普門寺飛優のひゅーまにずむ

好きなものについて不定期に語ります。

伝説の再演。その行く末は…… ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑫『Song for All』~

 7月から始まった『ラブライブ! スーパースター!!』もついに最終回を迎えました。身も蓋もないことを言えば、予選である都大会が残った状態で、話数は残り1話となると、結果は多くの視聴者にとって予想のつくものとなってしまいます。となれば、その結果を納得行くものにしながら、視聴者にも共感できるものにしなければなりません。どのような最終回が用意されるのでしょうか、と思っていたら、予想もしないものが飛び出しました。

 その「予想もしないもの」に疑問を抱いた方も多いと思いますが、ここでは私なりの考えを提示しましたので、ぜひお付き合いください。

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どこか懐かしい、オレンジ色の光の海
(『ラブライブ!スーパースター!!』第12話『Song for All』より/
©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!/配信URL: 

https://www.youtube.com/watch?v=QURySUaPmHQ )

今回も最終回目前に、作品を通した「答え」が提示された

carat8008.hateblo.jp

 

1. 再演・心のメロディ

 都大会の開催日程は12月25日、つまりクリスマス。ライブの時間は夜で、当日の天気は雪。ライブ当日、メンバーたちが困っていると、今までLiella! を支えてきた学校の生徒たちが花道を作り、そこを駆けていくLiella! の5人。そして街で一番の通りにきらめくイルミネーションの中でライブを披露する。

 以前から『ラブライブ!』シリーズが好きな方なら、ここまでで『Snow halation』を連想しない方はいないと思います。むしろ、そうとしか見えません。

 しかし、ここで疑問が生じます。神宮音楽学校を卒業し、結ヶ丘を創った葉月花の想いを8話で受け継ぐと同時に作品としてシリーズの精神を受け継ぎ、11話では今までの作品がたどり着けなかった、「みんなだから叶えられたこと」を超えた地点に辿り着いたのが『ラブライブ! スーパースター!!』です。なぜここまできて、過去作の焼き直しのようなことをしているのでしょうか

 最初に断っておくと、『Snow halation』のステージは当然として、『Starlight Prologue』のパフォーマンスも極めて高い水準にあります。歌もダンスも、ステージ作りも含め、全員1年生で予選突破に肉薄できたのは相当のことです。それだけを見れば、決して今回のライブで『ラブライブ!』2期9話*1の格が下がることはありません。

 しかし、これでLiella!が予選を突破することはありませんでした。あえて既視感のあるものを制作することで、ファンも「これでは2020年代ラブライブ! には勝てない」と納得すると同時に、皆が好きな演出で勝利が叶わないことで悔しさを共有できたのではないでしょうか。生徒総出でメンバーたちにプレゼントを贈り、5人が眩い光の中で歌うのには熱いものが込み上げてきて、勝ってほしいと心から思うとともに、しかし逆にこれで勝ったら流石に「丸パク」過ぎて引いてしまうなと、複雑な感情にさせられましたが、それほど絶妙な演出だったと思います。

 歌はLiella! らしく、また「独唱」というテーマに合わせてソロの歌声を響かせ、リレーするような内容でした。独唱ということで余談ですが、各タイトルの1曲目*2の中で、ソロで始まるのは『始まりは君の空』だけです。

 では、『Snow halation』ことμ'sの冬大会地区予選*3と『Starlight Prologue』ことLiella! の都大会の決定的な違いは何かと言うと、前に進むための夢を持っていたかということで、これはラブライブ! シリーズが常に大事にしている点です。μ'sにとっての勝つ意味は「卒業して去ってしまう3年生に最高の花道を用意する」ことでしたが、Liella! のリーダーであるかのんにはそれがありませんでした。むしろ、直前で皆の前で歌を届けるという一番の夢を叶えてしまい、大舞台に前向きながら内心では燃え尽きたようになっていました。前作で「ラブライブ! なんて出なくていい!」をやった以上、改めて戦う意味を提示することは不可欠です。

 そして、敗北はその夢が生まれる瞬間でもありました。ラブライブ! に勝つことは、最高の舞台のプレゼントをくれた生徒たちへのお返しであると同時に、挫けても歌の力を信じ続けていたかのんにとっては、歌の喜びを学校中にできた仲間に、もっと多くの人に届ける最高の方法だと気づいたのです。

 

2. 新学期の始まり

 12話は「2期頼み」とも言われます。1クールの終了としては締まりが良くないという意味です。とはいえ、「2期頼み」は過去作にしてもそうです。『ラブライブ!』1期ではそもそもラブライブ! での戦いが描かれず、『サンシャイン!!』1期でも大会の結果を描いていなかったり、1期最終回は何かを描かずに終わることが多いものです。最も綺麗に完結した『虹ヶ咲』最終回ですら侑の転科試験の結果を明かしていません。今回は、戦いの結末を描いた反面、Liella! としての到達点が中途半端に感じたのは否定できません。それでも、前回「私を叶えた」かのんが、今度こそ勝ちたいという想いを胸に挑む次のラブライブ! は、もっと素晴らしい「夢」の物語になる確信があります。

