普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

「大好き」の海の向こうへ…… 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 UNIT LIVE! ~A・ZU・NA LAGOON~ 全曲感想

入口付近のモニターに映し出された、青い世界への案内

 新しい「大好き」の楽園が誕生しました。

 2023年2月4日 (土) 開催虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 UNIT LIVE! ~A・ZU・NA LAGOON~』のDay1に、『R3BIRTH R3VOLUTION』(以下、単にR3BIRTHと書いてこのライブを指すことがある) に引き続いて参加してきました。また、Day2も後で配信を観ることができました。

R3BIRTHの感想

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 今回のライブは、かねてより発表されていた楠木ともりさんの優木せつ菜役としての引退公演となりました。また、公演2日前の2月2日 (木) に、ラブライブ! シリーズのライブでも原則全公演で声援が解禁され、早速この公演も対象となりました。これらのことから、シリーズの歴史の中でも大変重要な位置づけとなってしまった公演ですが、それらの文脈に塗りつぶされることなく、皆の夢を詰め込んだテーマパークを作り上げてくれました。

 

 

1. ステージ目の前の衝撃

 今回指定された席は、「アリーナOブロック3列」でした。R3BIRTHのライブの時の座席表を思い浮かべました。あのときもアリーナでしたが、Oブロックが前後左右のうちのどこに当たるのだろうかと想像しました。ラブライブ! のライブでは、アリーナにアルファベット順の記号が付けられておらず、当日までどの席になるのかわかりません。

 入場すると、小さな紙チケットがもらえました。ノベルティでしょうか。座席表を見たところ、OブロックはNブロック・Uブロックはなんとステージ最前の3列しかないブロックでした。入れればいいとさえ思っていた会場で、こんな良席になろうとは、驚くべき幸運です。私は昨年、「夢の国」の夜のステージで自由観覧の勝手を全く知らなかったためスペースに入ることができず、「完全見切れ」で観覧していましたが、そのときの席運をここで取り返したかのような気分でした。

 入場前にフラスタを見学します。今回はやはりというべきか、楠木さんに宛てられたものが極めて多く、展示室の天井の色も相まって、空間が真っ赤に染め上げられていました。見学者も長い行列を作っていたため、一つ一つをじっくりと見ている時間がなく、後で眺める用に各々写真に収めていました。

ここでは「大好き」の色は赤

 入場すると、明らかにこれまでのライブと雰囲気が異なっていました。どちらかといえば、初めてライブに行った頃と同じ空気です。それもそのはず。先に入っていた観客たちが、始まる前から告知映像に呼応したり、ただ感情が高まったりして、それぞれに声を上げていたのです。そこで私は、声が出せるということが、ただ声が出せるというだけのことではないのだと気づきました。観客たちの手やブレードの動き、さらには会場の空気そのものが、より熱気を帯びたものに変わるのです。

 R3BIRTHの時と同様、5thライブBDの告知映像が流れていましたが、あのときと違うのは曲に合わせて皆がコールを入れていたところです。そのときはもちろん声出し禁止だったので、それを取り戻すかのように、5ヶ月前のニジガクメンバーを懸命に応援していました。楠木さんの降板は、まだ当人たちしか (あるいは、当人たちすら?) 知らない頃ですね。このように「何でも声を合わせて楽しむ」というのが、オタクの本来の姿でした。未披露曲である『わちゅごなどぅー』にも、早くも「ヒトリダケナンテエラベナイヨー!」のコールが成立していました。

 私にとって、声出しありの公演に現地で参加した回数は4回、声出しなしの公演は11回 (『スクールアイドルミュージカル』を含む) と、気づけば後者の方がはるかに多くなっていました。それゆえ、まだ慣れないかなと思いつつも、最後に声出しで参加したGuilty Kiss 1stライブを思い出しつつ、ついにこの時が来たのだと感極まりました。声だけで聴けば決して綺麗なものではないと思えるラブライバーの歓声で泣く日が来ようとは思いませんでした。

 ステージは海底風に装飾され、珊瑚や貝殻があしらわれていました。ちょうど映像でBDの告知が行われていたCYaRon! 2ndライブも同じ海底モチーフでしたが、それよりもやや控えめな装飾に見えました。

 

2. 大歓声を浴びて開演!

