある

*6:なお、今年2024年は閏年

*7:愛知公演では、かすみがメーターを転倒させていた