普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

卒業、そして「重なる」想い ~ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ… 感想~

ウルトラマンデッカー最終章』のポスター (2023. 1. 3 『ウルトラヒーローズEXPO』会場)

 2023年2月23日 (木・祝) にウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ…』が公開されました。今回も昨年の『ウルトラマントリガー エピソードZ』同様、『TSUBURAYA IMAGINATION』を通じた円谷プロ自主配給映画となっています。

 ウルトラマンの、とりわけニュージェネレーションの映画としては異色の映画である今年の物語の注目ポイントは、言うまでもなく人間ドラマです。強いとか弱いとかではなく、ただひたむきに守ろうとすることにウルトラマンらしさを見出した、ある意味「振り切った」作品です。

 ライブなどで忙しかったため鑑賞できたのは3月21日 (火・祝) になりました。自宅でも観られましたが、初鑑賞は映画館にしたかったのです。そのため、感想記事も大幅に遅くなりました。もしまだご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、ネタバレになりますのでご注意ください。

TV本編の感想はこちらから

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昨年の映画『エピソードZ』

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1. 隊員たちの進路、迷うカナタ

 本作は、GUTS-SELECT隊員たちの旅立ち、言い換えれば「卒業」あるいは「親離れ」を描く物語です。GUTS-SELECTは軍隊の一部隊で、学校でも家庭でもないのですが、それを卒業劇にするのは、ウルトラマンR/B』をホームドラマとして完成させ、劇場版で子どもたちの独り立ちを描いた武居監督の得意技といってもよいでしょう。もちろん、カナタたちは子どもではなく、現場で命懸けで戦う社会人なのですが、司令室で見守り、ときに現場に出て共に戦ってくれるムラホシ隊長とカイザキ副隊長は父と母のような存在でした。家庭的で、仕事でも部下にも丁寧な態度で接する「父」と、専門性を持って職場で活躍する「母」と考えると、湊家の両親とも通ずる現代の家族観を見て取れます。

 そんな「少年少女」たちに、旅立ちの日が近づきます。彼らの背中を見て後輩たちも育ち、人を見て冷静な判断をするのが得意な「見つめる天才」リュウモンはGUTS-SELECTの隊長に、子どもの頃からパイロットを夢見続けていた「まっすぐの天才」イチカは外宇宙探査の乗組員に、それぞれ進路を決めていきました。一方、目の前の現実に立ち向かい、邁進し続ける「努力の天才」カナタは、進路で迷ってしまいます。未来の見えない時代、ある意味一番難しい生き方なのかもしれません。

 悩むカナタのもとに、空から女の子が……!

 

2. 最弱? ウルトラマンディナス

 本作の予告編で大々的にアピールされていた新ヒーロー、ウルトラマンディナス。やはり映画のウルトラマンということもありますし、昨年悪役として大暴れしたイーヴィルトリガーや、TV本編でカナタのデッカーより目立ったデッカーのデッカーの前例もあり、どんな目覚ましい活躍をするのかと思いきや……。

「あれ、弱い……」

 初戦では、過去 (『トリガー』の時代) に強化個体と戦ったことがあり、人類も知っている怪獣キングジョーを前に、フィジカルでほぼ圧倒されてしまっていました。もちろん、初登場時はセブンすら押し負けた強い怪獣なので、これに負けたから弱いということはないのですが、映画のウルトラマンとしては珍しく、どうも強いウルトラマンという印象がないのです。

 それもそのはず、ディナスの種族であるラヴィー星人は戦いに向いた身体をしていないのだと、物語の後半で明かされました。ウルトラマンに変身した地球人以外の宇宙人はそれほど多く登場していないので、種族の身体能力がどれほどウルトラマンに反映されるのかはよくわかりませんが、少なくともカナタやデッカーに比べてディナスが物理戦闘を苦手にしていることは確実です。変身していないときはなおさら苦しそうで、追ってくる異星人に弄ばれているような状態でした。

 その代わり、ラヴィー星人の生き物と意思疎通ができる能力がディナスを支えます。テレパシーでディナスと話した生き物はディナスのウルトラディメンションカードに記録され、ウルトラマンのときはその能力を使った技を出すことができます (デッカーの怪獣カードは怪獣召喚に使うので、やや仕様が異なりますね)。ウルトラマンディナスは自ら光線技を持たず、ゼットンの火炎を必殺技に使っていました。あの冷酷な怪獣兵器であるゼットンと話し合って力を借りている姿を想像するとなんとなくシュールですし、この子はすごい交渉能力を持っているのではと感じてしまいます (笑)。