 R3BIRTHのときと同じく、キャスト本人による場内アナウンスが始まりました。今までなら、息遣いや台詞を噛んだときくらいしか、それが肉声なのか収録なのかを見分ける方法はありませんでした。しかし、今回は違います。注意事項に会場の皆で元気よく返事をすると、キャストがそれに応えてくれたのです。今までもステージの上と下でのコミュニケーションはありましたが、声を届けられるということはなんと素晴らしいのでしょう。舞台の裏からしずくが「よしよし」してくれるのです。

 オープニング映像が流れました。今回のライブがどういう場なのかは、私も心得ているつもりです。ファンの歓声を聞いて、過去に戻ったつもりでも、時間は戻ってはいません。むしろ、前に進んだのです。

 「この時がついにやってきた」と「やってきてしまった」が同居する思いでステージを見つめていると、大歓声に包まれながらA・ZU・NAの3人が現れました。

 この時点で、私は『Blue!』が1曲目だとばかり思っていました。ところが、かかったのは違うイントロ。衣装も新衣装ではありません。一瞬頭が混乱しましたが、もう3年ぶりとは思えないほどの声援が沸き起こっていました。始まったのは、『Infinity! Our wings!!』でした。アニメ2期6話で、困難を乗り越えて漕ぎ着けた、第2回SIFのオープニングの曲です。1曲目がライブの表題曲やOPテーマでないのは、なかなかのレアケースです。私が現地参加したライブでは、『What a Wonderful Dream!!』ではなく『GOING UP』*1始まりだったLiella! 2ndライブくらいのものです。この謎は、後から解けることになります。

 「胸がぎゅうっとなって不安だった この景色を知るまでは!」という歌詞は、まさに今このときの心境そのもので、このときのために書かれたのだと錯覚するほどでした。彼女たちにとっては最後の声出し公演だった『ラブライブ! フェス』以来3年間あまり、声援が聞けない中でコンテンツを展開していくのは、絶えず不安があったはずです。随分時間はかかりましたが、満を持して声援で迎えられたニジガクのメンバーもキャストも、その間に大きく成長しました。

 この曲の1番では、3人がフォーメーションを組んでダンスしています。4th・5thライブでは、楠木さんがフォーメーションに加わるパフォーマンスは避けられていたはずですが、よく見ると楠木さんを軸に、歩夢役・大西亜玖璃さんとしずく役・前田佳織里さんが回ったり、前後に動いたり、全体の動きに躍動感を出していました。この三位一体のフォーメーションは、まさに2期6話で1人で抱え込めない想いを繋いで、スクールアイドルフェスティバルを実現したストーリーと重なります。

 オープニングセレモニーが終わると、いよいよ ”A・ZU・NAランド” が開園します。『Dream Land! Dream World!』『Cheer for you!!』と続きました。これらの曲は2ndライブが初披露です。楠木さんが動ける頃にできた振り付けなので、大部分で楠木さんは座ることになります。今までならステージの階段などに腰かけていましたが、今回座ったのはステージセットの珊瑚の上でした。美少女がここに座るとまるで人魚姫のように見えます。このセットは、座ることまで計算し尽くされているといえます。テーマパークとは、アトラクションだけでなく、装飾の細部にまで物語が宿るように計算しつくされたものです。ところで、人魚姫は自分の脚を手に入れたのと引き換えに声を失ってしまいました。もしせつ菜を人魚姫だとすると、悪いほうの意味深に思えてしまいますが、今はそのことは考えないでおきます。

 『Cheer for you!!』で、皆が楽しみにしていたのは、やはり「A! Z! U! NA!」コールだと思います。3年間沈黙していた (もちろん、自宅やカラオケボックスで有料生配信を使って声を出していたことでしょうが) 私たちの喉も、3曲でウォーミングアップが完了したように思います。

 曲が終わってMCに入ると、キャストの水分補給の時間も兼ねているのですが、昔から水を飲んでいるキャストに「お水おいしー?」と訊く謎の風習がありました。何につけてもキャストと会話したがる貪欲さに見えますが、3年ぶりのこの日は、なんとこの発言を大西さんが自ら煽っていました。このような光景はコロナ前は見られなかったもので、キャストもどのようにコールの文化を復興するか模索しているように見えました。ただ言ってほしかっただけかもしれませんね。