 ところで、『スーパースター!!』は1期で1年間を描いてしまったので、2期があればかのんたちの学年は2年生に上がることになります。今まで主人公はずっと2年生だったので、1年生時代の物語は長い長い「プロローグ」のようにも思えます。1年生しかいなかった結ヶ丘に、初めての後輩がやってきます。今までのように2クールで1年ではないことからは、新しいことをしたいという制作側のチャレンジ精神が見て取れます。そもそも原宿を舞台に選んだのも、あえてラブライブ! やアニメ文化と馴染みの薄い場所だからでしょう。2年目は、かのんが皆を導いていく立場になることでしょう。

 この学校は、平然と2年目を迎えられる保証はありませんでした。学校の維持を助けたのは、Liella! が有名になったこともあり、入学希望者数が増えたこともありますが、思わぬ援軍の存在がありました。姿を消していた恋の父です。

 8話の考察で恋の両親は離婚していたのではないか、と記しましたが、この男は妻である花の夢だった学校に、海外から多額の寄附を行ったのです。学校に反対していたのでは? と思いましたが、実はそうではなかったのかもしれません。 (以下、妄想です) 恋を見てもわかるように、その母の花も、想いを独りで抱えて自分を追い詰めるタイプでした。自分で自分を追い詰め、次第に笑わなくなっていった花を見かねて、「だったら学校なんて作らなくていい!」のようなことを言ったのかもしれません。本当は花に笑顔で、幸せでいてほしかっただけなのに、それが原因ですれ違っていた母と父。父もまた、夢を持って海外へ出て仕事を始めます。妻の訃報を聞き、結局妻を助けられなかったことがさぞ悔しかったでしょう。お金を送ってきたということは、しかし父の事業は軌道に乗り、夢の一部は叶っているのだと思います。

 父は自分のやり方で、花のことを守ろうとしていたのかもしれません。しかし、それは『スーパースター!!』の物語の中では汚れ役にならざるを得ないやり方でした。この作品中では、理事長や千砂都のように、どんなことがあっても夢を持つ人を信じ、それに身を捧げるやり方が「正義」だからです。

 

3. 総括 ~私を解放するのは私~

 『ラブライブ!』シリーズは「解放」の物語です。早くに子供でいられなくなった人は限られた時間の中で少しだけ子供に戻れ、未熟な少女は少しだけ大人に手を伸ばすことができる、そんな時間の中で輝きに近づいていく物語です。

 『スーパースター!!』では、その解放を、自分の手で成し遂げること、また大事な人のそれを力強く信じ続けることが描かれました。最初の一歩は誰かとの出会いが踏み出させてくれるけれど、最後の一歩は自分だけで踏み出すのだと、かのんの歌が教えてくれました。千砂都はそんなかのんのことを強く、時に厳しいほどに信じました。可可は、自分の持たない力を持つすみれに嫉妬しながらも、いざとなればすみれを信じ、すみれに尽くしました。最初の頃は皆の間は高い壁に阻まれていましたが、その正体はそれぞれの強すぎる想い故でした。それを少しでも知ること、言葉や歌で伝えること、そして信じること。どれにも勇気が必要で、勇気が足りないときには、歌が力をくれました。

 最後に、過去の感想週報を一覧にまとめてみます。最初の頃の考察は今見ると間違いだらけですが、私にとってはいろいろなことを思い出せるものです。

NEW GENERATION LOVELIVE! ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報①『まだ名もないキモチ』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

諦めるな、限界を超えろ! ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報②『スクールアイドル禁止!?』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

観客とは光、命の灯火 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報③『クーカー』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

主人公力と「地上の星」 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報④『街角ギャラクシー☆彡』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

最後1秒に全部持っていかれた ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑤『パッションアイランド』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

ヒーローと私 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑥『夢見ていた』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

たったひとつ残されたよすが ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑦『決戦! 生徒会長選』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

学校の創設者・葉月花 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報臨時増刊号~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

希望の花が実を結ぶとき/自由と勇気のルール ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑧『結ばれる想い』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

私「が」叶える物語 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑨『君たちの名は?』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

殻を破ったプリンセス ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑩『チェケラッ!!』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

私を叶える物語 ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑪『もう一度、あの場所で』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

伝説の再演。その行く末は…… ~ラブライブ! スーパースター!! 感想週報⑫『Song for All』~ - 普門寺飛優のひゅーまにずむ

 興奮冷めやらぬ10月30日にはLiella! の1stライブが始まります。年末のカウントダウンライブを含めると11週間連続でのライブという怒涛の中に、成長したLiella! の姿を見ることができると思います。

 そして、4月から今度は『虹ヶ咲』の2期です。こちらもメンバーが増えて楽しみが何倍にも膨らみますね。当ブログでは感想週報も予定しています。

*1:『心のメロディ』。『Snow halation』が披露され、μ'sが予選を制した

*2:ほかは『僕らのLIVE 君とのLIFE』『君のこころは輝いてるかい?』『TOKIMEKI Runners』

*3:『スーパースター!!』の地区予選より高次のステージ