 劇中では、スズメたちから地球の異変についての情報を聞き、スズメのディメンションカードを作っていました。どう考えても戦闘能力のなさそうなカードを大切にしまっておくあたりには、ディナスの人柄の良さが出ていると思います。

 ディナスの弱さを補っている、もっと重要なものがあります。それは、意志の強さです。そもそもウルトラマンディナスは、命を守りたいというディナスの想いに応えたウルトラマンダイナから分け与えられた力から誕生したヒーローです。振り返ってみれば、生まれながらにしてウルトラマンだったケンゴや、ひょんなことからウルトラマンになってしまったカナタ、元は不純な動機で力を盗んだイグニスと比べると、実に順当なきっかけでウルトラマンになった存在といえます。とはいえ、どんなきっかけで、どんな力を持っていようとも、そこにある命を全力で守ろうとすることは共通していて、彼ら彼女らが皆ウルトラマンであることに違いはありません。特に、弱くてもひたむきに戦おうとするディナスこそ、本作らしいウルトラマンなのかもしれません。

 

3. 重なる命 ~デッカー誕生の秘密~

 本作のラスボス、ゾゾギガ星人プロフェッサー・ギベルスの操るギガロガイザとの戦いで、テラフェイザーに搭乗したカナタは、ウルトラマンディナスを庇って死亡します。

 死亡します。*1

 これには衝撃を受けました。カナタが死んでしまえば、デッカーのいる未来に繋がらないではありませんか。そもそも主人公が死ぬということ自体が驚き……と言いたいところですが、『ウルトラマン』のハヤタは第1話でウルトラマンと衝突して死ぬので、これに驚いていたらウルトラマンファンから怒られるかもしれません (笑)。しかし、死ぬことがきっかけのそれとは異なり、今まで半年間応援してきた主人公が命を落とすことには、ショックを受けてもよいと思うのですが……。

 そのハヤタよろしく、カナタの場合も、結果から言えば命を落としたことはきっかけになりました。

 慟哭することしかできないGUTS-SELECTメンバーとは裏腹に、ディナスは諦めていませんでした。カナタのもとに現れたディナスの表情は、この映画の誰よりも格好良かったと思います。先程弱いと繰り返したのをすべて撤回しなければならないほどの芯の強さを見せていました。私はこのシーンで、先程挙げたハヤタとウルトラマンの、あるいは昨年映画館で観た神永とリピアーの場合よろしく、ディナスが自らの命を擲ち、カナタに託すのかと思ってしまいました。しかし、ディナスとGUTS-SELECTの仲間たちが起こしたのは、それ以上の奇跡でした。皆の想いがディメンションカードになり、それがディナスのカードに重なって、未来へ帰ったはずのデッカーのカードに変わりました。それが呼び出したのか、ダイナの力でカナタは蘇り、再びウルトラマンデッカーへの変身を果たしました。

 テレパシーでディメンションカードを作れるディナスですが、テレパシーでは知的生命の思考を読み取ることはできないと言っていました。それは、知的生命の思考が複雑だからです。では、もし知的生命の思考の中に「単純」なものがあればどうでしょうか。単純なものとは、すなわち守りたいとか、生きてほしいといった、強く純粋な願いです。ディナスは、そういうものを力に変えることはできたのです。

 リュウモンがカナタのことをよく「単純野郎」と言いますが、単に貶しているということはなく、そういう熱い想いを行動に変えられるという意味で、リスペクトして言っているのではないでしょうか。

 英単語の "deck" は船の甲板やカードのデッキを意味し、ゆえに "decker" は「ダブルデッカー」のように積み重なっているものを想起させます。この「積み重ね」を、TV本編は「努力を積み重ねる者」と解釈しました。それに対して、『最終章』では「想いが重なる」ことで誕生した戦士だという解釈が提示されました。

 それにしても、ディナスをウルトラマンにしたり、ディナスを通して死んだカナタを蘇らせたり、ダイナも十分すぎるくらいに "チートラマン" になりましたね。実際にはどちらもそれぞれの中に宿る「光」が起こした奇跡なのですが、あたかもダイナがやったように見えるのが面白いところです。

 