 それから、コール&レスポンスに移りました。久々の、本来の意味でのコール&「レスポンス」です。これまで、ここが一番やりづらかったところだと思います。発声なしのライブにいくら慣れても、ここだけはこの日声を出せるまで物足りないままだったところです。

 

3. 七変化、繋がるストーリー

 ここからも、A・ZU・NAの曲が続きました。激しい重低音と共に繰り出されるのは『Maze Town』です。しずくがセンターの曲ですが、私としては目の前に来た大西さんの表情に注目したいところです。ほかの2人が、どちらかというと妖艶なゴーストになっている中、表情からも動きからも、「生気」が消えていたのです。振り付けも確かに無生物的に思える直線的な動きが多いですし、照明も顔色を消すような寒色なのですが、それ以上に表情でゴーストになっていました。流石は「ホラーハウス担当」です。そういえば、A・ZU・NAランドのゴーストは本物という設定がありましたね。しかし、これは大西さんの、歩夢のすごさのごく一部に過ぎません。

 次の曲もしずくセンターの曲続きで、打って変わって『ロマンスの中で』でした。2期BDの特典曲で、正直なところ馴染みは薄かったのですが、『Dream Land! Dream World!』における「ホラーハウス」の次の「シアター」で上映されている恋物語を題材に、感情移入という物語の魔法を描いています。3人とも、この急激な世界観の変化を乗りこなし、いつの間にか切なさを帯びた乙女の表情に変わってしまいました。ここからは、3曲続けての特典曲ラッシュとなります。

 物語へのときめきを心に持ったまま、シアターの外に出れば、私たちの日常という物語が広がっています『Kakushiaji!』は、日常の中のひとときを描いたA・ZU・NAとしては異色の曲です。ファンミーティング (『A・ZU・NA The Night Before』。以下、単に「ファンミ」はこのことを指す) など、以前の披露でもそうでしたが、大きなタバスコの瓶や食器など、面白い小道具がたくさん飛び出し、見ているだけで愉快になる演出でした。これらを運んでいた黒子も、給仕姿で気取っているようでした。一緒に料理を作るというシチュエーションで、友達を想う気持ちと自由な発想さえあれば、日常の1ページもまるでテーマパークのように変わってしまうのでしょう。綺麗に見栄えする星形のニンジンがシチューに入ったのは、せつ菜が「タバスコ」というむちゃくちゃな提案をしたおかげなのです。せつ菜がファーストペンギンであるという立ち位置が現れていると思いませんか。

 さて、お腹いっぱい食べた3人は、猫に「変身」してしまいました。不思議がいっぱいのテーマパークがA・ZU・NAランドです。3人 (3匹?) とも満面の笑みでの、『Happy Nyan! Days』の披露でした。否、猫になってしまったのは3匹だけではないかもしれません。客席からも、「にゃー!」というコールが聞こえてきました。いつの間にか私の喉もゴロゴロ鳴いていて……*2。オタクがにゃーにゃー鳴くのを聴きに来たわけではありませんが、8,000匹の猫ちゃんというのも悪くはないかもしれません。猫は、自由な生き物ですから。

 冒頭からここまでの7曲は、まさに『七変化』を楽しみながら、前後の曲の繋がりをストーリーとして味わえる、テーマパークらしいパートでした。

 

4. トキメキの水を湛えて

 3人が退場し、幕間アニメが始まりました。

 実は、今回のユニットライブの幕間は、ユニット3rdシングル*3のドラマパートの続編になっています。R3BIRTHのトキメキキャニオンもそうでしたが、失念していました。

 ドラマパートでは、A・ZU・NAランドを運営するA・ZU・NAの3人が、同好会メンバーがテーマパークでしてみたいことを叶えるべく、新しいアトラクションだけでなく、A・ZU・NAランドに次ぐ新たな「大好き」の楽園、A・ZU・NAラグーンの建設を決めます。幕間アニメは、その施設がほぼ完成して、リハーサルと告知を兼ねたプレオープンを行う、というところから始まりました。入口でもらったチケットは、この劇中にも出てくるプレオープン用のチケットだったのですね。

 この幕間アニメの最大の特徴は、客席参加型であるということです。歩夢・しずく・せつ菜の誘導に従って、それぞれの座席に相当するカラーを振って、ストーリーに参加することができます。私は歩夢チームのライトピンクでした。観客が実際にテーマパークを体験できる、粋な仕掛けです。ドラマパートで同好会メンバーから出た「知的なゲーム」「探検」などの要素を反映した宝探しや謎解き脱出などの現代的な体験型アトラクションが並ぶ、楽しそうなテーマパークができました。ところが、A・ZU・NAラグーンに、意図せず「水」が流れ込んでしまいます。この「水」の謎が、この先のセットリストで解き明かされます。

 R3BIRTHと同じく、最初の幕間の後がソロパートでした。トップバッターはしずくで、曲は『エイエ戦サー』です。4thライブで一度聴きましたが、この曲はなんといっても「コール曲」なのです。つまり、今回初めて完全な形になったともいえます。「ホ戦サー!」のコールが綺麗に揃っただけでなく、前田さんと一緒にブレードで「素振り」をすることができ、会場は一体になっていました。

次はせつ菜の『CHASE!』でした。おそらく今回、誰もが聴きたかったソロ曲だったのではないでしょうか。期待を裏切らない実直なセットリストです。この曲の間奏では、楠木さんはいつも全力で客席を煽ります。これまでもそれで大いに盛り上がりはしていたのですが、完全な形で応えることはできず、もどかしい思いを重ねてきました。しかし、そんな日々はもう過去のものです。私たちにも、楠木さんの「本気」に応える声帯があるのです。

 この曲最大のハイライトは、言うまでもなくラスサビの全力シャウトです。全力、と書きましたが、毎度全力の100%以上のところから迸る声のエネルギーが私たちを魅了していました。今回は、息が絶えそうになるほど、楠木さんの存在そのものが声になってしまうのではないかと錯覚するほど、振り絞るように叫んでいました。さしずめ「1000%」というところではないでしょうか。ただ、これは本人にとっては「失敗」という認識だったようで、Day2では今までで一番の、完璧なシャウトを決めていました。

 会場を沸かせた一曲からどう繋ぐのかと思えば、歩夢のソロ曲は『Break The System』でした。3連続でぶち上げ曲が続いています。本当に声援が解禁されることを知らずにセットリストを作ったのか疑わしいくらいです。この曲に関してはお決まりのコールがあったり、演者が観客を煽ったりするわけではありませんが、Bメロや間奏では自然と声が出ます。

 『CHASE!』以外は4thアルバムからの選曲となりました。せつ菜だけ、楠木さんのために『CHASE!』を選曲したというのが通説のようですが、むしろ私には、『CHASE!』をやることを前提に、その前後を盛り上げを保ったまま接続できる曲がこの2曲だったからだと思われます。あるいは、4thアルバムといえば『校内フィルムフェスティバル』の楽曲で、時代劇とSFで2人とも「戦い」をテーマにした歌なので、戦っているのは1人ではないということを伝えたかったのかもしれません。

 引き続いて、アニメのソロ曲に移りました。しずくの『Solitude Rain』、せつ菜の『DIVE!』と続きます。『Solitude Rain』では雨が降り注ぎ、『DIVE!』では海に深く潜ります。モニターに映し出された雨の質感がリアルすぎて、本当に会場内に雨が降っているのではないかと思ってしまいます。後述しますが、これらの「水」の描写こそ、A・ZU・NAラグーンに流れ込んだ水について考えるヒントとなっています。

 『CHASE!』に続き、『DIVE!』でも、楠木さんは間奏でマイクを観客に向けてくれました。間奏の「WOW WOW」のところを一緒に歌わせてくれたのです。8,000人の大合唱は、それはそれは気持ちの良いものでした。この曲は本来、せつ菜がかなり激しく踊る曲です。ただし、初披露時から楠木さんのパフォーマンスには制限がかかっており、完全なシンクロをすることは難しい状態でした。その中でできることを模索し、披露の度に表現を磨いていたと見えて、歌唱に振り付けの分の表現まで乗っているかのようでした。

 私は、Aqours 3rdライブで初めて声優のステージを観ました。そのときに、現地でパフォーマンスを観ることの素晴らしさを教えてくれたのが、鞠莉役の鈴木愛奈さんでした。『New Winding Road』で、歌の力に自分よりも大きな背格好の鞠莉を宿して歌っていたのを見て、声を武器にする「声優」が生身でパフォーマンスをする意味を知りました。ただ、声だけでせつ菜を演じることに満足しなかったのが楠木さんなのも事実です。