4. 大人になる孤独

 先程、ムラホシは父、カイザキは母のようだと書きました。しかし、人には大人になる過程で、父や母に何も聞かずに行動しなければならない時が来ます。『最終章』では、それはギベルスにより基地が乗っ取られたことで、強制的に訪れます。

 隊長職が決まっていたとはいえ、孤立無援の中で突然指揮を執ることを余儀なくされたリュウモンは、自信を失って撤退を指示してしまいます。こんなとき、ウルトラマンとしてたった一人で戦っていたカナタなら、果敢に立ち向かっていたのでしょうか。大人にとって、自分の役割を果たせるのは自分だけです。それが責任というものです。違う役割を与えられた他人は一見完璧にそれをやってのけ、自分の不安には気づいてくれないことも多いのです。そういう意味で、大人は孤独です。

 しかし、孤独なことは、独りぼっちであることとイコールではありません。なぜなら、皆孤独だからです。人には一人一人違うやるべきことがあるけれど、同じ想いを共有できれば、一人の力だけでそれをする必要はありません。「少なくとも4人いる」という言葉が胸に響きます。さらに、「少なくとも」であって、大人になれば、閉ざされた世界から飛び出し、思わぬ仲間と協力しあうこともあります。早くも全員捕らえられて窮地に陥ったリュウモンたちを救ったのは、TV本編で味方だった異星人たち、グレースとナイゲルでした。彼らにはギベルスが地球人を昏倒させるのに使った音波が効かなかったのですね。彼らのように、スフィアに覆われていた時代に帰宅難民になっていた異星人もいますが、スフィアが倒されたことでたくさんの異星人と交流ができるようになりました。ギベルスのような悪意を持った存在もやってきますが、ディナスのように、名前も知らない異星人に対して真心を示してくれる人と、これからも出会えるかもしれないのです。

グレース登場回

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ナイゲル登場回

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 カナタが選んだのは、その道でした。つまり、イチカたちと一緒に外宇宙に飛び出し、まだ見ぬ星々で困っている人たちを守るという、「大人」として、あるいは「ウルトラマン」としての人生です。

 スフィアがコロナ禍のメタファーであることは、本編の感想でも何度も指摘したとおりです。この映画は、コロナ禍を人生の中の割合において、私たちよりも何倍も長く経験し、閉ざされた世界で生きてきた子どもたちに対して、外の世界に飛び出し、たくさんの人々と出会ってほしい、その人々と共に困難を解決してほしいというメッセージだったのです。

 

5. 堅実な特撮

 さて、ここまで『最終章』のストーリーを見てきましたが、特撮の面ではなかなか特徴的なところがあります。ウルトラマンが、回想シーンのダイナを含めても、全編を通して3人しか出てこないのです。しかも、誰も一度もタイプチェンジしません。大体何人ものウルトラマンが次々にタイプチェンジして戦うようになりがちな映画の作劇ですが、ディナスという新しいウルトラマンの活躍や、GUTS-SELECTのメカ、とりわけ久々に味方側に帰ってきたテラフェイザーの戦いぶりなど、見せるものが多いためか、ウルトラマンの描写はあえて抑えられています。ストーリー的にも、カナタが最後の最後までウルトラマンデッカーに変身できないため、デッカーの出番は全編の中でわずか7分足らずという、主人公ウルトラマンとしては前代未聞の少なさです。それでも物足りないということがないくらい人間のドラマが厚いですし、それだけでなく特撮もしっかりとしていると思います。

 TPU基地上に現れる実験要塞艇ゾルガウスが、きっちり「模型の浮き方」をしていたところに感動しました。もちろんハイクオリティのCGもよいのですが、『ウルトラセブン』の伝統を受け継ぐ由緒ある宇宙船なのだと感じることができました。

 

6. 今年のウルトラマンは……?

 配信限定パートの最後の最後に公開された予告映像で、新たなウルトラマンのシルエットを見ることができます。

特異点のその先に 宇宙を貫く丹碧の螺旋 舞い翔がる闘志 CODENAME ULTRAMAN

 ハードSFを思わせるバックの台詞、そして新戦士が「赤と青」のウルトラマンであることがわかります。

 今年は円谷プロ60周年にして、『ガイア』25周年、『ギンガ』10周年。その両作品が過去にとらわれない斬新なものであっただけあって、新しさを前面に押し出した作品の予感がします。

*1:大事なことなので2回言いました