 アニメ『虹ヶ咲』ではあちこちで水が登場します。誰かの「大好き」を遮ってしまうことを恐れて自分の「大好き」を封印しようとしたせつ菜は、自分の中に湛える水の中に飛び込み、向き合いました。本当の自分を隠し続けてきたしずくは、かすみの「雷鳴」の一撃で目を覚まし、降り注ぐ雨の中自分の姿を露わにしました。一方、大胆で自由闊達に見えながら、心に本当の憧れを隠していた嵐珠の「水」は、煌びやかな水槽の中に閉じ込められていました。何より、皆の「大好き」が溢れる世界を描写したアニメ1期のOP映像では、侑の足を浸すほどの水位から始まって、しまいには虹ヶ咲学園の校舎が水没しています。この作品における「水」は、心に閉じ込めておけない大好きな気持ちや、夢、トキメキを表しているといえます。

 『DIVE!』からの流れを受け、ソロパートの締めを担当したのが、歩夢の『Awakening Promise』です。先程のパートで大西さんの七変化を見てきましたが、この曲の歩夢は「あなた/侑の幼馴染」です。先程の猫でも見せたことのない、優しくも力強い笑顔です。そういえば、侑はアニメで歩夢のことを「表情がころころ変わって可愛い」と評していました。歩夢自身も気づかないうちに、このポテンシャルに昔から気付いていたということでしょうか。当の歩夢は、幼馴染にしか見せてこなかった表情をたくさんの人に見せることで、成長するほどに侑だけのものだった自分がいなくなってしまうことを恐れていたはずです。1期終盤の展開は嫉妬だけが原因ではないのですが、その一片を見た気がしました。

 

5. A・ZU・NAラグーン開園!

 2度目の幕間アニメに入りました。海水が流れ込み、海の生き物たちが迷い込んでしまったA・ZU・NAラグーンを、3人と一緒に修復するところから再開します。観客の持っているブレードが、「伝説の工具」になり、今回も観客参加型で展開されました。A・ZU・NAの3人は「えい! えい!」と掛け声を出しているのですが、ファンの一部は明らかに「エイ! エ戦! サー!」と言っていました (笑)*4

 しかし、先程考察した通り、A・ZU・NAラグーンに流れ込んだ海水は、皆の中の大好きや夢です。実は3人とも、アニメ1期では同じようにそのトキメキの水を封じ込めていました。あるいは大切な人から離れていくのを恐れ、あるいは理想から程遠い自分を恥じ、あるいは誰かの道を遮ることを恐れて、です。しかし、その水もまた、3人の創り出す世界を彩るものです。同好会メンバーの強いプッシュを受けて、3人はもう一度水路を開き、A・ZU・NAランドにたくさんの生き物を招き入れます。今度はブレードが「伝説の鶴嘴」になりました。仮に声が出せなくても皆の応援を力にしてくれているいうことです。

 そもそも、テーマパークとは誰かの夢を形にしたものではありますが、そのために徹底的に作りこまれたものです。野生の動植物のように偶然紛れ込んだものを受け入れることは本来なく、作り手の意図したものだけで出来上がっています。しかし、皆のやりたいことを実現するために作られたA・ZU・NAランド/ラグーンはそれでは不十分なのです。偶発的にでも誰かの「大好き」が侵入してくれば、それもA・ZU・NAラグーンの一員として受け入れてもらえるのです。ただし、その際にアトラクションとして生まれ変わっているのは、テーマパークへの忠実さではないかと思います。

海の世界を表現したテーマパークのイメージ (2022. 11. 17)

 ついに、A・ZU・NAラグーンが開園しました。演者が再び現れ、『Blue!』が始まりました。舞台袖からは無数のシャボン玉が飛び出し、会場を海の世界に変えました。私のところにもたくさん飛んできて、泡沫と戯れることができました。

先程から黒子として登場していたバックダンサーも、水路を通ってやってきた海の仲間たち*5に扮して、マーメイドショーを繰り広げます。この青い世界では、「マーメイドも微笑む」というのです。珊瑚に座る人魚姫に力をくれるものが、A・ZU・NAラグーンに集まる「大好き」だというのなら、それが最初の人魚姫に対する考察に対する答えだといえるかもしれません。

 この歌は、困難も乗り越えて自由な世界へ漕ぎ出したことを祝福する歌ですが、それはライブ環境も同じことです。急に声出し公演が実現しましたが、これで完璧に文脈に乗りました。

 開園を迎えたA・ZU・NAラグーンで、『Dancing in the Light』『Poker face &お願い! Fairy』と続きます。『ロマンスの中で』が映画の中のラブロマンスを歌った歌なら、この2曲は現実の恋です。胸躍る気持ちや届きそうで届かない恋心を歌ったこれらの曲は、誰かの「大好き」であり、またそれはテーマパークで繰り広げられる人間模様でもあります。現実のテーマパークにも、それ自体が大好きで来ている人もいれば、意中の人にどうアピールしようかと心をざわつかせている人もたくさんいます。「好き」には、別の「好き」を引き寄せる力があります

 この後のMCでは、『Blue!』の新衣装の紹介が入りました。すかさず観客席から上がった声がありました。

「回って~!」

 今や、キャストと直接コミュニケーションを取ることさえできます。

 ここのMCでは椅子が用意されなかったので、短めなのかと思っていると、途中3人でシングルのジャケットのようにぴったり並んで、珊瑚の上に座っていました。そして、3人でハート型を作っていました。この珊瑚から立ち上がるとき、前田さんの衣装の裾がヒトデの装飾に引っかかってしまいました。このヒトデが、翌日の伏線になるとは思ってもいませんでした。

 A・ZU・NAのユニット曲全11曲は、あと1曲でラストとなります。『フォルクロア ~歓喜の歌~』がその1曲です。体言止めが多めの歌詞は、歌声がそのままテーマパークのオブジェクトとなり、それが自由自在に配置されて目にも賑やかな光景を思い起こさせてくれます。サビを皆で歌えて、幸せな気持ちになりました。

 「命あるものここに集まれ」や、「生まれてきてくれてありがとう」という歌詞は、ファンミの時はゴーストに対して歌われていました。明らかに生きていないものに対して、その存在を両手で受け止めているように感じました。一方、今回は海の生き物たちを歌っています。生き物の身体のほとんどは水でできていて、そういう意味で生き物はすべて海から生まれ、海へと還るといえます。トキメキも、皆の「大好き」や夢を集めたこの「海」から、また新しく生まれていきます。そうして生まれた全ての光り輝く存在を祝福するのがこの歌、ひいてはA・ZU・NAというユニットのやってきたことです。

 本編最後の曲は『Love U my friends』でした。この曲は一緒に頑張ったキャストとメンバーが互いに、そしてライブを一緒に盛り上げた「あなた」へ感謝するという意味合いからか、本編ラストに来がちです。ラスサビでは、R3BIRTHのユニットライブから復活した銀テープが発射されました。大量の銀テープをシャワーのように全身に浴びるという経験をしたのは初めてです。いくつも持って帰ることはできましたが、結局1本だけお土産にしました。

 この曲が終わると、3人はあっさりと退場していきました。

 周りから、ぽつりぽつりと手拍子が……ではありません。声が聞こえてきます。今や、「アンコール」を叫べるのです。その事実だけで、また目頭が熱くなりました。そうと決まれば、私も大好きを叫ぶのみです。ところで、私は現地ライブ参戦がAqours 3rdからで、その時には独特の「Aqoursコール」が成立していました。ニジガク1stと『フェス』は現地に行けずにコロナ禍に突入したので、現地で「アンコール」という言葉を叫んだのは、今回が初めてでした。ただ、その翌日は……?

 

6. 最後で最初の虹の「いま」

 A・ZU・NAが帰ってきました。曲は『Just Believe!!!』です。R3BIRTHの『ミラクルSTAY TUNE!』同様に、スクスタMVが映し出されました。否、それだけではありません。使われているのは12人版のMVですが、A・ZU・NA以外の9人の声も収録されています。通常ならば、3人版に歌割りし直されるところですが、モニターのスクールアイドルたちと一緒に歌っているのです。つまり、ここだけA・ZU・NAではなく「ニジガク」のライブとなっているのです。『Just Believe!!!』は、初めて無観客配信となった2ndライブを代表する曲で、それが東京ガーデンシアターでの初公演でもありました。同会場で、5thライブ <Colorful Dreams! Colorful Smiles!> 公演では12人版が披露されていますが、今回は初めて12人全員に向けて声援を送ることができたのです。初めてではありますが、開演前の告知映像で皆練習をしていましたし、今までも配信などで各自声を出していたのもあってか、コールは綺麗に揃っていました。この曲のこの演出が、まさに楠木さんを含む今しかない12人に声を届けるために用意されたのだとしたら、声援解禁ありきの演出といえます。

 とはいえ、ここで疑問が浮かび上がります。政府がイベントの人数などの制限を撤廃したのは1月27日 (金)。それからわずか8日間で、声出しありきの演出を仕込むことができるでしょうか? 前々から出ていた「コロナ5類移行」の報道を見ながら、いつ出してもいいように準備していたのでしょうか。この件に関する立場は色々あるかと思いますが、ラストチャンスに間に合ったのは純粋によかったと思います。

 一人ずつの感想は、比較的さくっと、短時間で終わりました。確かに、Day1は翌日もあるので軽めになる傾向はあります。

 このライブ、最後の曲に選ばれたのは、始まりの曲、『TOKIMEKI Runners』でした。この曲のコールは、当初から声を出せただけあり、そして会場のボルテージが最高潮に達しているだけあって、完成されていました。昔からの「fwfw」の動きをしている人もいれば、そうコールしながら振りコピめいたことをしている人もおり、激動の時代の中で輝いたニジガクの歩みが現れていました。

 本当の最終日である明日への期待を含んで、3人が退場し、物語は幕を閉じました。

 幕を閉じた、と思ったのですが、R3BIRTHでも登場した例のお兄さんが現れ、もう少しだけその世界観を楽しむことができました。このお兄さんは「#規制退場ニキ」と書かれたバインダーを持っていました。それだけでなく、ステージ中央のゲートから、最近『虹ヶ咲』とコラボしている東京臨海高速鉄道のキャラクター・りんかるが出現しました。まさかのゲストの登場、そしてりんかるのぬいぐるみや猫耳を持っている参加者を優先退場させるというまさかのトークによって、会場を出ていく人たちも熱気に包まれたままでした。

りんかるがキャラクターを務める東京臨海高速鉄道の車両 (2020. 1. 18 池袋)

 

7. 「大好き」溢れる世界 ~Day2一言感想~

 チケットは取れず、スケジュールさえ合いませんでしたが、どうしても楠木ともりさんの優木せつ菜としての最後のステージを見届けたく、Day2は配信・アーカイブで参加することにしました。

 今回は、Day1とDay2でセットリスト変更は「無し」でした。正確には、『Infinity! Our wings!!』が3曲目に移動、またアニメ楽曲 (『Solitude Rain』・『DIVE!』・『Awakening Promise』) が先になるようにソロパートの曲順が入れ替えられていましたが、組み合わせは同じです。それだけA・ZU・NAの世界観が完成されているということです。3年ぶりに声を出せて羽目を外そうが、今回でお別れになるキャストがいようが、「大好き」の楽園が、いつでも「大好き」の楽園であるように、作り手も演者も振る舞ってくれたのです。

 Day1のときから「もしかして」とは思っていたのですが、Day2のアンコールでは、「A・ZU・NAコール」が誕生しました。確かにAqoursと母音が同じなので叫びやすかったのではないでしょうか。ラブライバーにはわかる、大好きな存在の名前を何度も何度も呼ぶことで生まれる一体感というものがあります。

 Day1で前田さんの衣装に引っかかったヒトデですが、これには続きがあります。Day2では、この位置にあった装飾が引っかからないホタテ*6に変えられていました。その一方、大西さんが着ている歩夢の衣装にもヒトデが付いており、最後のMCの最中に気を引くように取れ、最後には大西さんから楠木さんにヒトデが手渡されました。ところで、楠木さんの公式Twitterアカウントにおいて、楠木さん本人によるツイートには (☆) マークが付いています。関係はないはずなのですが、私には、楠木さんが2日間表に出さず、しまい込んでいた名残惜しさのような気持ちが、ヒトデ (☆) を動かしているように見えてしまいました。

 そんな楠木さんが表に出さなかった、しかし大切な思いを受け止めたのが、一番最後のMCでした。特に、大西さんは2代目せつ菜役*7にも触れたり、次にユニットライブをするDiverDivaに言及したりするなど、ニジガクキャストのリーダーの自覚を感じる発言をしていました。『TOKIMEKI Runners』の最後でも、大西さんに抱きしめられて前田さんと楠木さんがようやく涙を流せたところでは大西さんに母性を感じ、まるで閉園する遊園地から、名残惜しそうに、また来たいねと語り合う家族のようにも見えました。最高の笑顔でパフォーマンスされた、楠木さん最後の『TOKIMEKI Runners』だけは、本当は現地で観たかったと思ってしまいました。

 楠木さんに皆がかけた最後の言葉、それは「さようなら」でも「ありがとう」でもありません。どうして楠木さんがせつ菜役を辞めると聞いたときにあれほど辛かったのか。どうしてそんな中でも想いを乗せて開園したテーマパークに皆が集ったのか。それを考えれば答えは明白です。

「大好き!」

 せつ菜の野望は、世界を「大好き」で溢れさせること。楠木さんの夢は、皆の心にあかりを灯すこと。2人とも自らの夢をその名に背負い、その想いは5年半の間重なり続けてきました。この瞬間、確かに世界は「大好き」で溢れていました。涙でいっぱいだった人々の心は、まぶしく照らされていました。2人の夢はこれからも続きますし、別々の形では会うこともできますが、ある形で2人の夢が叶ったということを、伝えずにはいられなかったのだと、画面越しにもわかりました。終演後、再び戻ってくることはなくとも、A・ZU・NAの名前を何度も何度も呼び続けていたのも記憶に残ります。

 楽しいテーマパークの思い出は、きちんと持ち帰らなければなりません。魔法が解けたら、せつ菜役の楠木さんはもう戻ってこないのだと、湿っぽくなってしまいそうなところに、「規制退場ニキ」が現れました。しかも今度はりんかると一緒に、なぜかゴーグル・シュノーケル・フィンを付けた奇抜な格好でです。ともすればブーイングを受けるかもしれず、出てくるには相当の度胸を必要としたと思いますが、幸いにも、というより楽しい思い出を残していった以上は当然かもしれませんがラブライバーがそのようなことをすることはなく、「規制退場ニキ」の助けもあって、楽しい気持ちのまま会場を後にすることができたようです。

 

8. 総括 フェアリー・レイズは永遠に

 今回のライブは、A・ZU・NAラグーンの「プレオープン」でした。それでは、いつ「グランドオープン」するのでしょうか?

 ラグーンとは、「浅瀬」です (ラグーンに浅瀬ができてしまっています、という矛盾した台詞もありましたが)。その先には深い海、つまり無限の自由が、大好き溢れる世界が、青い青い未来があります。今回私たちが見たのはその入口に過ぎません。私たちが望めば、またグランドオープンした「大好き」の楽園にアクセスできると思いますし、その先には本当の青い海の世界が広がっているのだと思います。チケットはその胸のトキメキです。

 楠木さんとせつ菜は、常に一番前を走って、特に今回はA・ZU・NAとして3人と3人で、そんな世界に繋がる扉を開けてくれました。

 5年半、改めてありがとうございました。

 楠木ともりさんが、せつ菜で、菜々で、A・ZU・NAで、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会で本当によかったと思います。大好きです。ライブはありませんが、あと2ヶ月弱の活動も応援させてください。

 

セットリスト一覧

1. Infinity! Our wings!!

2. Dream Land! Dream World!

3. Cheer for you!!

MC

4. Maze Town

5. ロマンスの中で

6. Kakushiaji!

7. Happy Nyan! Days

幕間アニメ

8. エイエ戦サー

9. CHASE!

10. Break The System

11. Solitude Rain

12. DIVE!

13. Awakening Promise

幕間アニメ

14. Blue!

15. Dancing in the Light

16. Poker face &お願い! Fairy

MC

17. フォルクロア ~歓喜の歌~

18. Love U my friends

アンコール

19. Just Believe!!!

MC

20. TOKIMEKI Runners

*1:大阪公演は『Shooting Voice!!』

*2:流石に盛ったが、「猫コール」したのは本当

*3:R3BIRTHは2ndシングル

*4:ホ戦サー!

*5:ゴーストに手伝ってもらうとも言っていたが、まさか彼女たちがゴーストではないはず……

*6:当然、コタツの誤用ではない

*7:既に決定しているのだろう